インスリン抵抗感 変更すると血糖コントロールが改善 医師・患者調査
2012.07.27
糖尿病のインスリン療法は、患者による自己注射が大きな比重を占める。そのため、患者の心理的な負担が大きい。日本イーライリリーは、患者と医師の双方のインスリン療法に対する意識・実態調査を行った。
遅れるインスリン療法の変更タイミング
実際に変更した患者では、QOLの低下なく、血糖コントロールが改善
調査は、医師256名及び看護師108名を対象にインターネットで実施した(調査1)。また、2型糖尿病患者625名を対象にインスリン療法を変更した際の変更前と変更後のQOLについての観察研究「2型糖尿病におけるインスリン使用実態調査」を実施し、第55回日本糖尿病学会年次学術集会で発表した(調査2)。
インスリン製剤は現在、多種多様の作用時間をもった薬剤が治療に使われている。患者の病状の変化にあわせて、療法の変更を行っていくことが、血糖値のより良いコントロールにつなががると考えられている。
2つの調査結果から、医師が患者に療法変更を伝える際のためらいが浮き彫りにされる一方で、療法を変更した患者ではQOLが下がることなく、血糖コントロールが改善されることが示された。
調査結果について、天理よろづ相談所病院副院長の石井均先生は「インスリン療法の変更や強化は早期に行うべきです。変更による患者のQOLに変化はなく、病態の改善が図られるケースが多いため、『注射の回数の増加』や『製剤の追加』といった医師と患者双方の心理的抵抗感やギャップを改善することで、より良い治療を行うことができる可能性が高い」と述べている。
日本イーライリリーが発表した主な調査結果は以下の通り――
調査1より
- インスリン療法の変更のタイミングが遅れている
「2型糖尿病患者のインスリン療法の変更を考えるHbA1cの値」について医師に質問したところ、平均HbA1c値は7.8%だった。さらに、「医師自身が糖尿病患者だった場合にインスリン療法の変更を考えるHbA1cの値」を聞いてみると平均7.4%となった。医師が、自分を患者に置き換えて変更を考える数値はより低い数値であることがあきらかになった。 - 治療の変更をためらった経験をもつ医師が約7割
医師はインスリン治療変更に対し、血糖コントロールの改善、治療に対する満足度の向上、治療意欲の向上を期待している。調査では、インスリン療法の変更が必要であるにもかかわらず、患者に「変更を勧めることをためらった経験」のある医師は72%に上った。
医師が患者に変更を勧めるのをためらう理由としては、「注射回数の増加を患者が嫌がると思う」(48%)を挙げる医師がもっとも多く、次いで「指示通りに患者が対応できないことに対する懸念」(38%)が上位を占めた。
医師は、「注射の回数が増えること」に対して患者の抵抗感が強く納得してもらいにくいと考えており、このことが、療法の変更に消極的になる要因となっていることが伺える結果になった。
調査2より
- インスリン療法の変更は、インスリンの種類の変更に加え、投与回数の変更が多い
調査期間中にインスリン治療の変更を行った内容について変更の種類別に割合をみたところ、「インスリンの種類の変更」が83.4%ともっとも多く、次いで「投与回数の変更」が29.3%、「注入器の変更」が20.2%との結果になった(重複回答あり)。また、全体の22.8%ではインスリンの種類の変更とともに投与回数の変更が同時に行われていた。 - インスリン療法を変更すると、QOLが下がることなく、血糖コントロールが改善
インスリン治療の変更が患者のQOL(生活の質)に与える影響(ITR-QOL)を測定するため、インスリン治療中の2型糖尿病患者で、療法を変更した際の変更前、変更12週後の変化を調査した。
その結果、合計スコアは97.8ポイントから97.8ポイントと低下することなく維持された。下位スコアである日常活動、インスリン治療への感情と行った項目でも、変更前後で際立った変化はみられなかった。
一方で、血糖コントロールについては、変更前後のHbA1c値において、変更前の8.21%から変更後には7.85%と有位な低下がみられた。
このことから、同社では「インスリン治療においては、より積極的な医師の介入を行うことで、患者のQOLを下げることなく、血糖値のより良いコントロールが可能になる」としている。
[dm-rg.net / 日本医療・健康情報研究所]