脳や心臓の血管が詰まる前に。血管の若返りがわかる検査指標「FMD」

2011.08.24
 糖尿病の合併症の多くを引き起こす血管病。命を左右する心筋梗塞や、身体障害につながる脳梗塞は、いずれも血管病によって生ずる血栓が原因だ。血管病の進行を抑えるには、血管の内側の層「血管内皮」の機能を若々しく保つことが大切。その血管内皮の機能低下をごく初期に発見できるFMDという検査が、国内でも普及してきた。運動療法により血管内皮の機能が若返ることも、この検査で確認できる。
糖尿病は血管病
 糖尿病は「合併症の病気」と言われる。合併症の発症・進行を抑制するために、糖尿病を治療をするわけだが、その合併症の多くは「血管障害(血管病)」によって引き起こされる。

 糖尿病による血管病は全身に起こるが、中でも心臓や脳で血管病が生ずると、心筋梗塞や脳梗塞という命にかかわったり、身体の麻痺につながる重大な病気を引き起こす。これらの病気は、血管の中で血液が固まってしまい「血栓」が作られ、それが血流を塞いで心臓や脳にダメージを与えてしまう結果である。

血管は必要なとき、自律的に拡張し血流を増やす(血管内皮機能)
 ところで、血管は単なる血液の通り道ではない。血液を流れやすくするために、血管自体がさまざまな働きをしている。

 例えば、血管の一番内側の層(血管内皮)にある内皮細胞は、血液を固める血小板の働きを抑える物質を作り出している。また、なにかの原因で血流が増加したとき内皮細胞は一酸化窒素を出して血管を拡張させ血流量が確保されるように働く。

 血管病が進行すると、このような血管内皮の働き(血管内皮機能)が衰え、血流が悪化したり、血栓ができやくなってしまう。

血管内皮機能を調べるFMD検査
 この血管内皮機能は、FMD(Flow Mediated Dilation)という検査で測定することができる。

 腕の動脈の血管径を超音波で測定したあと、カフ(血圧測定のときに用いるような止血帯)を5分間まいて一時的な虚血(血液が不足している状態)を起こし、カフを外したあとに血管径を再び測定する。血管内皮が健康であれば、虚血を解除したあとの血管径が虚血前に比べて6%以上太くなるが、血管病が生じているとこの反応が少なくなる。

FMD検査は血管の"老化"だけでなく"若返り"も敏感に反映
 FMD検査は血管病の初期の診断に役立つばかりでなく、運動療法を取り入れた生活習慣の改善や薬物治療の効果が、週単位の短期間で結果となって現れることも特徴と言える。血管病の進行を調べる検査はFMD以外にも、超音波で頸動脈の血管内膜・中膜の肥厚度(厚さ)を測る検査などがあるが、病気の'進行'が検査値の変化に現れるまで数カ月以上要することが多く、また、病気の'改善'は検査値に現れにくい。そのため検査結果に変化が現れるまでの間、明確な効果がわからない手探り状態での治療となる。短期間で検査値が変化するFMDはこの問題が少ないという利点がある。

 また、合併症がまだ起きていない、あるいは糖尿病予備群の段階では、自覚症状が全くないため、患者(保健指導の対象者)本人は生活改善等の必要性を理解できず、治療から脱落(中断)してしまうことがある。こうしたケースでも、「短期間で検査値が変化する」というFMDの特徴を生かし本人に効果を実感してもらうことで、治療・保健指導からの脱落を減らすことにもつながる。

糖尿病とFMD
 このような特徴をもつFMD検査は、糖尿病に限らずメタボリックシンドローム、脂質異常症、高血圧など、血管病の危険因子の管理に役立つが、糖尿病との関係においては、(1)血管合併症の早期介入が可能、(2)HbA1cなどのサロゲートマーカーによらずに血管病を直接評価できる、(3)血管病に対する介入効果を判定できて治療法変更の判断に有益、(4)検査対象者の治療モチベーション向上・維持につがる、といった長所があげられる。

 また近年は、(5)大血管症(動脈硬化)のみでなく、糖尿病に特異的とされる細小血管症(網膜症等)の程度とFMDが相関する、(6)慢性高血糖とFMDが相関するだけでなく、食後高血糖に伴いFMDも一過性に低下する、(7)良好な血糖コントロールを維持していも、低血糖(潜在性のもものも含め)を伴う場合はFMD改善が乏しい、(8)血糖降下薬の種類によってFMDの改善に差異があり、血管病抑止のための血糖管理における新たな指標となる可能性がある、といった報告が複数みられる。

 血糖値の管理は糖尿病治療の手段であり、糖尿病の治療目的は血管合併症の抑止だ。そうである以上、血管病の初期から確実に評価・介入していく必要があり、FMD検査がその一翼を担うことが期待されている。

関連情報
動脈硬化が早期にわかるFMD検査装置(糖尿病NET)

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