2型糖尿病薬のチアゾリジンが認知症リスクを22%低減 将来の臨床試験で再利用の価値を検討
チアゾリジン療法により認知症リスクが22%低下 血管性認知症リスクは57%低下
1990年代に登場したアクトスなどのチアゾリジン薬は、インスリン抵抗性の改善を介して血糖降下作用を発揮するために、インスリン抵抗性の関与がある状態では有効性が高いとされている。
チアゾリジン薬は、薬剤自体がインスリン分泌を促すわけではないので、単独使用で低血糖の危険は少ないという特徴もある。
「2型糖尿病と認知症は、生理学的パターンの一部を共有しているため、糖尿病薬が認知症の予防や治療に有用である可能性が考えられます。しかし、これまで、一貫性のある結果を示した報告はありませんでした」と、アリゾナ大学公衆衛生学部のXin Tang氏は言う。
研究グループは今回、2000年1月~2019年12月に、米国退役軍人局(VA)の健康システムから2型糖尿病と診断された55万9,106人の電子医療記録(EMR)を解析した。対象となった患者は、研究開始時の年齢が60歳以上で、平均年齢は65.7歳、認知症の診断歴はなかった。
投与された2型糖尿病の治療薬により、▼SU薬単剤群(トルブタミド、グリメピリド、グリピジド、グリベンクラミド)、▼チアゾリジン単剤群(ロシグリタゾン、ピオグリタゾン)、▼メトホルミン単剤群(対照群)に割り当て比較した。対象者は割り当てられた治療薬を1年間以上服用した。
認知症は国際疾病分類(ICD-9およびICD-10)により定義し、主要アウトカムは全原因認知症、副次アウトカムはアルツハイマー病と血管性認知症とした。
平均8年近くの追跡期間で、全原因認知症の発生率は、1,000人年あたり8.2症例(95% CI 6.0~13.7)だった。
解析した結果、チアゾリジン単剤療法により、メトホルミン単独療法と比較して、全原因認知症のリスクが22%低下したことが示された(HR 0.78、95%CI 0.75~0.81)。具体的には、アルツハイマー病のリスクが11%低下し、血管性認知症のリスクが57%低下した。
さらに、メトホルミンとチアゾリジンの併用では、全原因認知症のリスクは11%低く(HR 0.89、95%CI 0.86~0.93)、SU薬単剤では12%高かった(HR 1.12、95%CI 1.09~1.15)。
「チアゾリジン薬は血管系へ好ましい効果を発揮し、認知症やアルツハイマー病の軽減にも役立つ可能性があることが示されました。さらに詳細な分析により、75歳未満の高齢者はチアゾリジン薬の恩恵を受けやすく、過体重や肥満の患者に対してより保護的な作用があることも示されました。認知症の早期予防の重要性があらためて強調されました」と、Tang氏は述べている。
なお、今回の研究は観察研究であり、因果関係について決定的な結論を引き出すことはできないとしている。また、腎機能や遺伝的因子など、影響を与える可能性のある特定の情報を入手できなかったこと、および研究の参加者が主に米国の男性と白人であり、他民族でもあてはまるかは不明だと付け加えている。
そうしたうえで、「チアゾリジン薬は、軽度または中等度の2型糖尿病のリスクが高い患者の認知症を効果的に予防するのに有用である可能性があり、再利用できるかどうかを、将来の臨床試験で優先して調べる価値があると言えます」と、示唆している。
研究は、米国国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)、米国国立科学財団(NSF)、国立糖尿病・消化器・腎臓病研究所(NIDDK)、国立心肺血液研究所(NHLB)の資金提供を得て行われた。
Older class of type 2 diabetes drugs linked to 22% reduced dementia risk (BMJ 2022年10月11日)
Use of oral diabetes medications and the risk of incident dementia in US veterans aged ≥60 years with type 2 diabetes (BMJ Open Diabetes Research & Care 2022年10月11日)