SGLT-2阻害薬「ダパグリフロジン」が2型糖尿病をともなう心不全患者で心血管イベントを抑制 尿アルブミン排泄量への効果は認められず 国立循環器病研究センターなど

2023.12.06
 国立循環器病研究センターなどの国内18施設による多施設共同研究グループは、2型糖尿病をともなう慢性心不全患者に対する、SGLT-2阻害薬であるダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)の5mgを中心に2年間投与した「DAPPER試験」により、尿アルブミン排泄量への効果は認められないものの、心血管イベントは抑制されることをはじめて明らかにした。

 「2型糖尿病をともなう慢性心不全患者で5mgを中心としたダパグリフロジン投与が、心血管イベントを抑制した報告は今回がはじめてです。研究成果は、2型糖尿病をともなう慢性心不全患者の治療戦略を考えるうえで貴重な根拠のひとつとなると考えられます」と、研究グループでは述べている。

ダパグリフロジンが心血管イベントを抑制
尿アルブミン排泄量への効果は認められず

 国立循環器病研究センターなどの国内18施設による多施設共同研究グループは、2型糖尿病をともなう慢性心不全患者に対する、SGLT-2阻害薬であるダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)の5mgを中心に2年間投与した「DAPPER試験」により、尿アルブミン排泄量への効果は認められないものの、心血管イベントは抑制されることをはじめて明らかにした。

 研究は、国立循環器病研究センターの臨床研究開発部の北風政史前部長、腎臓・高血圧内科の吉原史樹部長らを中心とした国内18施設による多施設共同研究グループによるもの。研究成果は、11月の米国腎臓病学会のLate Breadking sessionで発表され、「Lancet」の姉妹紙である「eClinicalMedicine」に掲載された。

 糖尿病は、心血管疾患のみならず腎臓病を引き起こすことがよく知られている。SGLT2阻害薬であるダパグリフロジンは、糖尿病治療薬として上市されたが、これまで糖尿病のみならず、心不全や腎不全を改善することが示されてきた。

 研究グループは今回、糖尿病を有する心不全患者に対して、ダパグリフロジンを使用した時に腎機能障害が改善するかを検証した。

 2型糖尿病をともなう慢性心不全の症例に対して、ダパグリフロジン投与量を5mgから開始し10mgまで増量可能とし、尿中アルブミン排泄量を抑制するかどうか、さらに心血管イベントをも抑制できるかどうかについて、多施設共同・無作為化・非盲検・標準治療対照・並行群間比較の臨床試験(DAPPER試験)を実施し、2年間経過観察した。

 日本の18の医療期間に登録された、慢性心不全および2型糖尿病のある20~85歳の患者(平均年齢は72.1歳、男性71%)を、ダパグリフロジン群(n=146)あるいは対照群(n=148)に無作為に割り付けた。

 なお、心不全ではダパグリフロジンを10mg投与するが、同試験は糖尿病+心不全の症例を対象としているため、ダパグリフロジンは5mg/10mgのどちらを投与しても可とした。

 その結果、2年間の観察期間終了時のダパグリフロジン群で、87.7%の患者で5mgが投与されており、主要評価項目の尿中アルブミン排泄量については、標準治療群とダパグリフロジン群間で有意差は認められなかった。

 主要評価項目であるベースラインからの尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)の中央値は、2年間の観察終了時点でのUACR中央値は、ダパグリフロジン群で27.1(12.1~75.4)mg/gCr、対照群で32.7(11.5~91.7)mg/gCrとなり、有意差が示されなかった。

 ただし、副次評価項目の心血管イベントは、標準治療群に比べてダパグリフロジン群で抑制されていることが明らかになった。

 2年間の観察中の、心エコー検査パラメータのひとつである左室拡張末期径(LVDd)の平均減少は、ダパグリフロジン群の方が対照群よりも大きく、心不全の重症度を示すNYHA分類のより良好なクラスへの移行は、ダパグリフロジン群で14.6%、対照群で8.3%だった。

 CVイベントは、ダパグリフロジン群で10件(心不全 4件、脳卒中 2件、不整脈 2件、虚血性心疾患 1件、抵抗性高血圧 1件)、対照群で25件(心不全 13件、不整脈 5件、虚血性心疾患 3件、脳卒中3件、大動脈解離 1件)が確認された。

 2年間の観察期間のCV死亡あるいはCVイベントによる入院として定義された複合エンドポイントは、ダパグリフロジン群では対照群よりも頻度が低く、ダパグリフロジン群と対照群を比較したハザード比は0.397[95%CI 0.174~0.907]となった。全原因による入院[同 0.591、95%CI、0.357~0.979]、心不全のための追加の処方変更[同 0.321、95%CI 0.161~0.642]も、いずれもダパグリフロジン群で頻度が低かった。

ダパグリフロジン群と対照群を比較
いずれもダパグリフロジン群で低い結果に

心血管死または心血管疾患による入院

心不全悪化による心不全治療の追加・増量
出典:国立循環器病研究センター、2023年

 2年間の観察期間に、新たに心房細動および/または心房粗動を発症する確率は、ダパグリフロジン群と対照群間で同等であり、ハザード比は1.952[95%CI 0.177~21.526]だった。

 重篤な有害事象が発生した患者の比率は、ダパグリフロジン群で17.8%、対照群で29.0%だった。

 「2型糖尿病をともなう慢性心不全患者で5mgを中心としたダパグリフロジン投与が、心血管イベントを抑制した報告は今回がはじめてです。研究成果は、2型糖尿病をともなう慢性心不全患者の治療戦略を考えるうえで貴重な根拠のひとつとなると考えられます」と、研究グループでは述べている。

 なおこの研究は、アストラゼネカおよび小野薬品工業より資金的支援を受け実施された。

Dapagliflozin 5 mg daily suppressed cardiovascular events in patients with chronic heart failure and type 2 diabetes mellitus (国立循環器病研究センター 2023年11月27日)
DAPagliflozin for the attenuation of albuminuria in Patients with hEaRt failure and type 2 diabetes (DAPPER study): a multicentre, randomised, open-label, parallel-group, standard treatment-controlled trial (eClinicalMedicine 2023年11月27日)
国立循環器病研究センター「DAPPER試験」 (臨床研究等提出・公開システム)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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