1型糖尿病治療として世界初の細胞療法を承認 インスリン投与を不要にする革新的な治療法に FDA

2023.07.05
第83回米国糖尿病学会(ADA)年次学術集会

 米国食品医薬品局(FDA)は6月28日、1型糖尿病の治療として、死亡ドナーの膵臓細胞から作られた世界初の同種膵島細胞療法である「Lantidra」(一般名:donislecel)を承認したと発表した。

 Lantidraは、β細胞のインスリン分泌を回復する作用のあるはじめての細胞治療薬であり、集中的な糖尿病管理と教育にもかかわらず、重度の低血糖を繰り返し、目標HbA1cを達成できていない成人1型糖尿病患者が対象となる。

FDAが1型糖尿病患者のための世界初の細胞療法を承認 インスリン投与が不要に

 米国食品医薬品局(FDA)は6月28日、1型糖尿病の治療として、死亡ドナーの膵臓細胞から作られた世界初の同種膵島細胞療法である「Lantidra」(一般名:donislecel)を承認したと発表した。

 Lantidraは、集中的な糖尿病治療・教育にもかかわらず、重度の低血糖を繰り返し、目標HbA1c値を達成できていない成人1型糖尿病の治療薬として承認された。

 Lantidraは、インスリンを産生できない1型糖尿病患者の膵島細胞の機能を回復するのに有用な細胞療法として開発された、死亡したドナーから提供された膵臓細胞から作られる同種異系膵β細胞。肝臓門脈に単回点滴として投与され、インスリンを産生および分泌を回復する能力がある。

 初回投与に対する患者の反応に応じて、追加注入が行われる場合があり、また移植された膵島細胞の生存率を維持するに免疫抑制剤が必要となる。

 Lantidraの主な作用機序は、注入された同種異系膵β細胞によるインスリン分泌と考えられている。1型糖尿病患者の一部は、Lantidraの注入により十分なインスリン産生ができるようになり、血糖値管理のためのインスリン注射やポンプ療法が不要になったとしている。

 Lantidraを開発したCellTrans社は、バージニア大学外科・生体医工学のJosé Oberholzer教授(当時イリノイ大学)らが開設したスタートアップ。Oberholzer教授らは、2003年からイリノイ大学で膵島移植プログラムを主導し、600件以上の膵島単離と、膵島移植の第1相から第3相の臨床試験を実施したとしている。膵β細胞の単離島、カプセル化島、ヒト由来幹細胞などの細胞治療を、糖尿病などの内分泌疾患の治療として臨床応用することを目指している。

 Lantidraの安全性と有効性を検証した第3相臨床試験は、30人の無自覚性低血糖のある1型糖尿病患者を対象として非ランダム化単群試験として実施され、Lantidraは1回以上、最大3回投与された。その結果、インスリン投与を必要としない期間が、21人の参加者は1年以上持続し、11人の参加者は1~5年間持続し、10人の参加者は5年以上持続した。

 ただし、すべての参加者が同じレベルの成功を経験したわけではなく、インスリン非依存を何日も達成できなかった参加者もいたことに注意する必要があるとしている。

 「1型糖尿病患者の重症低血糖は、意識喪失や発作によるケガにつながる危険な状態だ。今回の承認は、1型糖尿病患者を治療するための世界初の細胞療法に対するものであり、1型糖尿病と再発性のある重症低血糖を抱えて生きる患者の血糖管理の目標達成を助ける追加の治療選択肢を提供するものだ」と、FDA生物製剤評価研究センターのPeter Marks所長は述べている。

 1型糖尿病患者のなかには、低血糖を起こすことなく毎日のインスリン投与を調整し管理するのが難しい患者もおり、無自覚性低血糖を起こし、患者自身では対処できないケースもあるとしている。

 Lantidraに関連する副作用は、各参加者が受けた点滴の回数と追跡期間に応じて異なり、実際に観察された割合を反映していない可能性がある。もっとも一般的な副作用として、吐き気、疲労、貧血、下痢、腹痛が報告された。

 参加者の大多数は、Lantidraを肝門脈に注入する手順と、膵島細胞の生存率を維持するための免疫抑制剤の使用に関連して、1回以上の重篤な副作用を経験した。一部の重篤な副作用では、免疫抑制剤の中止が必要となり、その結果、膵島細胞の機能が失われ、インスリン依存が生じた。Lantidraの各患者に対するベネフィットとリスクを評価する際には、これらの有害事象を考慮する必要があるとしている。

FDA Approves First Cellular Therapy to Treat Patients with Type 1 Diabetes (米国食品医薬品局 2023年6月28日)
Lantidra(一般名:donislecel) 添付文書
Islets Transplantation at a Crossroads - Need for Urgent Regulatory Update in the United States: Perspective Presented During the Scientific Sessions 2021 at the American Diabetes Association Congress (Frontiers in Endocrinology 2022年1月6日)
Over ten-year insulin independence following single allogeneic islet transplant without T-cell depleting antibody induction (Islets 2018年7月19日)
Improved Health-Related Quality of Life in a Phase 3 Islet Transplantation Trial in Type 1 Diabetes Complicated by Severe Hypoglycemia (Diabetes Care 2018年3月21日)
Five-year follow-up of patients with type 1 diabetes transplanted with allogeneic islets: the UIC experience (Acta Diabetologica 2014年7月18日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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