【新型コロナ】「オミクロン株BA.2系統」に対する抗体薬と抗ウイルス薬の効果を検証 東大医科学研究所
オミクロン株に対する抗体薬の効果は従来株に比べ低い 抗ウイルス薬はいずれもウイルスの増殖を抑制
2021年末に新型コロナウイルスの変異株・オミクロン株が確認されて以来、本変異株による爆発的流行が世界規模で続いている。オミクロン株は、4つの系統(BA.1、BA.1.1、BA.2、BA.3)に分類される。BA.1系統に属する株が国内を含めた世界の流行の主流だが、デンマーク・インド・フィリピン・スウェーデンなど一部の国々では、BA.2系統に属する株が主流となっている。
オミクロン株BA.2系統は、そのスパイクタンパク質に少なくとも31ヵ所の変異を有する。実用化されたあるいは開発中のCOVID-19に対する抗体薬は、このスパイクタンパク質を標的としており、その機能を失わせる(中和する)ことを目的としている。国内では、カシリビマブ・イムデビマブ(製品名:ロナプリーブ注射液セット)が2021年7月に特例承認を受けた。ソトロビマブ(製品名:ゼビュディ点滴静注液)が2021年9月に特例承認を受けた。チキサゲビマブ・シルガビマブは臨床試験中。
また、抗ウイルス薬は、細胞内に侵入した新型コロナウイルスの増殖を阻害する作用がある。レムデシビル(製品名:ベクルリー点滴静注液)が2020年5月に特例承認を受けた。モルヌピラビル(製品名:ラゲブリオ)が2021年12月に特例承認を受けた。ニルマトレルビル・リトナビル(製品名:パキロビッドパック)が2022年2月に特例承認を受けた。
しかし、これらの治療薬がオミクロン株BA.2系統に対して有効かどうかについては、明らかにされていなかった。そこで、東京大学医科学研究所ウイルス感染部門の河岡義裕特任教授らの研究グループは、オミクロン株BA.2系統に対する治療薬の効果を調べた。
はじめに、4種類の抗体薬(バムラニビマブ・エテセビマブ、カシリビマブ・イムデビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブ、ソトロビマブ)がオミクロン株BA.2系統の培養細胞への感染を阻害(中和活性)するかどうかを調べた。
その結果、バムラニビマブ・エテセビマブのオミクロン株BA.2系統に対する中和活性は、著しく低いことが分かった。それに対して、カシリビマブ・イムデビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブ、ソトロビマブは、同変異株に対して中和活性を維持していることが判明した。しかし、これらの抗体薬のBA.2系統株に対する効果は、従来株(中国武漢由来の株)に対する効果と比較して低いことも分かった。
続いて、オミクロン株に対する3種類の抗ウイルス薬(レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル)の効果を解析した。いずれの薬剤も培養細胞でのオミクロン株の増殖を抑制することが分かった。
研究グループは、COVID-19治療薬がオミクロン株BA.2系統の増殖を効果的に抑制するかどうかをCOVID-19の動物モデルを用いて、引き続き検証する予定としている。
「本研究を通して得られた成果は、医療現場での適切なCOVID-19治療薬の選択に役立つだけでなく、オミクロン株BA.2系統のリスク評価など行政機関が今後の新型コロナウイルス感染症対策計画を策定、実施する上で、重要な情報となります」と、研究グループでは述べている。
東京大学医科学研究所 ウイルス感染部門
Efficacy of Antiviral Agents against the SARS-CoV-2 Omicron Subvariant BA.2 (New England Journal of Medicine 2022年3月9日)