メトホルミンが肝臓での糖新生を抑制する分子機構を解明 2型糖尿病と闘うための新たな治療ターゲット

2024.08.14
 2型糖尿病などの治療薬であるメトホルミンが肝臓での糖新生を抑制する分子機構の一端を解明したと、バルセロナ大学が発表した。

 ミトコンドリア病のバイオマーカーとして知られる成長分化因子15(GDF15)が、肝臓での糖新生で大きな役割を担っており、メトホルミンの一部の作用はGDF15の活性に直接関わっているという。

メトホルミンと成長分化因子15(GDF15)に分子的な関連が

 研究は、バルセロナ大学薬学・食品科学部、UBバイオメディカル研究所(IBUB)、サン ジョアン デ デウ研究所(IRSJD)、糖尿病関連代謝疾患バイオメディカル研究ネットワークセンター(CIBERDEM)のManuel Vázquez-Carrera教授らによるもの。研究成果は、「Trends in Endocrinology & Metabolism」に掲載された。

 2型糖尿病患者の多くは空腹時血糖血の高値に悩まされており、とくにインスリン抵抗性のある患者の場合、肝臓でのグルコース合成経路(糖新生)が過剰に活性化しており、高血糖にもかかわらずグルコースを放出し続け、結果として高血糖になりやすい。

 「2型糖尿病の肝臓での糖新生の過剰活性化を制御することは、空腹時にグルコースを利用できるようにするための重要な戦略となるが、糖新生は多くの要因によって調整されておりコントロールは困難だ」と、Vázquez-Carrera教授は指摘する。

 肝臓での糖新生は、メトホルミンなどの薬剤によりコントロールできることが知られており、メトホルミンは欧米で2型糖尿病の治療薬としてもっとも多く処方されているが、その分子機構は完全には解明されていない。

 現在、メトホルミンがミトコンドリア電子伝達系の複合体IVを阻害することで、糖新生を低下させることが判明している。これは、細胞のエネルギー代謝のセンサーであるAMPKタンパク質の活性化を通じたもので、これまで知られている古典的な効果とは独立したメカニズムによるものだ。

 研究グループはこれまで、ミトコンドリア病のバイオマーカーとして知られる成長分化因子15(GDF15)が、肝臓での糖新生に関与する遺伝子発現を調節するタンパク質のレベルを低下させることが明らかにしており、メトホルミンとGDF15に分子的なつながりがある可能性に着目した。

メトホルミンが肝線維化を誘導する生理活性物質の経路に作用

 「糖新生の調節を改善するために単一の因子に作用することは、疾患を適切に制御するための十分な治療戦略にはならない。2型糖尿病へのアプローチを改善するには、さまざまな因子を考慮した併用療法を設計することが重要だ」と、Vázquez-Carrera教授は述べている。

 メトホルミンは腸にも作用して糖新生を抑制し、肝臓でのグルコース生成を最終的に低下させる。「メトホルミンは、腸でのグルコースの吸収と利用を増加させ、門脈を介して肝臓に到達したときに糖新生を阻害する代謝物を生成する。メトホルミンは腸でのGLP-1の分泌も刺激する。GLP-1は肝臓の糖新生を阻害するペプチドであり、抗糖尿病効果に寄与している」と、Vázquez-Carrera教授は指摘している。

 「メトホルミンによるミトコンドリア複合体IVの活性阻害(これまで考えられていた複合体Iではない)は、肝臓でのグルコース合成に必要な基質の利用可能性を低下させる」としている。

 MASLD(代謝機能障害関連脂肪肝疾患)は、2型糖尿病と併存することが多く、肝線維化を誘導する生体内の生理活性物質(TGF-β)が重要な役割を担っている。

 TGF-βは、細胞の分化や移動などを制御する多機能性サイトカイン。肝臓ではコラーゲン線維を産生させ、肝線維化の促進に寄与していると考えられている。

 これまでメトホルミンは、TGF-βなどを標的にし、肝線維化の進行を遅らせることが報告されている。

 「TGF-βは、肝線維化の進行で非常に重要な役割を担っており、肝糖新生の増加、さらには2型糖尿病に寄与する可能性のある重要な因子のひとつと考えられる。メトホルミンによる肝糖新生の調節でのTGF-β経路の関与を解明することが、血糖管理の改善に役立つ可能性がある」としている。

 現在、TGF-βに加えて、T細胞疲弊を誘導する転写因子として知られるTOX3やTOX4などが、健康改善の戦略を設計するうえでの治療ターゲットになっている。

 また興味深いことに、COVID-19で入院し高血糖を示した患者は多く、糖新生の制御に関与する他の要因も特定されており、肝臓での糖新生に関与するタンパク質の活性を誘発する新型コロナウイルスの能力とも関係があるとみられている。

 研究グループは今後、GDF15が肝臓での糖新生を調節するメカニズムを解明し、それに並行して、循環するGDF15レベルを調整する新しい分子を設計する研究を計画している。

 「GDF15の強力な誘導剤を開発すれば、肝臓での糖新生を減らせるだけでなく、このサイトカインの他の作用によって、2型糖尿病患者の血糖改善につながる可能性がある」としている。

New therapeutic targets to fight type 2 diabetes (バルセロナ大学 2024年7月6日)
Increased hepatic gluconeogenesis and type 2 diabetes mellitus (Trends in Endocrinology & Metabolism 2024年5月29日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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