後発医薬品の処方選択に影響するのは[患者の重症度・医師と患者の信頼関係・アドヒアランス] 患者の55%は後発品を希望との調査結果も
後発医薬品の処方選択に影響する因子を解析
先発医薬品より安価な後発医薬品は、医療の質を保ちつつ患者負担の軽減や医療費の効率化をはかるのに有用で、保険財政の改善に資すると期待されている一方で、品質や安定供給の観点から脆弱性があるなどの懸念もある。
そこで東京大学のグループは、後発医薬品の選択の状況や推移をモニタリングし、機械学習などの人工知能(AI)や大規模なデータベースの解析や、最新の医学統計や物理統計なども駆使し、世界ではじめて後発医薬品のスイッチ機序を洞察した。
後発医薬品を処方選択するときに影響するものとして、▼患者の重症度、▼医師と患者の信頼関係、▼患者のアドヒアランスが大きいことを明らかにした。
「これらの知見は、後発医薬品の政策的普及が鈍化し始めた場合、医薬品の適切な処方に貢献する可能性がある。患者との信頼を築きながら、重篤な病気を予防することは、臨床上の利益と社会経済的な成果の向上につながると考えられる」としている。
研究は、東京大学大学院医学系研究科医療経済政策学講座の田倉智之特任教授(研究当時)らによるもの。研究成果は、「JMIR Aging」に掲載された。
4.8万人超の患者の医療データベースを解析 AIや医療ビッグデータを応用
後発医薬品への切り替えを最大限に高め、医療システムの持続可能性を確保するには、低コスト以外の要因に焦点をあてた追加の戦略が必要になる場合がある。
そこで研究グループは今回、患者の重症度、複合的なアドヒアランス、および医師と患者の関係が、後発医薬品の切り替えにどのように影響するかについて検証した。
患者の重症度やアドヒアランス、および医師と患者の関係が、処方医薬品の切り替えにどのように影響するかを明かにするのは、そのメカニズムの複雑さから通常の臨床試験では困難なので、AIや医療ビッグデータというデータサイエンスを応用し、後発医薬品のスイッチ機序を洞察した。
今回の研究は、長期のレトロスペクティブなコホートの分析を標榜したもので、全国の医療データベースのデータを利用した。対象としたのは、2014年4月~2018年3月の4年間に心血管疾患(CVD)による入院歴があり、一次から三次予防措置を必要としたすべての年齢層の患者(主に高齢者)4万8,456人で、平均追跡期間は36.1±8.8か月、平均年齢は68.3±9.9歳だった。
研究グループは、臨床パラメータの時間的変動を独立変数として、後発医薬品への切り替えに焦点をあて、ライフスタイルの要因(喫煙と飲酒)についても考慮した。
アドヒアランスは、AIを応用して11の要素からなる複合スコアとして測定した。医師と患者の信頼関係は、医師の変更から処方までの間隔にもとづいて設定した。また、医師と患者の関係および服薬コンプライアンス(PDC)の層別化解析では、ロジスティック回帰分析と傾向スコアマッチング(PSM)を採用した。
対象となった患者の体格指数(BMI)は23.4±3.4、収縮期血圧は131.2±15.0mmHg、LDL-Cは116.6±29.3mg/dL、HbA1cは5.9%±0.8%、血清クレアチニンは0.9±0.8mg/dLだった。
患者の状態(重症度)とアドヒアランスの水準が影響 医師と患者の信頼関係も重要
その結果、ロジスティック回帰分析により、後発医薬品への切り替えと有意な関連があるものとして、下記が明らかになった。
収縮期血圧 | オッズ比(OR) 0.996、95%信頼区間(CI) 0.993~0.999 |
---|---|
血清クレアチニン値 | OR 0.837、95%CI 0.729~0.962 |
OR 0.994、95%CI 0.990~0.997 | |
服薬継続(PDC)スコア | OR 0.959、95%CI 0.948~0.970 |
アドヒアランス・スコア | OR 0.910、95%CI 0.875~0.947 |
HbA1c水準および喫煙状態の改善とともに、後発医薬品の処方割合は増加した[P<.01、P<.001] |
さらに、傾向スコアマッチング(PSM)後の、医師と患者の関係が優れていたグループ(51.6±15.2%)は、劣っていたグループ(47.7±17.7%)よりも、後発医薬品の処方率が有意に高くなった[P<.001]。
後発医薬品の選択に患者の状態(重症度)とアドヒアランスが影響
医師と患者の信頼関係も重要
HbA1c水準の改善とともに後発医薬品の選択は増加 |
医師と患者の関係が優れていると後発医薬品の処方率は高い |
「医師の理解は後発医薬品の選択に影響するが、患者の状態(重症度)とアドヒアランスの水準もこの決定に影響することが示された。たとえば、クレアチニン値の改善は、ジェネリック医薬品の選択と関連しており、医師と患者の関係が強固であることは、後発医薬品の処方率の高さと相関している」と、研究者は述べている。
「今回の研究で、医師と患者が信頼を築きながら重篤な病気の進行を予防することは、臨床上の利益と社会経済的な成果の向上につながることが示唆された。医療システムを取巻く社会経済が厳しさを増すなか、医療資源の有効活用とともに健康行動の普及促進は、ユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)の礎として重要性が増している」。
「後発医薬品が有する新たな側面(付加価値)を示したこの研究の知見は、医薬品処方の選択や普及を適切に促し、社会保障制度の持続的な発展に貢献することが期待される」としている。
東京大学大学院医学系研究科 医療経済政策学
Factors Influencing Drug Prescribing for Patients With Hospitalization History in Circulatory Disease–Patient Severity, Composite Adherence, and Physician-Patient Relationship: Retrospective Cohort Study (JMIR Aging 2024年4月6日)
長期収載品に係る選定療養について 施行直後の対応状況報告書 (日本保険薬局協会 医療制度検討委員会 2024年12月)