不眠症の症状がHbA1cを上げる可能性
睡眠時間を短縮したり睡眠を中断したりすると、インスリン抵抗性が亢進し血糖値が上昇することが、実験的に明らかにされている。また、睡眠時間が短いことや不眠症、および夜型生活と2型糖尿病リスクとの関連は、疫学研究からも示されている。ただし、身体活動量や食習慣などの残余交絡、あるいは神経因性疼痛や夜間頻尿などによる因果の逆転といったバイアスのため、睡眠と糖代謝異常との因果関係はいまだ明らかでない。これを背景としてLiu氏らは、英国の大規模ヘルスケア情報データベース「UKバイオバンク」と、ゲノムワイド関連解析(GWAS)のデータベースを用い、3通りの手法によって一般住民における睡眠とHbA1cとの関連を検討した。
UKバイオバンクには、2006~2010年に40~69歳の成人50万3,317人が登録されており、睡眠習慣やHbA1c、随時血糖値などのデータを利用可能。今回の研究では、遺伝子型が特定されている白人33万6,999人(平均年齢56.9±8.0歳、女性54%)を解析対象として、多変量解析および1サンプルメンデルランダム化解析(1SMR)を実施した。一方、GWASのデータベースを用いた解析は、HbA1cの記録のある4万6,368人(53±11歳、女性52%)と、空腹時血糖値の記録のある4万6,186人(52±13歳、女性56%)を解析対象とする、2サンプルメンデルランダム化解析(2SMR)を実施した。
睡眠習慣については、自己申告により、不眠症の症状、睡眠時間、日中の眠気、昼寝の習慣、クロノタイプ(朝型か夜型か)という5項目を把握した。このうち不眠症の症状については、「全くない」「まれに、または時々ある」「常にある」の3群に分類した。
解析の結果、3通りいずれの手法でも、不眠症症状を有しその頻度が高い群の方が、HbA1cが高いという有意差が認められた。具体的に、多変量解析では、不眠症の症状が「常にある」群は、「全くない」「まれに、または時々ある」の両群に比較し、HbA1cが0.051ポイント(95%信頼区間0.043~0.058)高かった。同様に、1SMRでは0.523ポイント(同0.419~0.628)、2SMRでは0.235(同0.109~0.362)ポイント高値だった。解析対象から糖尿病患者を除外すると、これらの群間差はやや縮小したが、他の睡眠関連指標の解析結果も含め、多くの項目の群間差の有意性が維持されていた。
著者らは、「われわれの研究結果は、不眠症の症状を有していてその頻度が高いことがHbA1cレベルを引き上げ、2型糖尿病の潜在的なリスクになり得ることを示唆している」と結論付けている。その上で、「この結果は、糖尿病予防のために睡眠習慣を評価し、かつ改善するための戦略を開発することの重要性を裏付けている」と付け加えている。
なお、一部の著者が、製薬・医療機器メーカーとの金銭的関係の存在を明らかにしている。
[HealthDay News 2021年4月7日]
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