直接レニン阻害薬の多面的効果 透析患者での血管内皮機能を改善

2012.07.18
 血圧を規定するRAA(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン)系の上流にあたるレニン活性を直接的に阻害して降圧効果を発揮するアリスキレンは、抗炎症作用など降圧以外の作用により血管イベントを抑制する可能性が検討されている。このほど、血管イベント好発しやすい血液透析患者を対象とした検討で、同薬は降圧効果がマイルドであっても、有意な血管内皮機能改善と血小板活性抑制効果が得られるとのデータが、第57回日本透析医学会学術集会(6月22~24日・札幌)で報告された。湘南鎌倉総合病院腎免疫血液内科・守矢英和氏らの発表。
アリスキレンの降圧以外の作用を、FMDとPDMPで評価
 守矢氏らはアリスキレンの降圧外作用の評価に、血管内皮機能の指標としてのFMD(Flow Mediated Dilation)と、血小板活性の指標としてのPDMP(Platelet Derived Micro Particles)を採用し、同薬の投与前後での変化を検討した。

 FMDは、上腕を圧迫し駆血し、その解除後に生じる血流増大の血管内壁へ与えるずり応力が、血管内皮細胞の一酸化窒素産生を増大させ血管径を拡張させる現象を、超音波で非侵襲的に計測する方法。計測結果は駆血解除後の最大血管径と駆血前値との差を、駆血前値で除した値を百分率で表し、低値であるほど血管内皮機能が低下していると判定される。

 PDMPは、血小板由来の膜小胞体(マイクロパーティクル)で、血小板が刺激を受けた際に活性化反応により遊離する血液凝固能促進物質。白血球と血管内皮細胞との接着物質としての働きもあり、血栓性疾患の新たなマーカーとして臨床応用が期待されている。高値であるほど血小板活性が亢進し、血管イベント易発生状態と判定される。

血圧は変化なくても、FMD・PDMPは有意に改善
 研究の対象は、同院の維持血液透析患者のうち、ドライウエイトを評価し適切に体重管理された状態で、透析前収縮期血圧が150mmHg以上の24名(男性12名、女性12名)。原疾患の内訳は、糖尿病腎症7名、慢性糸球体腎炎6名、多発性嚢胞腎4名、腎硬化症3名、ループス腎炎1名、その他・不明4名。年齢は66.6±11.4歳、透析歴88.3±81.5月、透析前収縮期血圧153.2±8.5mmHg、透析前拡張期血圧82.8±10.3mmHg、家庭早朝収縮期血圧151.4±9.7mmHg、週平均化血圧156.0±8.3mmHg、ヘモグロビン11.2±1.1g/dL。なお、投与開始時点で既にARBが24名中14名に、ACE阻害薬が2名に投与されていた。

 この対象にアリスキレン150mg/日を3カ月間投与。投与量は150mg/日に定め、検討期間中の3カ月間は増量や追加投与しないこととした。

    糖尿病患者で既にACE阻害薬またはARBを投与中の場合、アリスキレンの追加投与は原則禁忌。
 投与開始3カ月後の血圧を投与前と比較すると、透析前血圧、家庭血圧、週平均化血圧等いずれも低下傾向はみられたものの、有意な差は確認されなかった。

 一方、FMDは、投与前が2.54±1.45%、投与後が3.11±1.37%と有意な上昇が認められた(p<0.01)。またPDMPも、投与前13.9±5.85U/mL、投与後10.9±4.5U/mLで、有意な低下が認められた(p<0.01)。


 以上より守矢氏は、「アリスキレンは降圧効果のいかんに関わらずFMDやPDMPを改善し、血管内皮機能改善作用や動脈硬化性疾患抑制作用を有する可能性がある」とまとめた。


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