動脈硬化ガイドライン改訂へ 境界域の設定、絶対リスクで層別化など
2012.04.29
日本動脈硬化学会は26日、プレス向け会見を開き、『動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012年版』の概要を発表した。
脂質異常症の診断と、薬剤による治療が必要な状態は必ずしもイコールではないことから、診断基準をあえて「スクリーニングのための診断基準」と呼び、診断後の管理目標値も従来の相対リスクではなく絶対リスクで判断することになる。また、リスク評価の際に、糖尿病と耐糖能力障害を区別し評価する。
改訂版ガイドラインは5月末から6月上旬に刊行される予定。
主な変更点等は以下のとおり。
診断基準境界域の設定
脂質異常症「スクリーニングのための診断基準値」は2007年版のガイドラインの診断基準値から変更はないが、新たにLDL-Cが120~139mg/dLを「境界域高LDL-C血症」とし、これに該当する場合は患者に生活習慣改善の必要性を伝えるとともに、他の危険因子を慎重に評価し治療の必要性を判断することになる。
脂質異常症:スクリーニングのための診断基準(空腹時採血) | |||||||||||
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絶対リスクで層別化
脂質異常症と診断した後、冠動脈疾患のリスクに応じ層別化しLDL-Cの管理目標を設定する方法は2007年版と同じだが、リスク評価の際に従来の相対評価ではなく絶対評価を用いる。これにより、従来指摘されていた女性に対して過剰介入を招きやすいという性差の問題が解消され、リスクに最も影響を及ぼす年齢がより細かく反映されることになる。
絶対リスクの評価には大規模疫学研究「NIPPON DATE80」から得られたデータを使用。年齢、性、LDL-C(またはTC)、血圧、喫煙の有無別に、向こう10年以内の冠動脈疾患死亡確率が0.5%未満の場合はカテゴリーI、0.5~2%未満はカテゴリーII、2%以上はカテゴリーIIIとなる。
ただし、糖尿病、脳血管障害、末梢動脈疾患(PAD)、ステージIII以上の慢性腎臓病(CKD)のいずれかがある場合は、それだけで最高リスクのカテゴリーIIIとなる。また、低HDL-C、早発性冠動脈疾患家族歴、耐糖能異常(糖尿病は含まない)を「追加リスク」とし、これらのいずれかが該当する場合は1段階厳しいカテゴリーになる。
なお、カテゴリーIの低リスクに該当する場合、患者の治療モチベーションが上がらない可能性が考えられるが、このことに対しては、絶対リスクは低くても相対リスクでみれば血清脂質値正常に比べて数倍から10倍以上リスクが高いというデータを示すことを提案している。
LDLコレステロールの管理目標値 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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LDL-Cの管理目標値は変更なし
一次予防における各カテゴリーの管理目標値、および二次予防の管理目標値は従来と変化していない。
二次予防について、LDL-Cをさらに強力に低下させることでプラークが退縮するといった日本人対象の報告も蓄積されつつあるが、現状において3~5割程度の患者しか現行の管理目標値に到達していないことから、100mg/dL未満という目標値そのものは据え置かれた。この目標値に達することが第一で、必要があればそれ以上厳格な治療を考慮してもよいとしている。
二次目標としてnon HDL-Cを定める
LDL-Cを管理の一次目標とするとともに、non HDL-Cが二次目標として定められた。とくに高TG、低HDL-Cを伴う場合にリスク予測力が高まることが期待できる。また、非空腹時採血でも使用可能という利点もある。
具体的な管理目標値は、LDL-Cの目標値に30を加えた値となる。糖尿病やメタボリックシンドロームでは高TGや低HDL-Cを伴いやすいため、新たな指標としてnon HDL-Cへの配慮が求められる。
なお、今回のガイドライン改訂では、LDL-C測定の直接法の信頼性が確立されていないことから、「LDL-CはFriedwald式で計算する」と明記された。non HDL-Cは、TG400mg/dL以上でFriedwald式を適用できない場合にも使用できる点でも便利。
リスク区分別脂質管理目標値 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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糖尿病と耐糖能異常を区別
従来、LDL-C以外にカウントする危険因子のうち糖代謝関連の項目は「糖尿病(耐糖能異常を含む)」とされ、かつ「糖尿病があれば他に危険因子がなくてもカテゴリーIIIとする」とされていた。今回の改訂ではこの表現が明確に区別され、前記のように、「耐糖能異常(糖尿病を含まない)」の場合は「追加リスク」となり1ランク厳格なカテゴリーに該当し、「糖尿病(耐糖能異常を含まない)」があれば直ちにカテゴリーIIIとなる。
その他の改訂ポイント
その他、今回の改訂では、近年ストロングスタチンの普及により、家族性高コレステロール血症が正確に診断されず十分な治療が行われていない可能性もあることから、これを単独で取り上げ、積極的な診断・治療の重要性を強調している。
また、動脈硬化進展度の評価法としての頸動脈IMTの有用性、トランス型脂肪酸過剰摂取の注意などが追加された。[dm-rg.net / 日本医療・健康情報研究所]