家庭測定で血圧高値が出た人に医療機関の受診を喚起 糖尿病や脂質異常症の早期治療も視野に 東北大学など

2024.07.29
 東北大学などは、家庭での血圧測定で高値が出た人に対して、医療機関の受診を喚起するお知らせを行う仕組みにより、隠れた疾患の早期診断および早期治療につながることを明らかにした。

 治療を受けていなかった人の6割が、お知らせを受けて医療機関を受診し、治療を開始したことが分かった。

 同大学などは2013年から大規模な健康調査を始め、個別化医療の実現に取り組んでいる。その健康調査の一環として、家庭血圧計を用いた研究を宮城県で行っている。

 「家庭血圧が高値の人は、血糖値や血中脂質値などの異常をあわせもつ割合も多く、異常値を迅速に知らせることは、隠れた疾患の早期診断と治療に結び付けるのにも有用」としている。

家庭血圧の高値が出た人に医療機関の受診の注意喚起

 東北大学などは2013年から大規模な健康調査を始め、個別化医療の実現に取り組んでいる。その健康調査の一環として、家庭血圧計を用いた研究を東日本大震災後の宮城県で行っている。

 家庭で行う血圧測定は、時間を決めて毎日同じ条件で、また安定した状態で測定できるので、より正確で詳しい血圧情報を知ることができると考えられる。家庭での血圧の測定は一般的に、医療機関での測定よりも低めになる。

 研究グループは今回、家庭での血圧測定で高値が出た人に対して、「至急、受診したほうが良い」といった医療機関の受診を喚起するお知らせを行う仕組みを作った。

 その結果、治療を受けていなかった人の6割が、お知らせを受けて医療機関を受診し、治療を開始したことが分かった。血圧の高い人へのお知らせが、隠れた疾患の早期診断および早期治療につながることが示された。

 なお、治療状況が分かった人の4割は治療中、残りの6割は治療を中断したり、生活改善をしていたり、あるいはこれまで血圧高値を指摘されたことがない人だった。

東北メディカル・メガバンク機構での結果回付
赤破線部分が至急結果回付

家庭血圧の至急結果回付の手順
血圧計の返却日数も含めて、通常7日以内に結果を送付
出典:東北大学、2024年

東北メディカル・メガバンク計画を推進

 東北大学などの「東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)」は、東日本大震災からの復興と、個別化の予防・医療の実現を目指し設立された。

 「東北メディカル・メガバンク計画」を推進しており、15万人を対象とした地域住民コホート調査および三世代コホート調査などを2013年より実施している。

 地震などの自然災害による直接の影響に加えて、その後の避難生活をはじめとした生活環境の変化などがストレスになり、高血圧を引き起こすことがある。高血圧は脳卒中・心筋梗塞などの原因にもなる。

 今回の調査で、日々の家庭血圧の測定を活用した、血圧の高い人にお知らせをする事業が、医療機関の早期受診に結びつくことが確認された。

 ToMMoでは、2011年の東日本大震災後に、岩手・宮城の両県で継続的な健康調査をしており、そのひとつとして宮城県内7ヵ月に設置した地域支援センターで血圧測定を行っている。

 そこで行われているのは診察室血圧であり、日本高血圧学会から推奨されている家庭血圧計を用いた測定値と異なっている可能性がある。

 さらに、健康調査の結果が参加者に知らされるのは数ヵ月後であり、早期の受診が必要となるような著しい異常値を発見するケースもあり、至急に知らせることが必要とされていた。

 一般に高血圧そのものは症状に乏しいため、通常の健康診断で注意を受けても、医療機関の受診に結びつかないことも多い。これまでどういった働きかけをすれば、受診行動に結びつくのかは課題になっていた。

2万1,061人が家庭血圧の測定に協力

 健康調査では、早急に再検査や治療を開始したほうが望ましい人が一定数存在する。研究グループは、そうした著しい検査の異常値が出た人の場合、異常値のもとになっていると疑われる疾患や、受診を勧める診療科などを記載した「お知らせ状(至急結果回付状)」を、結果判明後1~2日で急いで送付する仕組みを作った。

* 回付という言葉には、ToMMoスタッフが一丸となって情報を共有し、参加者の健康維持に最適な提案をしたいという意味が含まれているとしている。

 緊急度が高い場合は電話でお知らせするケースもあった。この仕組みを利用し、早期の医療機関の受診ができた参加者からは、「早期診断・治療にいたった」という感謝の声が多く届いているという。

 調査に参加して家庭血圧の測定に協力した2万1,061人のうち、医療機関の受診が望ましいと判断された血圧高値の人は1.2%だった。

 調査の参加者に血圧計を貸し出し、自宅で朝晩、2週間測定してもらった。測定時刻、血圧、脈拍のデータは自動で保存され、返却後にデータをToMMoで取り出した。

 さらに、初期には収縮期(最高)血圧と拡張期(最低)血圧が、それぞれ160/95mmHgとしていたが、その後は高血圧緊急症の基準にあわせて、それぞれ180/95mmHgが記録された場合は、至急回付する血圧高値とした。

 研究は、ToMMo地域医療支援部門の児玉栄一教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JMA Journal」に掲載された。

お知らせ状(至急結果回付状)の送付により治療を受けていなかった人の6割が治療を開始
出典:東北大学、2024年

高血糖や脂質異常の早期発見・早期治療につなげることも視野に

 「家庭血圧が高値の人は、血糖値や血中脂質値などの異常をあわせもつ割合も多く、異常値を迅速に知らせることは、隠れた疾患の早期診断と治療に結び付けるのにも有用です」と、研究者は述べている。

 「お知らせは、どのタイミングで回付すべきか、郵送と電話のどちらで回付すべきか、それぞれの事例について複数の医師が検討したうえで回付しました。この取り組みは現在も継続しています」。

 健康調査を継続し、ゆくゆくはこのお知らせにより、将来の疾患発症リスクをどの程度低下できたかを検討します。また、血圧以外のお知らせを行っている検査値で、どのような効果がみられるか検討します」としている。

東北メディカル・メガバンク機構 (ToMMo)
Urgent Notification Intervention of Home Blood Pressure in Cohort Studies of the Tohoku Medical Megabank Project (JMA Journal 2024年7月16日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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