DPP-4阻害薬から発がん性の可能性があるNTTPを検出 「ジャヌビア」「グラクティブ」と配合薬「スージャヌ」 厚労省が追加試験の結果を公表

2023.09.29
 厚生労働省の医薬安全対策課などは、DPP-4阻害薬の「ジャヌビア」「グラクティブ」および配合薬の「スージャヌ」について(いずれも一般名はシタグリプチンリン酸塩水和物およびその配合薬)、発がん性を有する可能性のあるニトロソアミン類(NTTP)が検出された問題をめぐり、追加の非臨床試験の結果をふまえた安全性評価の報告を公表した。

 ラットを用いてNTTPの遺伝毒性を評価する試験を行った結果、NTTPを経口投与されたラットの肝臓で遺伝毒性が認められた。試験結果から、NTTPは発がんリスクが示唆されるとしている。

 ただし、同試験は遺伝毒性を評価した試験であり、その結果をもとに発がん性に関する1日許容摂取量を設定することは困難としている。

 シタグリプチン単剤については、製法変更などにより製剤中のNTTPを低減する方針で検討が進められている。医療機関に対しては、「製造販売業者より提出された同剤の使用による健康への影響評価で示されたリスクもふまえて検討してほしい」と述べ、「患者の自己の判断のみにより同剤の服用を中止しないよう説明してほしい」としている。

NTTPを低減した製剤に入れ替わる時期は2027年の見込み

 厚生労働省の医薬安全対策課などは、DPP-4阻害薬の「ジャヌビア」「グラクティブ」および配合薬の「スージャヌ」について(いずれも一般名はシタグリプチンリン酸塩水和物およびその配合薬)、発がん性を有する可能性のあるニトロソアミン類(NTTP)が検出された問題をめぐり、追加の非臨床試験の結果をふまえた安全性評価の報告を公表した。

 これは、第9回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会で出されたもの。該当する製剤は以下の通り。

ジャヌビア錠 12.5mg、25mg、50mg、100mg MSD株式会社
グラクティブ錠 12.5mg、25mg、50mg、100mg 小野薬品工業株式会社
スージャヌ配合錠   MSD株式会社

 ラットを用いてNTTPの遺伝毒性を評価する試験を行った結果、NTTPを経口投与されたラットの肝臓で遺伝毒性が認められた。試験結果から、NTTPは発がんリスクが示唆されるとしている。

 ただし、同試験は遺伝毒性を評価した試験であり、その結果をもとに発がん性に関する1日許容摂取量を設定することは困難としている。

 遺伝毒性は、DNAの損傷を引き起こす性質であり、これを評価する試験で陽性となった物質は、ヒトに対する発がん物質や変異原物質である可能性があるとしている。

 シタグリプチン単剤については、製法変更などにより、製剤中のNTTPを低減する方針で検討が進められている。国内に流通するすべての製剤が、NTTPを低減した製剤に入れ替わると見込まれる時期は2027年2月としている。

 それまでに、同剤100mgを毎日服用した場合の理論上の発がんリスクの上昇の程度は、NTTPの1日許容摂取量を37ngとした場合は、生涯で11万5,000人に1人あるいは31万2,000人に1人が、過剰にがんを発症する程度のリスクに相当するとしている。

患者の自己の判断のみにより服用を中止しないよう説明

 日本で同剤が承認を受けた2009年10月から2023年8月31日までに、同剤のがんに関連する国内副作用症例報告は105件報告されているが、いずれも因果関係は明確ではない。

 また、日本で同時期に、同剤の発がんに関連する研究報告は6件あるが、いずれも同剤中のニトロソアミン類について検討したものではないとしている。

 医療機関に対しては、同剤の使用にあたり「製造販売業者より提出された同剤の使用による健康への影響評価で示されたリスクもふまえて検討してほしい」としている。「患者の自己の判断のみにより同剤の服用を中止しないよう説明してほしい」とている。

シタグリプチン単剤中のNTTP量を報告 配合薬も

 医薬安全対策課などは2022年9月に、NTTP検出の報告を受けて事務連絡を発出し、以下の内容について周知を行った。

  •  一般的に、ニトロソアミン類は発がん性を有する可能性があるが、NTTPが発がん性を有するかは不明。
  •  米国食品医薬品局(FDA)でも、この件についての情報が発表されており、FDAは現時点で、患者が医療の専門家に相談せずに服用を止めることは危険な可能性があるとして、無治療期間を防止するためにも臨床上適切な場合には同剤の使用継続を推奨している。
  •  患者自身の判断のみにより服用を中止しないことを説明してほしい。また、患者から同剤の服用の継続について照会などがあり、他剤への切替えなどの対応を希望する場合には、他の治療選択肢について医師または薬剤師に相談してもらいたい。
  •  現在、NTTPについては同剤の製造販売業者が追加の非臨床試験の実施について検討するとともに安全性の評価を行っている。

 MSDと小野薬品工業により、2023年9月1に評価報告書が提出された。それによると、シタグリプチン単剤中のNTTP量は、以下の通りだった。

12.5mg製剤 (6ロット) 平均0.63ppm 最小0.37ppm、最大0.97ppm
25mg製剤 (37ロット) 平均0.88ppm 最小0.53ppm、最大1.78ppm
50mg製剤 (63ロット) 平均0.98ppm 最小0.33ppm、最大2.66ppm
100mg製剤 (155ロット) 平均1.30ppm 最小0.22ppm、最大4.27ppm
※シタグリプチンとイプラグリフロジンの配合剤中のNTTP量は、9ロット測定し、1ロットは0.14ppm、その他はいずれも0.05ppm未満だった

 NTTPの1日許容摂取量について、欧米は現時点で、構造が類似する化合物の毒性データにもとづき、37ngと公表している。シタグリプチンの1日服用量を100mgとした場合は、0.37ppmに相当する。

 ニトロソアミンの発がん性新評価法にもとづくと、NTTPの1日許容摂取量は100ngとなる。シタグリプチンの1日服用量を100mgとした場合、1ppmに相当する。

 発がんリスクの評価は、以下の前提で行われた。

  •  同剤の1日あたりの使用量については、シタグリプチン単剤の用法および用量が「通常、成人にはシタグリプチンとして50mgを1日1回経口投与する。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら100mg1日1回まで増量することができる。」であるため、100mgとされた。
  •  製剤中のNTTPの含量については、同剤は長期間の服用が想定され、単一の製剤ロットの使用は想定されないことから、製剤ロット間の含量のばらつきはあるものの、100mgの平均値である1.30ppmを含量として設定された。

令和5年度第9回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会 (厚生労働省 2023年9月21日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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