CGMによる血糖管理指標と動脈硬化の関連を明らかに HbA1c値のみの血糖管理には限界が 日本人の2型糖尿病が対象 順天堂大学

2023.10.11
 順天堂大学は、持続血糖モニター(CGM)による血糖マネジメント指標と、動脈硬化の指標の変化の関連性を調査した。

 その結果、CGMにより評価した血糖変動が小さいほど、また目標血糖値範囲の割合が高いほど、頚動脈壁の組織性状の改善が大きいことが示された。

 HbA1c値だけでは血糖変動は評価できない。CGMで血糖パターンを評価することは、動脈硬化の変化の予測の一助になるとしている。

CGMによる血糖変動や目標血糖値範囲の割合の評価は動脈硬化を予測するうえで重要

 順天堂大学は、持続血糖モニター(CGM)により評価した血糖変動と目標血糖値範囲の割合が、頚動脈壁の組織性状の変化と関連することを明らかにした。

 研究グループは、2型糖尿病患者を対象に、CGMでえられた血糖マネジメント指標と、頸動脈超音波検査で評価した動脈硬化の指標である頚動脈内膜中膜複合体肥厚度と、頚動脈壁の組織性状の、2年間の変化との関連性を検討した。

 動脈硬化が進行すると内膜と中膜の部分が肥厚する。超音波により頸動脈を観察し、頸動脈内膜中膜複合体肥厚を測定することで、動脈硬化の進行具合がわかる。

 その結果、試験開始時での血糖変動の指標が小さいほど、あるいは目標血糖値範囲の割合が高いほど、頚動脈壁の組織性状の改善が大きいことが明らかになった。

 「CGMにより血糖変動や目標血糖値範囲の割合を評価することは、動脈硬化の変化を予測するうえで重要であることが示された」と、研究グループでは述べている。

 「HbA1cの評価のみならず、CGMの指標を日常の臨床に取り入れることは、動脈硬化性疾患などの合併症の発症や進行を阻止するための最適化治療を実現するうえで非常に重要と考えられる」としている。

 研究は、順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の三田智也准教授、綿田裕孝教授らの研究グループによるもの。研究成果は、欧州糖尿病学会誌「Diabetologia」にオンライン掲載された。

明らかな心血管イベントの既往のない600人の2型糖尿病患者を対象とした観察研究で、持続血糖モニター(CGM)により評価した試験開始時の血糖変動の指標や目標血糖値範囲の指標が2年間の頚動脈壁の組織性状の変化に関連していた。

出典:順天堂大学大学、2023年

HbA1cのみによる血糖管理評価には限界が 海外ではCGMによる評価を推奨

 糖尿病の日常診療では、HbA1cが使用されており、日本を含めた各国のガイドラインで、合併症を抑制するための血糖マネジメントの目標としてHbA1c7%未満の達成が推奨されている。

 一方、血糖変動が大きい2型糖尿病患者では死亡率が高くなることが報告されているものの、HbA1c値だけではその血糖変動を評価できない。そのため、持続血糖モニター(CGM)による血糖変動の評価が重要と考えられる。

 米国や欧州の糖尿病学会のガイドラインでは、HbA1cに加えて、CGMによる目標血糖値範囲の割合の評価することが推奨されている。具体的には、一般的な2型糖尿病患者で目標血糖値範囲の割合を70%より大きくすることを治療目標としている。

 一方、目標血糖値範囲の割合が高いことが、2型糖尿病患者の予後や動脈硬化性疾患などの合併症に関連するかは十分に示されておらず、今後のデータの蓄積やエビデンスの構築が必要とされている。また、血糖変動が動脈硬化の発症や進行と関連するかは明らかになっていない。

 そこで研究グループは、2型糖尿病患者を対象に、CGMでえられた血糖変動の指標あるいは目標血糖値範囲の割合と頸動脈超音波検査で評価した、動脈硬化の指標である頚動脈内膜中膜複合体肥厚度、あるいは頚動脈壁の組織性状の2年間の変化の関連性を検討した。

 CGMは、アボット社の「FreeStyleリブレPro」を使用。15分ごとにグルコース値を自動的に記録し、最長14日間の持続的測定ができる。

 頚動脈壁の組織性状は、超音波で撮影した画像をコンピューターで処理して血管壁の画素の濃淡の度数分布であるGSM(Gray-Scale median)を計算するもの。

血糖変動が小さいほど、目標血糖値範囲の割合が高いほど、2年間の頸動脈壁の組織性状の変化は改善

 具体的には、順天堂医院などに通院中の2型糖尿病患者600人を対象に、試験開始時と試験開始2年後にCGMと頸動脈超音波検査で頚動脈内膜中膜複合体肥厚度と頚動脈壁の組織性状の評価を行った。

 CGMで、血糖変動の指標として変動係数、その他の血糖マネジメント指標として目標血糖値範囲(70~180mg/dL)を満たす治療域の割合を評価した。

 また、治療域より低値である低血糖域の割合(70mg/dL未満、54mg/dL未満)、治療域より高値である高血糖域の割合(180mg/dLより大きい、250mg/dLより大きい)も評価した。

 そして、変動係数あるいは目標血糖値範囲の割合と頸動脈内膜中膜複合体肥厚度あるいは頸動脈壁の組織性状の2年間の変化との関連性を調査した。

 その結果、年齢、性別やHbA1cなど一般的な動脈硬化のリスク因子を調整した後で、試験開始時の変動係数が小さいほど、あるいは目標血糖値範囲の割合が高いほど、2年間の頸動脈壁の組織性状の変化は改善を認められることを明らかにした。

 一方で、日常の診察で使用されている血糖マネジメント指標であるHbA1cと、2年間の頸動脈壁の組織性状の変化との関連性は認められなかった。

 さらに、試験開始時に国際的なコンセンサスによって提唱されたCGMの目標値(目標血糖値範囲の割合、低血糖域の割合と高血糖域の割合の目標値のいずれも)を達成した対象者は、達成しなかった被験者と比較して、頸動脈壁の組織性状の2年間の変化は有意に大きいことが分かった。

 一方で、試験開始時の変動係数あるいは目標血糖値範囲の割合と、頚動脈内膜中膜複合体肥厚度の2年間の変化には、有意な関連性は認められなかった。

 今回、対象とした集団は明らかな心血管イベントの既往のない2型糖尿病患者であったため、頸動脈内膜中膜複合体肥厚度はあまり高値ではなかった。つまり、頸動脈の動脈硬化はあまり進行していなかった。

 一般的に、血管壁の組織性状の変化が進行した後に、血管壁の肥厚が起きるため、早期の動脈硬化を評価する方法としては、頸動脈壁の組織性状の測定が優れているとされている。

 そのため今回、試験開始時の変動係数あるいは目標血糖値範囲の割合と頸動脈壁の組織性状の変化のみ有意な関連性を認めたのではないかと考えられるとしている。

 「以上より、日常の診察で血糖マネジメント指標として使用しているHbA1cではなく、CGMにより評価した血糖変動や目標血糖値範囲の指標が頸動脈壁の組織性状の変化に関連していることが明らかになった。したがって、将来の動脈硬化の進行を予測するためには、HbA1cでは評価できない血糖変動や目標血糖値範囲の割合をCGMにより評価することが大切だと言える」と、研究グループでは述べている。

 「それゆえ、HbA1cの評価のみならずCGMの指標を日常の臨床に取り入れることは、動脈硬化性疾患などの合併症の発症や進行を阻止するための最適化治療を実現するうえで非常に重要であると考えられる」としている。

 今後の展開としては、「これらの指標が心血管イベントや細小血管障害や予後と関連するのかを明らかにしたいと考えている。さらに、それらの指標を改善させることが、動脈硬化や心血管イベントの抑制につながるかを検証する予定」としている。

順天堂大学大学院医学研究科 代謝内分泌内科学
Continuous glucose monitoring-derived time in range and CV are associated with altered tissue characteristics of the carotid artery wall in people with type 2 diabetes (Diabetologia 2023年9月26日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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