SGLT2阻害薬が糖尿病患者の尿路結石を抑制 抗炎症作用が結石形成を抑える可能性
尿路結石症の成因の究明、治療薬の確立は喫緊の課題に
尿路結石症は男性15%、女性7%(男性7人に1人、女性15人に1人)が生涯で罹患する罹患数の多い内分泌代謝疾患のひとつで、猛烈な痛みをともなう。再発率は高く、5年で約50%の人が再発するとされている。
尿路結石の約90%は、結晶成分としてシュウ酸カルシウムを含むが、このカルシウム含有結石の形成を抑制したり、溶解する薬はなく、根本的な治療薬はない。結石のもっとも有効な予防方法は「しっかり水分を摂ること」となっている。そのため、尿路結石症の成因の究明、再発予防法、治療薬の確立は喫緊の課題となっている。
SGLT2阻害薬を処方された患者で尿路結石の有病割合が低下
研究グループは今回、腎臓でのグルコースの再取り込みを抑制し血糖を低下させる糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬に着目。SGLT2阻害薬は近年では、心臓や腎臓の保護作用が注目されている。さらには、利尿作用や抗炎症作用といった結石形成に抑制的に働く効果もあり、研究グループは、結石形成も抑制するのではないかと考えた。これまで、SGLT2阻害薬と腎結石形成に関する詳細な検討はなされていなかった。
まず、日本のDPCデータベース(糖尿病患者約153万人)を使用し、リアルワールドデータ(医療ビッグデータ)で、SGLT2阻害薬処方の有無で尿路結石の有病率に差があるかを検証した。
約90万人の男性糖尿病患者のうち、SGLT2阻害薬を処方されている患者での尿路結石有病率は2.28%、SGLT2阻害薬を処方されていない患者での尿路結石有病率は2.54%であり、SGLT2阻害薬の使用患者では尿路結石の有病割合が有意に低下していることを突き止めた。
SGLT2阻害薬による結石形成の抑制は抗炎症作用によるもの?
次に、シュウ酸カルシウム腎結石形成ラットとマウスを使用した動物実験により、SLGT2の阻害が結石形成にどのように関与しているかを検討。シュウ酸カルシウム腎結石形成ラットでは、SGLT1/2阻害薬のフロリジン投与により、腎結石形成量が有意に抑制された。また、結石形成に重要なタンパク質オステオポンチン(OPN)の発現や炎症マーカータンパク質、腎障害・線維化マーカータンパク質もフロリジン投与により有意に低下した。
一方、研究グループはフロリジンの利尿作用による尿量増加を想定していたが、飲水量と尿量に有意な差は認められなかった。つまり、今回の腎結石の形成抑制の作用は利尿作用ではなく、抗炎症作用によるものと考えられた。
加えて、SGLT2ノックアウトマウスでは、シュウ酸カルシウム腎結石の形成がほとんど認められず、OPNを含む結石形成や炎症に関わる遺伝子発現もワイルドタイプマウスに比べて有意に低下していた。また、ヒト近位尿細管培養細胞を使用した検討でも、動物実験の結果と同様に、SGLT2の阻害によりシュウ酸カルシウム結晶接着量の低下ならびにOPNを含む結石形成や炎症に関わる遺伝子発現の有意な低下が認められた。
SGLT2阻害薬の腎結石治療薬への応用を期待
研究は、東北医科薬科大学医学部泌尿器科学教室の阿南剛助教(現:四谷メディカルキューブ泌尿器科科長)と統合腎不全医療寄附講座/東北大学大学院医学研究科の廣瀬卓男助教、東北医科薬科大学病院薬剤部の菊池大輔副薬剤師長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Pharmacological Research誌」に掲載された。
「今回の疫学研究、動物実験、細胞実験により、近位尿細管でのグルコース取り込みを抑制するSGLT2阻害薬が、OPN発現抑制ならびに抗炎症作用により腎結石形成を抑制することを明らかにしました」と、研究グループでは述べている。
「カルシウム含有腎結石に対する予防薬・治療薬はこれまで存在していませんので、腎結石形成メカニズムの解明ならびに腎結石治療薬への応用が期待できると考えられます」としている。
東北医科薬科大学 医学部 泌尿器科学
東北医科薬科大学 医学部 内科学第三(腎臓内分泌内科)教室 統合腎不全医療寄附講座
Inhibition of sodium-glucose cotransporter 2 suppresses renal stone formation (Pharmacological Research 2022 年11月6日)