2型糖尿病患者などのマイクロバイオームを大規模解析 腸内細菌叢の変化は糖尿病リスクと一致 糖尿病リスクに関連する細菌種と菌株を特定

2024.08.21
 米ブリガム アンド ウィメンズ病院やハーバード公衆衛生大学院などは、腸内細菌叢と2型糖尿病のリスクに関連する細菌種と菌株を特定したと発表した。腸内細菌叢の変化は糖尿病リスクの上昇と一致しているとしている。

 研究グループは、新たに設立されたマイクロバイオーム・心血管代謝疾患コンソーシアム(MicroCardio)に登録された、7ヵ国の計8,117の腸内マイクロバイオームメタゲノムを網羅したデータを解析した。

 「糖尿病と関連する腸内細菌を特定し、マイクロバイオームを改善することで、糖尿病リスクを減らせる可能性がある」と、研究者は述べている。

特定の細菌株が2型糖尿病リスクに関連している可能性 バクテリオファージが関与

 米ブリガム アンド ウィメンズ病院およびブロード研究所のZhendong Mei氏やハーバード公衆衛生大学院栄養学部のDaniel Wang氏、同大学院生物統計・免疫・感染症学部のCurtis Huttenhower教授らは、新たに設立されたマイクロバイオーム・心血管代謝疾患コンソーシアム(MicroCardio)に登録された、7ヵ国の計8,117人の腸内マイクロバイオームメタゲノムを網羅したデータを解析した。研究成果は、「Nature Medicine」に掲載された。

 その結果、2型糖尿病リスクの個体間差異を説明する、Eubacterium rectaleなどの27種の菌株について、種内系統多様性を特定したほか、ヒトの腸内に生息するセガテラ属の主要な細菌であるPrevotella copriの菌株が、糖尿病患者の腸内細菌叢に多くあることなどを明らかにした。Prevotella copriは、分岐鎖アミノ酸(BCAA)を大量に生産する能力をもち、これまでにBCAA血中濃度が慢性的に高い人は、肥満や2型糖尿病のリスクが高いことが示されている。

 また、バクテリオファージ(細菌に感染するウイルス)が、腸内細菌の特定の株内で検出された変化の一部を引き起こしている可能性があることを示唆する証拠も示した。

 研究は、2型糖尿病、前糖尿病、血糖値が正常な集団の腸内細菌叢に関する、多様な国・民族の10コホート[中国・デンマーク・フィンランド・ドイツ・イスラエル・スウェーデン・米国]を対象とした、これまでで最大規模の包括的調査であり、細菌内の特定のウイルスと遺伝子変異が腸内細菌叢の機能が2型糖尿病リスクに関連していることを明らかにしたものとしている。

 「マイクロバイオームは、国・地域や人種、民族によって大きく異なるので、小規模で均質な集団のみを調査すると見逃すものが多い。人間の遺伝的変化を理解するために、大規模な集団を調査する必要があるのと同様に、腸内細菌叢の変化を詳細に解明するために、大規模で多様な集団を調査する必要がある」と、Huttenhower教授は述べている。

 「今回の研究で、対象集団全体でこれまで報告されたことのない、2型糖尿病に関連する腸内細菌の比較的一貫したセットを発見した。腸内でのこれらの細菌の役割を理解するために、腸内細菌の異なる株の機能的能力を分析したところ、特定の株がアミノ酸を作る能力などさまざまな機能をもっており、2型糖尿病の疾患リスクに関連している可能性が示された」としている。

 また、細菌に感染するウイルスであるバクテリオファージが、腸内細菌の特定の株内で検出された変化の一部を引き起こしている可能性があることも示唆された。「この関係を理解するにはさらに研究が必要だか、ウイルスが細菌に感染し、その機能を変化させて2型糖尿病のリスクを増減させている可能性がある」としている。

マイクロバイオームを改善すれば2型糖尿病のリスクを減らせる

 今回の解析の対象となったのは、2型糖尿病、糖尿病前症、または血糖値に変化がない集団。調査には、新たに生成されたデータと、他のいくつかの実験で最初に収集されたデータが含まれており、民族的および地理的に多様な参加者の合計8,117の腸内マイクロバイオームメタゲノムを網羅している。

 研究グループはさらに、新規に2型糖尿病と診断された患者の小規模なサブセットも調査し、薬物療法や長期の高血糖状態による影響を受けにくいマイクロバイオームを評価した。その結果は、大規模な調査結果と同様だったとしている。

 「腸内細菌叢の変化が2型糖尿病を引き起こしている可能性がある。細菌叢の変化が先に起こり、その後に患者は糖尿病を発症しており、その逆はないと考えられる。ただし、この関連を証明するために、前向き研究や介入研究が必要となる」と、Wang氏は述べている。

 「マイクロバイオームは高度に個別化されており、1人ひとりが極めて異なる微生物群と微生物遺伝子をもっている。マイクロバイオームの特性が原因であれば、それを改善することで、2型糖尿病のリスクを減らす方法を開発できると考えられる。マイクロバイオームは、食事療法やプロバイオティクス、糞便移植などの方法により介入しやすい」としている。

 なお今回の研究は、対象となった2型糖尿病、前糖尿病、血糖値が正常な集団のある時点のマイクロバイオームを調べたもので、時間経過にともなう腸内マイクロバイオームの変化と糖尿病の状態との関連については分かっていない。今後の研究では、この関連性を長期間にわたり追跡調査し、菌株固有の機能を調べて、どのように2型糖尿病に関連するかを解明する必要があるとしている。

Gut microbiome changes align with increased risk of type 2 diabetes (ブリガム アンド ウィメンズ病院ブロード研究所 2024年6月25日)
Strain-specific gut microbial signatures in type 2 diabetes identified in a cross-cohort analysis of 8,117 metagenomes (Nature Medicine 2024年6月25日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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