CGMで糖尿病の早期の発症予測や予防介入を可能に インスリン分泌能や感受性などをCGMデータで特定 東京大学
東京大学は、CGM(持続血糖モニター)のデータから、血糖制御能力を推定する新たな方法を開発したと発表した。
従来の検査では「正常」と判定されていた集団のなかから、インスリン分泌能や感受性が低下した集団を特定することが可能になった。
CGMを使った非侵襲的な検査により、耐糖能異常を簡便かつ早期に異常を同定することで、糖尿病の発症予測や予防介入への応用が期待されるとしている。

CGMで血糖制御能力の低下を簡便かつ早期に同定
従来の検査では検出できない早期の代謝異常を捉えられる
研究は、東京大学大学院医学系研究科の杉本光氏と、同大学大学院理学系研究科の黒田真也教授、神戸大学医学系研究科の小川渉教授らによる研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Medicine」に掲載された。
糖尿病の発症を予測・予防するためには、インスリン分泌能をはじめとする血糖制御能力の低下を早期に発見することが重要になる。糖尿病診断に従来使われる空腹時血糖値、HbA1c、経口ブドウ糖負荷試験は採血が必要になり、糖尿病患者やその予備群をスクリーニングするのは手間がかかる。また、これらは一時点の測定値にもとづく評価であり、日常生活での血糖値の変動を十分に捉えることはできない。
そこで研究グループは、採血なしに簡便に血糖波形を測定可能なCGM(持続血糖モニター)を用いて、インスリン分泌能や感受性などの血糖制御能力を推定する方法の作成を試みた。
その結果、血糖の平均値や変動幅に加えて、CGMのデータからインスリン分泌能や感受性を推定する指標である「AC_Var」を測定することで、より正確にインスリン分泌能と感受性の積(Disposition index)やインスリンクリアランスを推定できることを明らかにした。
Disposition indexは、インスリンが膵臓からどれだけ多く分泌されているかという「インスリン分泌能」と、インスリンがどれだけ血糖を下げているかという「インスリン感受性」の積。インスリンクリアランスは血中インスリン消失速度。Disposition indexやインスリンクリアランスの低下は、糖尿病の発症に先立って起こることが報告されていたが、これらを正確に測定するためには手間のかかるクランプ試験が必要であり、臨床現場で広く測定することは難しい。研究ではこの指標を、測定が簡単なCGMから予測する方法を作成するのに成功した。
さらに、AC_Varを用いることで、従来の検査では「正常」と判定される人々のなかから、AC_Varが高値を示し、Disposition indexが耐糖能異常者と同程度に低い集団を特定することに成功した。AC_Varは、CGMを用いて測定した血糖波形の自己相関からインスリン分泌能や感受性を推定する指標。研究グループは数理モデルを用いたシミュレーションにより、AC_Varが空腹時血糖値などの従来の指標より早期に血糖制御能力の低下を推定できる理由を推定した。

CGMを用いた耐糖能評価
血糖波形由来の新しい指標AC_Varと血糖制御能力の関係

赤い曲面上にいる間は、空腹時血糖値などの糖尿病診断に使われる指標は変化せず、研究で新たに作った指標AC_Varのみが増加する。
[右]そのため、糖尿病診断に使われる指標が変化するよりも早期に、AC_Varは血糖制御能力が低下していることを推定できる。
研究グループではさらに、この手法を用いることで血糖制御能力だけなく、冠動脈病変などの糖尿病の合併症も、糖尿病診断に使われる従来の指標より正確に予測できることも示唆している。また、これらのCGM由来の指標を簡便に計算できるwebアプリ(CGM AC app)も作成した。ソースコードは、GitHubポジトリで公開されており、自由に改変して使用することができるという。
「この新しい手法により、従来の検査では検出できない早期の代謝異常を捉えられる可能性があり、糖尿病の早期発見と予防介入に貢献することが期待される」と、研究グループでは述べている。
東京大学大学院理学系研究科
Tuning in to blood glucose for simpler early diabetes detection (東京大学 2025年4月22日)
Improved detection of decreased glucose handling capacities via continuous glucose monitoring-derived indices (Communications Medicine 2025年4月22日)
CGM AC app