糖尿病薬「SGLT2阻害薬」「GLP-1受容体作動薬」の処方が4倍以上に増加 推奨治療法の処方が介入により改善

2023.03.16
 医師の処方慣行を改善するための多面的な介入により、米国糖尿病学会(ADA)と米国心臓病学会(ACC)の治療ガイドラインで推奨されている3クラスの薬剤の処方が4倍以上増加したと、3月に開催された第72回米国心臓病学会(ACC)年次学術集会で発表された。

 その3剤とは、▼アンジオテンシン変換酵素阻害薬/アンジオテンシン受容体拮抗薬(ACE/ARB)、▼SGLT2阻害薬、▼GLP-1受容体作動薬。

 「これらの3クラスの薬剤について、心血管疾患におけるエビデンスにもとづき、日常の臨床診療での適切な処方を促進する多面的な介入を行うことで、患者が受けるケアの質を実際に改善できることが示された」と、研究者は述べている。

「ACE/ARB」「SGLT2阻害薬」「GLP-1受容体作動薬」
3クラスの薬剤の処方が4倍以上に増加

 医師による処方慣行を改善するための多面的な介入により、米国糖尿病学会(ADA)と米国心臓病学会(ACC)の治療ガイドラインで推奨されている3クラスの薬剤の処方が4倍以上に増加したと、3月に開催された第72回米国心臓病学会(ACC)年次学術集会で発表された。

 その3剤とは、▼アンジオテンシン変換酵素阻害薬/アンジオテンシン受容体拮抗薬(ACE/ARB)、▼SGLT2阻害薬、▼GLP-1受容体作動薬。

 ACE/ARBは降圧薬であり、心・腎保護の利点を示したエビデンスが、SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬は血糖降下薬であり、心・腎保護の利点を示したエビデンスがそれぞれ蓄積されている。

 研究は、糖尿病専門医・心臓病専門医・プライマリケア臨床医の連携を適切化することで、心血管疾患の高リスク集団での処方慣行の改善を目指したもの。

 2型糖尿病と心疾患をもつ患者は心血管イベントのリスクが高く、3剤は2次予防と早期死亡を減らすのに効果的としている。

 「これらの3クラスの薬剤について、心血管疾患におけるエビデンスにもとづき、日常の臨床診療での適切な処方を促進する多面的な介入を行うことで、患者が受けるケアの質を実際に改善できることが示された」と、米デューク大学医学部およびデューク臨床研究所の心臓病学准教授で研究の筆頭著者であるNeha J. Pagidipati氏は述べている。

介入によりSGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬の処方が増加

 研究は、2型糖尿病とアテローム性動脈硬化性心疾患を合併している患者を対象としたもので、研究グループは米国の43の心臓病を診療科目とするクリニックを対象に、2019年7月~2022年5月の期間および2022年12月までのフォローアップ期間を設け介入した。

 対象となったクリニックを、(1) 従来の基本的な教育を受ける群、(2) 3クラスの薬剤の処方を改善することを推奨した6部構成の個別介入を受ける群に、無作為に割り当てた。

 登録後6~12ヵ月で推奨された3クラスの薬剤すべてが処方された参加者の割合を主要アウトカムとして、二次アウトカムには、アテローム性動脈硬化性心血管疾患の危険因子の変化と、心筋梗塞、脳卒中、非代償性心不全、または緊急の血行再建術による全死因あるいは入院の複合アウトカムが含まれた。

 多面的な介入を受けたクリニックに対して協力を求め、臨床医間のケアを調整するためのツール、臨床医向けの教育と毎月の電話会議、患者向け​​の教育資材、処方習慣が他の診療所の処方習慣と比較してどのようであるかを示す品質指標に関するフィードバックを提供した。

 その結果、ベースラインで3クラスの薬剤のすべてを処方されていなかった2型糖尿病および心血管疾患と診断された患者1,049人(年齢中央値70歳、女性32.2%)を対象とした12ヵ月のフォローアップ期間に、3クラスの薬剤の処方は、対照群の患者で14.5%(85/588)だったのに対し、介入群の患者では37.9%(173/457)に上昇し、23.4%の差が出た(調整オッズ比 4.38、95%CI 2.49~7.71、P<0.001)。

 ACE/ARBの処方は、対照群は69.6%から68.0%に推移したのに対し、介入群では75.1%から81.4%に増えた(調整オッズ比 1.82、95%CI 1.14~2.91)。

 SGLT2阻害薬および/またはGLP-1受容体作動薬の処方は、対照群は14.5%から35.5%に推移したのに対し、介入群では12.3%から60.4%に上昇した(調整オッズ比 3.11、95%CI 2.08~4.64)。

 二次複合アウトカムの転帰は、対照群は6.8%で発生したのに対し、介入群では5.0%に抑えられた(調整ハザード比 0.79、95%CI 0.46~1.33)。

ガイドラインが推奨するベストプラクティスは患者に利益をもたらす

 「SGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬の処方は、両群で増加したが、とくに介入群では大幅に増加した。ただしこれは、研究期間中に治療ガイドラインの改訂が発表された影響もあるとみられる」と、Pagidipati氏は言う。

 研究グループは、介入のカスタマイズされた性質と、複数のコンポーネントの使用が、介入の成功に貢献した可能性を指摘。今後は、介入に関する情報を広く利用できるようにし、それを活用して医療環境の全体に拡大することを計画している。

 「この試験は、臨床的利益を評価するように設計されたものではないが、ガイドラインが推奨するベストプラクティスの採用が増えることで、慢性疾患のある患者が長期的に健康を改善するための管理を適切化するのに役立つ可能性がある」。

 「新しい治療法を開発することは重要だが、その治療法を必要とする患者に実際に届けられるようにすることに焦点を当てることは、同じくらい重要だ。今回の研究は、これらの薬剤の処方を大幅に改善できることを証明したもので、心血管イベントの予防につながる期待できる」としている。

 なお、今回の研究は、ベーリンガーインゲルハイムとイーライリリー・アンド・カンパニーから資金提供を受けて実施された。

Multifaceted strategy boosts preventive care for diabetes, heart disease (米国心臓病学会 2023年3月6日)
Coordinated Care to Optimize Cardiovascular Preventive Therapies in Type 2 Diabetes: A Randomized Clinical Trial (JAMA 2023年3月)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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