日本人の肥満症の新たな減量目標を提唱 1年後に5%以上、5年後に7.5%以上の体重減少 5つの国立病院の肥満患者が対象
減量開始1年後に5%以上、5年後には7.5%以上の体重減少が目標
京都医療センターなどの研究グループは、肥満のある日本の患者のCVDリスクを低減するために、どの程度の減量が効果的かを明らかにするため、心血管疾患(CVD)リスク因子重積数に焦点をあて、5年間にわたり減量指導を受けた通院中の肥満患者でのCVDリスク因子低減と体重減少との関連を検討した。
その結果、減量開始1年後では初期体重の5%以上、5年後では7.5%以上の体重減少が、肥満患者のCVDリスクの改善に必要であることが判明した。
研究グループは今回、「国立病院機構肥満症多施設共同研究」(NHO-JOMS)の全国多施設共同コホートに参加した肥満患者576人(5年間の追跡調査を完了したのは266人)を対象に、CVDリスクを改善するための減量目標について調査した。
「研究結果から、肥満患者のCVDリスク因子低減を標的とした減量の新たな目標値が明らかになった。CVDリスク改善のための新規肥満症治療ガイドラインの構築につながる大きなエビデンスになると期待している」と、研究者は述べている。
研究は、京都医療センター臨床研究センター内分泌代謝高血圧研究部の浅原哲子部長と、山陰一主任研究員、城嵩晶客員研究員、健康科学大学リハビリテーション学科・田中将志教授らの研究グループ(JOMS Group)によるもの。研究成果は、「Frontiers in Endocrinology」にオンライン掲載された。
体重減少率の最適なカットオフ値は初期体重からの5.0%減少 7.5%減少だとより確実
研究グループは今回、全国の国立病院機構(NHO:National Hospital Organization)関連施設により多施設共同で、肥満症多施設共同研究(NHO-JOMS)を実施し、5年間にわたり継続的に外来に通院する肥満患者に対して、減量指導(減量指導は学会ガイドラインに準拠した食事・運動療法を中心とする生活習慣指導)を実施し、多施設共同肥満症コホートに登録した。
同コホートに登録した、国立病院機構の5つの病院(京都・東京・名古屋・小倉・三重)に外来通院中の体格指数(BMI)25以上の20歳~79歳の肥満患者576人(男性250人、女性326人)を対象に、CVDリスク因子(高血圧、空腹時高血糖、高トリグリセリド血症、低HDLコレステロール血症)と体重減少率との関連について詳細に検討した。
参加者に、2型糖尿病・脂質異常症・高血圧などがある場合はそれぞれに応じた薬物療法を提供し、医師や管理栄養士による食事・運動指導を3ヵ月に1回以上実施し、BMI 25を目標体重に設定した食事(エネルギー比は、炭水化物 60%、脂肪 20~25%、タンパク質 15~20%)や、1日に8,000歩以上の歩行などの生活指導を実施した。
その結果、1年後と5年後の体重減少の割合は、減量開始1年後では、肥満患者の48.0%が初期体重からの3.0%以上の減量、36.3%が5.0%以上の減量、25.0%が7.5%以上の減量を達成した。
減量開始5年後では、肥満患者の47.7%が3.0%以上の減量、39.1%が5.0%以上の減量、24.1%が7.5%以上の減量を達成した。
さらに、1年後および5年後でCVDリスク因子数を1項目以上減少させるために必要な体重減少率はどの程度に設定すべきかを探索するために、ROC解析を行った。
その結果、CVDリスク因子減少の予測能指標であるAUCは1年後に0.719、5年後に0.694となり、体重減少率のみでCVDリスク因子数減少を予測することが可能であることが分かった。
このROC解析で、Youden Index法を用い、CVDリスク因子数減少を予測する体重減少率を検討したところ、1年後、5年後ともに、体重減少率の最適なカットオフ値は、初期体重からの5.0%と算出された[1年後:感度 0.63、特異度 0.71、5年後:感度 0.66、特異度 0.69]。
さらに、より確実なCVDリスク因子数減少効果を期待する場合の体重減少率を検討したところ、1年後、5年後いずれについても、7.5%の体重減少が必要であることが示された[1年後:感度 0.43、特異度 0.80、5年後:感度 0.45、特異度 0.80]。
CVDリスク因子の重積数をスコア化し、体重減少率とCVDリスクスコア軽減との関連を検討した結果、減量開始後3ヵ月、1年、5年いずれでも、体重減少率が高いほど、CVDリスクスコアは有意に軽減されることが明らかになった。
さらに、体重減少率別に検討したところ、対照群(±1%体重変化群)に比べ、CVDリスクスコアが有意に軽減するのは、1年後では体重減少率5%以上、そして5年後では体重減少率7.5%以上の場合であることが判明した。
空腹時血糖(FPG)、トリグリセリド、HDL-C
はじめて医療機関での5年間にわたる継続的な減量指導により検討
肥満(とくに内臓脂肪型肥満)は、高血圧・糖尿病・脂質異常症といった代謝異常を引き起こしやすく、それらが組み合わさるとメタボリックシンドロームになる。
メタボでは、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患(CVD)の発症リスクが約2~3倍も高まる。肥満患者のCVDリスクを改善するためは、減量がもっとも基本で重要な治療となる。
その減量指導を効果的に行うためには、CVDリスクを十分に軽減・改善できる減量指導の目標値の設定、それにもとづく肥満症治療ガイドラインや体重管理プログラムの構築が必要となる。
日本では現在、日本肥満学会が発刊している「肥満症診療ガイドライン」で、2016年より肥満症の減量目標は3~6ヵ月で初期体重の3%に設定され、血糖・血圧・脂質などの改善が認められたというエビデンスも挙げられている。
これは、特定健診で6ヵ月間の生活習慣改善プログラム(特定保健指導)を実施した「肥満症」あるいは「メタボリックシンドローム」に該当する人を対象とした検討だが、医療機関に通院する肥満患者や肥満症患者を対象とした減量目標については、日本には長期の研究報告がない。
肥満患者のCVDリスク改善では、短期間だけでなく、長期にわたる減量と体重維持が重要となるが、長期の減量治療では、しばしばリバウンド(体重再増加)が起こることが課題になっている。これを解決するには、減量目標(初期体重からの体重減少率)について、短期間のみならず長期間での検討によって明らかにすることが必要とされていた。
「本研究より、日本人肥満患者でのCVDリスク改善のための減量目標が初めて明らかになった。減量開始1年後では初期体重の5%以上の体重減少率が、そして5年後では7.5%以上の体重減少率が、肥満患者のCVDリスク因子を有意に軽減させることが示された」と、研究者は述べている。
「また、日本人肥満患者で、より確実なCVDリスク因子数減少効果を期待できる体重減少率は減量治療1年後、5年後いずれでも、7.5%が必要であることが示された」としている。
これらの成績は、これまでの特定健診・特定保健指導とは異なり、医療機関での5年間にわたる継続的な減量指導(学会ガイドラインに準拠した減量指導)による肥満患者の検討にもとづいていること、多施設共同コホートであること、また、CVDリスク因子重積数の低減に着目している点に新規性があるとしている。
「本研究により、日本人肥満患者では、CVDリスク改善のための減量目標として、1年間では初期体重の5%以上、5年間では7.5%以上を設定することが望ましいということを新しく提唱することができた。今後の日本人の肥満症の治療指針やガイドラインの策定時の重要なエビデンスになると考えられる」としている。
京都医療センター 臨床研究センター 内分泌代謝高血圧研究部
Five percent weight loss is a significant 1-year predictor and an optimal 5-year cut-off for reducing the number of obesity-related cardiovascular disease risk components: the Japan Obesity and Metabolic Syndrome Study (Frontiers in Endocrinology 2024年3月27日)