「血糖応答型インスリン」の最新情報 血糖値に応じて作用を自動調整 予測モデルを開発 MIT

2023.10.03
 血糖値に応じて作用を自動的に調整する「血糖応答型インスリン」(GRI)の開発が進められている。血糖値の上昇に応じて作用するので、低血糖を起こしにくく、インスリンの追加分泌と基礎分泌を1本のインスリン製剤で供給できるようになると期待されている。

 米マサチューセッツ工科大学(MIT)はこのほど、各種のGRIが、体内でどのように作用するかを予測する計算モデルを作成した。「開発したモデルは、血糖応答型インスリンの設計と、ヒトでの作用を予測するのに役立つ。開発に要するコストと時間を短縮し、開発に弾みがつくだろう」と、研究者は述べている。

開発したインスリンがヒトでどう作用するかを予測する計算モデルを開発

 インスリン治療を行っている糖尿病患者にとって、1日に頻回のインスリン注射は煩わしく、服薬アドヒアランスの点でも課題がある。また、とくに低血糖のリスクは生命を脅かすこともある深刻なものだ。

 その潜在的な解決策として、血糖値に応じて作用を自動的に調整する「血糖応答型インスリン」(GRI:glucose-responsive insulin)の実現が、良好な血糖管理を長期間維持するためにも期待されている。

 米マサチューセッツ工科大学(MIT)はこのほど、各種のGRIが、体内でどのように作用するかを予測する計算モデルを開発した。このモデルを使用すると、GRIの前臨床試験として実施される動物実験の結果と、ヒトを対象とした臨床試験での反応を比較できるとしている。研究成果は、米国化学学会が刊行する「Pharmacology & Translational Science」に掲載された。

 同大学化学工学部のMichael Strano教授らの研究グループは、過去に開発されたものの、ヒト対象の試験ではほとんど効果を示さなかったため中止されたGRIの臨床試験の結果を分析した。その結果、動物実験では良好に作用したGRIが、その作用を制御する糖受容体の動作の違いにより、人体では異なる作用を示すことが判明した。

 「開発したモデルは、血糖応答型インスリンの設計と、ヒトでの作用を予測するのに役立つ。開発に要する時間を短縮し、試験に必要なコストを軽減するのに役立ち、開発に弾みがつくだろう」と、Strano教授は述べている。

 現在、製薬各社がGRIの開発に取り組んでおり、たとえば、メルクなどが開発している「MK-2640」は前臨床研究で有望な結果を示し、2016年に第1相臨床試験の結果を公表した。イーライリリーや、コペンハーゲン大学とGubraなども、GRIの臨床試験の準備を進めている。

 「MK-2640」は、血糖値が低い場合は、インスリン受容体に結合し体外に除去されるが、血糖値が上昇した場合は、受容体への結合がブロックされ血流にとどまり、血糖値を下げる作用をするよう設計されている。

 「インスリン製剤に膵臓の機能を組み込んだようなものを目指している。血糖値の上昇に応じて作用するので、低血糖を起こしにくく、インスリンの追加分泌と基礎分泌を1本のインスリン製剤で供給できるようになる」と、Strano教授は言う。

 開発した予測モデルは、血管、筋肉、脂肪組織などのさまざまな部位で、血糖とインスリンがどのように動作するかをシミュレートし、肝臓、消化器、脳などでの血糖値も予測できるという。

 このモデルを使用し、利用可能なインスリン量にもとづき、食後に血糖値がどのように変化するか、またはグルコースが血液に入ったときにどのような変化が起きるかなどを予測できる。Strano教授らは過去にこのモデルにより、グルコースに結合してインスリンを活性化する、PBAと呼ばれる分子でコーティングされた別のGRIの動作も予測している。

 研究グループは、動物実験は成功したが、ヒト対象の試験ではほとんど効果を示さなかったGRIについて、インスリン受容体のクリアランス能力の種間差が原因であることを突き止めた。ヒトのインスリン受容体に合わせて作用を発揮するようGRIを調整すれば、実用化につながる可能性は広がる。

 さらには、このモデルをオープンソースにし、第三者がより効果を期待できる潜在的なGRIを探索したり、動物実験で有望性が示された薬剤がヒト対象の試験でも効果があるかを予測できるようになるという。実際に、インディアナ大学生化学・分子生物学部がこのモデルを利用し、新たな薬剤の開発にも取り組んでいる。

 Strano教授らは、血糖値を上昇させ、低血糖を防ぐホルモンであるグルカゴンの効果を組み込んだ別のモデルの開発にも取り組んでいる。インスリンとグルカゴンを組み合わせた糖尿病治療が実現すると、インスリン単独の治療よりも血糖管理をより改善できる可能性がある。

Computational model helps with diabetes drug design (マサチューセッツ工科大学 2023年9月20日)
In Silico Investigation of the Clinical Translatability of Competitive Clearance Glucose-Responsive Insulins (ACS Pharmacology and Translation 2023年9月18日)
Clinical Evaluation of MK-2640: An Insulin Analog With Glucose-Responsive Properties (Clinical Pharmacology & Therapeutics 2018年8月20日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

糖尿病関連デジタルデバイスのエビデンスと使い方 糖尿病の各薬剤を処方する時に最低限注意するポイント(経口薬) 血糖推移をみる際のポイント!~薬剤選択にどう生かすか~
妊婦の糖代謝異常(妊娠糖尿病を含む)の診断と治療 糖尿病を有する女性の計画妊娠と妊娠・分娩・授乳期の注意点 下垂体機能低下症、橋本病、バセドウ病を有する女性の妊娠・不妊治療
インスリン・GLP-1受容体作動薬配合注 GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド) CGMデータを活用したインスリン治療の最適化 1型糖尿病のインスリン治療 2型糖尿病のインスリン治療 最新インスリン注入デバイス(インスリンポンプなど)
肥満症治療薬としてのGLP-1受容体作動薬 肥満症患者の心理とスティグマ 肥満2型糖尿病を含めた代謝性疾患 肥満症治療の今後の展開
2型糖尿病の第1選択薬 肥満のある2型糖尿病の経口薬 高齢2型糖尿病の経口薬 心血管疾患のある2型糖尿病の経口薬

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料