2型糖尿病の治療により歯周病が改善 HbA1cが改善した患者は歯周ポケットと歯周組織の炎症が減少 東京医科歯科大学

2024.03.27
 東京医科歯科大学などは、2型糖尿病を集約的に治療すると、歯周病の炎症や検査値が改善することを明らかにした。

 2週間の教育入院と継続的な外来診療を受けた2型糖尿病患者で、HbA1cの変化と、歯周組織炎症を示すPISAの改善が相関し、糖尿病治療後に歯周病パラメータが有意に改善することが示された。

 高血糖が誘発する歯周組織での炎症が、糖尿病治療によって除去されたためと考えられる。糖尿病治療では医科歯科連携が重要であることがあらためて示された。

糖尿病治療が歯周炎に及ぼす影響を調査

糖尿病治療による歯周炎の改善

出典:東京医科歯科大学、2024年

 糖尿病の治療では、チーム医療によるさまざまな医学的管理への取り組みが行われており、糖尿病の発症や進行と歯周炎が相互に関わることから、歯科治療も管理の一部を構成している。

 近年は、2型糖尿病をもつ患者への歯周炎の治療により、血糖値が改善する効果が実証されている。しかし、糖尿病の治療により歯周炎が改善するかについては、ほとんど検証されていない。そのため、糖尿病治療で、内科と歯科との連携が十分に行われていない場合がある。

 東京医科歯科大学などの研究グループはこれまで、2型糖尿病により血糖管理が困難になっている患者で、歯周炎の原因であるプラークの付着量に関わらず、歯周組織炎症を示すPISAが、HbA1cおよび空腹時血糖値と有意に相関していることを報告している。

 そこで今回、血糖管理を改善させると歯周炎が軽減する可能性があると考え、2型糖尿病により血糖管理が困難な患者を対象に、糖尿病の集約的治療が歯周炎の状態に及ぼす影響を検討した。

糖尿病の集約的治療とともに歯周病検査を実施

 対象となったのは、同大学医学部附属病院(当時)の糖尿病・内分泌・代謝内科を受診した2型糖尿病患者のうち、血糖管理が困難で、2週間の教育入院と継続的な外来診療を受け、歯科での検査も希望した71人のうち、緊急を要する歯科治療の必要がないと診断された51人。

 集約的な糖尿病治療として、すべての被験者を対象に教育入院中に、薬物療法に加えて、カロリー制限を中心とした食事療法と、定期的な運動を含む生活習慣改善の指導を行った。

 退院後も外来患者として、引き続き治療と生活指導を継続し、また、糖尿病治療の評価を行う包括的な検査の一環として、研究開始時点、開始後1・3・6ヵ月に口腔内検査を行った。

 その際に、歯周病に関する検査に加え、口腔衛生指導と歯肉縁上の歯面清掃を毎回行い、急性炎症などで早期の治療を必要とする被験者は、必要な処置をただちに行い、研究対象から除外した。

糖尿病治療によりHbA1cが改善 歯周組織の炎症も減少

 その結果、6ヵ月の観察期間終了後に解析の対象となったのは33人(平均年齢58.7±12.9歳)だった。平均HbA1cは9.6±1.8%から、1ヵ月後には7.9±1.2%に、6ヵ月後には7.4±1.3%に改善した。

 また、口腔内の変化としては、歯の本数(平均24.3±5.5本)は全被験者で変化はなく、歯周炎のパラメータは6ヵ月後に、口腔内全体の歯周ポケット深さの平均は2.3±0.6mmから2.0±0.5mmへ、4mm以上の歯周ポケットの割合は12.3±13.4%から6.8±9.3%へ、プロービング時出血(BOP)は25.3±18.8%から9.7±9.7%へ、PISAは318.3±280.0mm2から134.8±165.6mm2へと、それぞれ改善した。

 これらの変化を、歯周病の治癒に影響を与える因子である、喫煙、体格指数(BMI)の変化、および歯へのプラークの付着量(プラークコントロールレコード)の影響を補正して、統計解析を行ったところ、口腔内全体の歯周ポケット深さの平均、PISAの減少量は、HbA1cの変化と有意に相関していることが示された。

 さらに興味深いことに、歯周組織の炎症に直結する因子である口腔清掃状態とは無関係に、糖尿病治療後に歯周病パラメータの有意な改善がみられた。この知見は、高血糖が誘発する歯周組織での炎症が、糖尿病治療により除去されたという機序を支持するものとしている。

 ただし臨床的には、歯周炎の重要な病因因子である歯肉縁下歯石が本研究中に除去されなかったため、深い歯周ポケットや出血などの歯周炎の症状はいぜんとして残っており、研究期間終了後に歯周病専門医が必要な歯周治療を行ったとしている。

糖尿病と歯周炎の双方向の関係性
出典:東京医科歯科大学、2024年

糖尿病と歯周炎の双方向の関連を確認 医科歯科連携はやはり重要

 研究は、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯周病学分野の岩田隆紀教授と水谷幸嗣講師の研究グループが、九州大学、横浜市立みなと赤十字病院、総合南東北病院と共同で行ったもの。研究成果は、「Journal of Clinical Periodontology」にオンライン掲載された。

 「本研究は、口腔清掃が不十分な患者で、歯周炎の原因となる歯肉縁下歯石やプラークの除去をする歯周治療を行わず、ごく限られた歯面清掃のみで、糖尿病治療により歯周ポケットの深さとプロービング時の出血などの歯周炎の検査値が有意に改善することをはじめて示したものだ」と、研究者は述べている。

 「2型糖尿病をもつ患者の歯周炎は、血糖管理が困難な症例ほど、糖尿病治療により改善する可能性が示唆された。これまでの疫学研究から示唆されてきた"糖尿病と歯周炎の双方向の関連"を、治療効果により明確に裏付けるエビデンスとなる」としている。

 今回の結果から、糖尿病をもつ患者の歯周炎の治療では、糖尿病治療により歯周組織の炎症を軽減させることの臨床的な意義が明らかとなった。今後も、糖尿病治療で医科歯科連携を促進すべきことが示唆されたとしている。

東京医科歯科大学病院 歯周病科
Improvement of periodontal parameters following intensive diabetes care and supragingival dental prophylaxis in patients with type 2 diabetes: A prospective cohort study (Journal of Clinical Periodontology 2024年3月6日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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