歯周病治療を受けている糖尿病患者は人工透析への移行リスクが32~44%減少 日本の約10万人の糖尿病症例を調査 東北大学

2025.02.26

 2型糖尿病患者に対する歯周病ケアは、透析開始のリスクを32%~44%減少することと関連していることが、東北大学が約10万人の糖尿病患者の追跡データを分析した研究で明らかになった。

 人口透析への移行リスクは、歯科受診をしていない患者と比較する、1年に1回以上の歯周病治療での歯科受診をしている患者で32%減少し、6ヵ月に1回以上の歯周病治療での歯科受診をしている患者で44%減少した。

 歯周病の治療を糖尿病管理に統合することで、糖尿病性腎症の進行を予防し、患者の転帰を改善できる可能性がある。

歯周病の治療により糖尿病患者の血糖管理や炎症が改善

 歯周病は糖尿病のリスクファクターのひとつであり、糖尿病患者での血糖コントロールや全身的な炎症状態に影響を与えることが明らかになっている。一方で、糖尿病患者での歯周病の治療が、長期的に糖尿病合併症の予防につながるのかについては、臨床的エビデンスは不足している。

 そこで東北大学の研究グループは、医療ビッグデータを提供しているJMDCが収集した40~74歳の健康保険組合の被保険者のうち、2015年1月~2022年8月の、40~74歳の2型糖尿病患者9万9,273人分の医療レセプトおよび特定健診のデータを用いて分析した。

 対象者を、追跡開始時点から1年間の歯科受診について、▼歯科受診なし(4万9,177人)、▼歯周病治療以外での歯科受診(7,151人)、▼1年に1回以上の歯周病治療での歯科受診(2万1,637人)、▼6ヵ月に1回以上の歯周病治療での歯科受診(2万1,308人)の4群に分け、その後の人工透析への移行リスクについて比較した。期間中の透析開始の発生率は1000人年あたり0.92だった。

 分析では、コックス回帰モデルを用いた多変量回帰分析により、追跡開始時点以前の糖尿病の治療状況(服薬、受診頻度など)・特定健診の検査データ・生活習慣・他の病気の有無などの影響を統計学的に取り除いたうえでのリスクの違いを推定した。

 その結果、人口透析への移行リスクは、歯科受診をしていない患者と比較する、1年に1回以上の歯周病治療での歯科受診をしている患者で32%減少し[HR 0.68、95%CI 0.51~0.91]、6ヵ月に1回以上の歯周病治療での歯科受診をしている患者で44%減少した[HR 0.56、95%CI 0.41~0.77]。

 なお、歯周病治療以外で歯科受診をしていた患者では、人工透析のリスクに統計学的に有意な差は認められなかった。

歯科を受診し歯周病の治療を受けた糖尿病患者は人工透析へ移行するリスクが低い
40~74歳の糖尿病患者約10万人の医療受診データ・特定健診データを調査 (n=99,273)
歯科受診ごとの共変量調整後の人口透析移行リスク
人口透析移行リスクは、歯科受診なしの患者と比較する、1年に1回以上の歯周病治療での受診により32%、6ヵ月に1回以上の歯周病治療での受診により44%、それぞれ減少した
出典:東北大学、2025年

糖尿病患者の半数は歯周病治療をともなう歯科受診をしていない

 研究は、東北大学大学院歯学研究科 国際歯科保健学分野の竹内研時准教授らによるもの。研究成果は、「Journal of Clinical Periodontology」に掲載された。

 歯周病は糖尿病の発症や進行に影響を与える重要な要因のひとつであり、糖尿病患者の多くは歯周病を有している。歯周病と糖尿病の関連で注目されている点として、歯周治療による血糖コントロールの改善がある。日本歯周病学会により、糖尿病患者への歯周病治療についてのガイドラインも作成されている。

 歯周治療では、患者自身のプラークコントロールの確立に加え、歯周ポケット内のプラークや歯石を取り除く原因除去療法により、歯周組織の炎症の改善をはかり、その後も再発防止のために定期的なメンテナンスが必要とされる。

 これまでの臨床研究で、歯周病治療による糖尿病患者の血糖コントロールや全身的な炎症状態の改善が報告されているものの、実際にそれらが糖尿病合併症の予防につながるという臨床的エビデンスは不足していた。

 「今回の対象者の約半数は、歯周病治療をともなう歯科受診をしていなかった。糖尿病治療における医科歯科連携が不十分である現状は、日本に限らず世界的にも課題となっている。今後、糖尿病治療において医科と歯科がより緊密に連携し、包括的なケアを提供することができれば、糖尿病患者の合併症予防・QOL向上、および社会全体としての医療費負担の減少につながる可能性がある」と、研究者は指摘している。

東北大学大学院歯学研究科 歯学イノベーションリエゾンセンター
Periodontal Care Is Associated With a Lower Risk of Dialysis Initiation in Middle-Aged Patients With Type 2 Diabetes Mellitus: A 6-Year Follow-Up Cohort Study Based on a Nationwide Healthcare Database (Journal of Clinical Periodontology 2025年1月5日)

糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン2023 改訂第3版 (日本歯周病学会)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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