睡眠の質の低下は高血糖やインスリン抵抗性につながる
2011.11.14
睡眠と糖尿病との関連を調べた米国の研究で、2型糖尿病患者での睡眠の質の低下が、インスリン抵抗性や血糖コントロールの悪化に関与しているおそれがあるという研究が、米国で発表された。
睡眠の質の低下は、血糖コントロールの悪化につながる
米国睡眠医学会では、質の良い睡眠を得るために、次のことを勧めている。
SleepEducation.com(米国睡眠医学会)
糖尿病のある人が、健康な人に比べ、睡眠の質が低下している傾向があるとの研究はこれまでも報告されている。そのため睡眠障害は疾病を進展する危険因子とみるべきだともいわれている。特に肥満の多い米国では睡眠時無呼吸が2型糖尿病患者で増えているという。
「糖尿病治療の目標は、血糖の良好なコントロール状態を維持し、健康な人と変わらない生活の質(QOL)と寿命を得ることにある。睡眠の質が低下している患者では、睡眠を改善することが糖尿病の治療の向上にもつながる」と米シカゴ大学医療センターのKristen Knutson氏は指摘している。
この研究は米国糖尿病学会(ADA)が発行する医学誌「Diabetes Care」2011年5月号に発表された。
今回の研究でKnutson氏らは、糖尿病患者40人を対象に、睡眠の質、血糖値、糖尿病コントロールの関連を評価した。不眠やいびき、睡眠時無呼吸といった睡眠障害の症状について問診し、血液検査を行いインスリンと血糖値を調べた。
睡眠の状態については、夜間に活動モニターを手首に装着してもらい記録した。就眠中に手首がよく動く場合は、その人はおそらく良質な睡眠を得られていないと推定した。また、なかなか入眠できなかったり、夜間に覚醒した場合には報告してもらった。
その結果、糖尿病で睡眠の質が低下している患者では、睡眠が正常な患者に比べ、朝食前の血糖値が23%高く、空腹時インスリン値も48%高かった。また、糖尿病患者の中でも、睡眠の質が低下している人では正常な人に比べ、インスリン抵抗性が82%高くなっていることが分かった。
- 起床時刻を決め習慣化する
起きる時刻と寝る時刻が毎日異なると、体内時計の調子が狂う。起きる時間を毎日決めておく。 - 日中起きている時間はベッドに近づかないようにする
朝は日光を浴びて、しっかり目覚めるようにする。昼間の眠気が強いときは仮眠でのりきる。ただし、1時間より少なく、午後3時より遅くならないようにする。 - 睡眠を妨げるカフェイン、アルコール、煙草を使わない
これらは睡眠の質の低下につながるので、午後や夜は避けたほうがよい。就眠前の食べすぎや激しい運動も刺激になるので良くない。 - 休日のまとめ寝は逆効果
睡眠が不足しているからといって、週末に遅くまで寝ていると睡眠のリズムが狂う。疲れている日は早めに寝るようにしたほうが効果的。 - 入眠前の入浴、軽食、読書などの習慣を見直す
リラックスできると思っていることが、実は睡眠を妨げているかもしれない。就眠前の入浴は、お湯が熱すぎると覚醒効果があるので注意。37度から40度のぬるま湯であると、リラックス効果がある。 - 寝室を暗く、静かに、少し涼しくしておくと眠りやすくなる
- ベッドに心配事や悩み事をもっていかないようにする
睡眠はリラックスするための時間。眠れないことに過度の不安を抱かない。 - 睡眠薬は医師の指導で正しく使えば安全
睡眠に関連する生活習慣などを見直しても、問題が解決されない場合は、かかりつけ医に相談しよう。睡眠薬はさまざまなタイプが開発されており、医師の指示を守って正しく使えば安全だ。
睡眠を改善する治療を行うと、
糖尿病の治療も改善する
「糖尿病のある人での睡眠の質の低下は、血糖コントロールの悪化に関連しているという結果になった。糖尿病を発症した患者で、睡眠時無呼吸や不眠などがある人では、睡眠を改善する治療を行うことが、糖尿病の治療に良好な影響をもたらす可能性がある」とKnutson氏は指摘する。
「慢性の睡眠障害やインスリン抵抗性の治療は、良好な血糖コントロールにつながり、2型糖尿病のある患者のQOLの向上につながる。患者によっては睡眠の質を改善することが、2型糖尿病の薬物治療と同じくらい効果的な介入になる可能性がある」と米シカゴ大学医療センターのEve Van Cauter教授は話す。
「医師や医療スタッフは患者の睡眠の質にも注意を払う必要性があるだろう。患者が睡眠に不満を感じているときは、医師に相談するのが良い」と述べている。
ただし、睡眠障害によって高血糖が引き起こされ糖尿病を発症するのか、高血糖が睡眠障害を引き起こすのか、あるいは他の要因がからんでいるかはよく分かっていない。「糖尿病患者は睡眠障害の影響を受けやすいのかもしれない。逆に糖尿病コントロールがなかなか改善しない患者は、コントロールできている患者よりも睡眠の質が悪いかもしれない」とKnutson氏は述べている。
患者によって生活スタイルが異なり、また米国の2型糖尿病患者では過体重や肥満が多くみられる。肥満は夜間に呼吸がとまり覚醒する睡眠時無呼吸の原因になる。肥満が睡眠の質の低下に関連しているのであれば、肥満を解消すれば改善できる可能性があると、研究者らは指摘している。
研究は、米国で20年以上にわたり数千人が参加し進行している心疾患に関する縦断研究である「CARDIA研究」の一部として、米国立衛生研究所の国立加齢研究所から資金提供を受け行われた。
糖尿病ネットワークアンケート
糖尿病ネットワークが実施したアンケート調査で、糖尿病患者の約8割は血糖コントロールと睡眠障害の関連を知らないことがあきらかになった。患者の約半数は睡眠時に「不安や心配ごと、気持ちの高ぶりや興奮などで眠れないことがある」と回答したが、実際に医療スタッフに相談したことのある患者は2割に満たなかった。
一方、糖尿病患者から睡眠についての相談を受けたことのある医療スタッフは約6割に上ったが、糖尿病患者の睡眠障害について「ほとんどチェックしていない」(36%)、「抑うつ傾向がみられる患者はチェックしている」(25%)と回答し、糖尿病患者の睡眠障害について十分に把握できていない現状が浮き彫りになった。
関連情報一方、糖尿病患者から睡眠についての相談を受けたことのある医療スタッフは約6割に上ったが、糖尿病患者の睡眠障害について「ほとんどチェックしていない」(36%)、「抑うつ傾向がみられる患者はチェックしている」(25%)と回答し、糖尿病患者の睡眠障害について十分に把握できていない現状が浮き彫りになった。
(アンケートは2008年8月に実施)
睡眠時無呼吸と2型糖尿病 IDFが発表(糖尿病NET) Insomnia linked to high insulin resistance in diabetics(シカゴ大学医療センター 2011年5月2日)
Cross-Sectional Associations Between Measures of Sleep and Markers of Glucose Metabolism Among Subjects With and Without Diabetes
Diabetes Care May 2011 vol. 34 no. 5 1171-1176
[dm-rg.net / 日本医療・健康情報研究所]