糖尿病による足切断を防ぐために 病診連携の足病専門施設が誕生
年間3千人の糖尿病患者が足切断
糖尿病は下肢切断原因の第一位
糖尿病の足壊疽(えそ)による足切断は、非外傷性の切断原因の第一位で、年間約3千人が足をなくしているという。足の切断に至った患者は寝たきりになる人も多く、1年生存率は透析患者で52%。5年になると約80%以上が死亡、透析を受けていない人でも5年で約6割が死亡するという報告もある。
一方、透析という面からは、糖尿病腎症の重症化が原疾患の第一位(44%)を占めるという現状がある。国際糖尿病連合(IDF)によると、病期が軽度のものを含め、糖尿病患者全体の約3分の1が糖尿病腎症を発症しているという数字もあり、糖尿病がある人すべてが合併症予防への意識を高める必要があると言える。
1年生存率 | 5年生存率 | |
---|---|---|
透析患者 | 51.9% | 14.4% |
非透析患者 | 75.4% | 42.2% |
(Aulivola B, et al. : Arch Surg 2004; 139(4): 395-399.より引用改変)
一般診療では"足まで診きれない"
足病変は、ほんの些細なことから始まる。外的要因による潰瘍(キズ)の発症原因の約7割は「靴ずれ」で、やけど(19%)、外傷(7%)、感染症(3%)と続く。糖尿病があると神経障害で足の感覚が鈍り、「靴ずれ」に気づかず放置した結果、潰瘍になり、壊疽に発展することもある。
糖尿病の3大合併症の中でも、糖尿病神経障害は最も早い時期に現れるので、他の合併症へ至る前に気づいておきたいところだ。しかし、網膜症や腎症は定期的に受ける検査で異変に気づくことができるのに対し、神経障害は症状が進むと足の感覚が鈍るので患者本人が気づきにくい。しかも、医療者も足の状態を直接診ないとわからないのがクセモノだ。毎回の診察で、患者に靴下を脱がせ足を診る病院はあまりないのが現状で、かなり悪化してから患者や家族が気づき、通院先で"初めて靴下をぬぐ"ことが多いのだという。
ではなぜ、もっと早く手を打つことができないのか。医療者側の問題をいくつかあげてみた。
- 足を診る時間がない、足を診る意識が低い。
- 内科医は、専門外である足の診かたまではわからない。
- 足に症状が出た際、皮膚科、整形外科、形成外科の受診となるが、紹介先として、足を専門とする医師がなかなかいない。
つまり、通常診療の中で足まで診きれない、というのが現状なのだ。
その一方で、早期の段階で手を打つことができれば、最悪の結果を回避することが可能であることは、多くの医療者が実感している。このような事態の解決策として、通院先と連携し、軽度~中度患者の検査・治療を受け入れてくれるような足病専門施設の普及が望まれている。
足の検査から治療、フットケア指導まで
これからは足病専門施設が受け皿に
今年4月、足の専門外来機能を持つベテル南新宿診療所(中川路院長)が開院した。同診療所では、足病外来として木下幹雄医師(東京西徳州会形成外科:フットケア外来)、大浦紀彦医師(杏林大学形成外科:フットケア外来)、池田克介医師(山王メディカルセンター血管外科)、装具治療として日本フットケアサービス代表の大平吉夫氏ら、足病専門家による検査・治療・ケアが受けられる。
- 専門機器による足の検査(検診)
- 足専門医による治療と重症(手術)対応病院との協力体制
- 高い技術を要する装具治療
- 看護師によるフットケア・セルフケア指導
- リンパ浮腫外来
上記5つの機能/連携体制を実現。医療連携(診療科の枠を超えた連携チーム)により、透析や糖尿病などのクリニックに通うリスクの高い患者に早期介入し、将来の足切断を防ぐことを目指す。
患者の足を診る木下医師。両足の温度、脈拍、皮膚の色や異常などを入念に触診する。
重症例(手術・入院治療が必要な場合)は、杏林大学病院(形成外科)、東京西徳洲会病院(形成外科)をはじめ、山王メディカルセンター(血管外科)、慶應義塾大学病院(血管外科)、東邦大学医療センター大橋病院(循環器内科)、駿河台日本大学病院(心臓血管外科)の足治療を専門とする医師と連携(協力)し対応する。
「糖尿病で足が悪くなると形成外科へ転院することが多いのですが、糖尿病診療を受けながら足の専門施設でケアや治療ができるというのが理想です。糖尿病は足の健康にとって大きなリスク。もちろん患者さんは毎日足のチェックやケアは欠かせませんし、医療側としては、通院先でのフットケア指導はもとより、定期的に専門家が足の状態を診てあげることが本来必要なのです」(同診療所・木下医師)
前出・木下医師によると、「欧米では運動処方を行う際、足を傷つけないよう患者さんに合った靴をつくり、専用の靴下や足を守るためのケアグッズを積極的に利用しており、保険が適用される国も多い。例えば、アメリカでは足を切断して働けなくなる人が増えることでの経済損失をとても大きくみており、切断しないための施策(高齢でリスクのある患者への医療靴の無料支給)を国の医療費のなかで積極的に行っています」と、日本は海外に大きく遅れをとっていると指摘する。海外では、足病学、足病治療(Podiatry)が確立しており、足病医(podiatrist)によって、診断から、手術を含めた外科療法、理学療法、薬剤や特別な靴の処方など、総合的な治療、対処が行われている。日本ではこのような専門医制度は現在のところない。この現状を解決するために、本当に熱意のある医師達が中心となり、形成外科、整形外科、循環器内科、皮膚科、糖尿病科などの垣根を越えての連携を模索中だ。
"自分の足は自分で守る"
患者自身が積極的にとりくむことが重要
一方、医療者側の体制構築と併せて必要不可欠なのが、患者自身による足のチェックとケア。現状では、症状が出て患者が医療者へ訴えない限り、足は放置されることが多い。フットケア指導の際には、靴ずれをはじめ、キズができないような予防対策も大切なのだ。
「足に痛みや圧迫を感じなければ、神経障害が起きている恐れがあります。でも、痛みや異常を感じないから、自分の足は悪くなっていない、自分は関係ないと思ってしまっている患者さんがとても多い。運動療法で、『1日1万歩歩きなさい、たくさん運動しなさい』と指導され、まじめにやっていたら足が悪くなっていたという例はよくあります。患者ごとに適切な運動内容を医療者が判断し、運動療法で使う靴など、足を守るための指導が必要です」また、「1日でも早い段階でキズを発見し、治療につなげることが重要です。もっと早く見つけられたら足を切らずにすんだのに、という患者さんをたくさん見てきているので、患者さんにはぜひ足を大事にしてもらいたい。足のチェックは毎日欠かさずに」と呼びかける。
患者自身でのチェック&ケアに加え、患者側から積極的に主治医に相談し、定期的に足の検査を受けることが自分の足を守ることにつながっていく。フットケアへの関心の高まりとともに、気軽に通える足病専門施設が普及すれば、切らずにすむ足が格段に増えるはずだ。
フットサポートジャパン
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