GLP-1受容体作動薬「セマグルチド」が肥満症患者の健康と日常的な身体活動能力を増進 減量を達成し身体と精神の健康を改善

2021.05.13
 ノボ ノルディスクは5月13日、STEP第3a相臨床試験プログラムによる新たな結果を発表した。
 セマグルチド2.4mgを週1回皮下投与した治療群をプラセボ群と比較した結果、階段の昇降や靴紐結びなどの身体機能が有意に改善し、体重関連および健康関連の生活の質スコア(HRQoL)に有益な効果が認められた。
 68週間の治療期間終了後には、半数以上の患者の生活の質スコアが改善され、身体機能が向上し、精神的健康が改善されたことが示唆された。
 STEP 1試験から得られた結果は、5月に開催された第28回欧州肥満学会議(ECO 2021)で発表された。

靴紐結びや店まで徒歩で行くなど、日常的な身体活動能力を改善

 セマグルチドはヒトグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)ホルモンのアナログ製剤で、生体内で分泌されるヒトGLP-1と94%類似している。セマグルチドは空腹感を軽減し、満腹感を高めることで、食事の量を減らし、食欲を抑える。

 STEP(肥満患者におけるセマグルチドの治療効果)は、肥満(BMI 30kg/m²)または体重に関連した合併症が1つ以上ある過体重(BMI 27kg/m²)の成人を対象とした、セマグルチド2.4mgの週1回皮下投与による第3相臨床開発プログラム。第3a相グローバル臨床プログラムは過体重または肥満の成人約4,500名を登録した4つの試験で構成されている。

 STEP試験では、一次estimand(治療方針estimand)により、治療の遵守度または他の抗肥満治療の開始の有無に関わらず効果を評価している。二次estimand(治験薬estimand)では、すべての人々が治療を遵守し、他の抗肥満治療を開始しなかったと仮定した場合の効果を評価している。

 STEP 1試験は、セマグルチド2.4mgの週1回皮下投与群の体重の変化率をプラセボ群と比較する68週間の無作為割り付け、二重盲検、多施設共同、プラセボ対照の第3a相試験。

 この試験では、体重変化率と5%以上の減量を達成した人の数について、セマグルチド2.4mgを皮下投与した群とプラセボ群で比較した。治験参加者は、生活習慣への介入(カウンセリングとカロリーを制限した食事+150分/週の身体活動)と並行してセマグルチド2.4mg週1回 皮下投与を受ける群またはプラセボ群に2:1の比率で無作為割り付けされ、治療は68週間継続された。

 第3a相STEP 1試験では、セマグルチド2.4mgによる治療群の体重関連の生活の質に有意な改善が生じ、68週目には43.8%の人で、体重関連の生活の質スコアの合計点に臨床的に意義のある改善(16.6ポイント以上)が認められた。さらに体重関連の身体機能スコアに臨床的意義のある改善(14.6ポイント以上)が認められた人の割合は、プラセボ群では32.9%であったのに対し、セマグルチド2.4mgによる治療群では51.2%となった。このことは、靴紐結びや店まで徒歩で行くなど、日常的な身体活動能力が改善されたことを示唆している。

 身体機能、社会機能等の健康関連の生活の質スコア(C)では、セマグルチド治療群では、プラセボ群を上回る有益な変化が認められました。同様に健康関連の身体機能スコアに臨床的意義のある改善(3.7ポイント以上)がみられた人の割合は、プラセボ群では27%であったのに対し、セマグルチド治療群では40%となった。以上の改善は、肥満患者を対象とする臨床試験で一般に使用されている患者報告アウトカム法を用いて観察されたものだ。

 セマグルチド2.4mgの安全性プロファイルは、これまでにグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)受容体作用薬で認められているプロファイルと同様だった。セマグルチド2.4mgの忍容性はおおむね良好であり、主な有害事象は消化器症状。

単に減量を達成するだけではなく、体重増加にともなう機能障害の改善も目指す必要が

 肥満はもっとも重要な世界的な健康上の懸念の1つであり、全世界で6億5,000万人以上の人々が肥満を抱えて生活している。2型糖尿病や心血管疾患のリスク増加を含む肥満や過体重によるリスク因子が存在することは実証されている。一方、肥満は人々の健康に重大なマイナスの影響を及ぼし、身体や精神の健康に影響を与えるとともに、日々の活動を制限するケースが多くみられる。

 STEP 1試験の治験医師を務めるカナダ・トロントのウォートン メディカル クリニックのショーン ウォートン氏は、次のように述べている。
 「体重管理は、単に減量を達成するだけではありません。身体機能の低下といった体重増加にともなう機能障害の改善も目指す必要があります。STEP 1試験で有意な減量が達成されたことにより、人々の健康や日常的な身体活動能力、すなわち散歩や日常的な活動を行う能力に対してプラスの影響を与えたということは、心強い結果であるといえます」

 「肥満とは体重だけに関係するものではありません。この慢性疾患を抱えて生活している人の場合、生活のあらゆる面で、例えば階段を上ることができない、あるいは日常的な活動の一部として動き回ることができないといったことに影響が及びます。このことは、身体と精神両方の健康に密接に関連します。今回の試験から、セマグルチド2.4mgによる治療により、身体と精神の健康が改善されることが明らかになりました。この結果は、人々の生活を改善する真の可能性を秘めています」と、同社では述べている。

 なお、セマグルチド2.4mg週1回皮下投与は、成人肥満患者に対する治療薬として現在米国およびEUで規制当局により審査中。5月13日時点では、同製剤の適応および用量は日本を含めて未承認となっている。

Semaglutide 2.4 mg Once Weekly Improves Patient-Reported Outcome Measures of Physical Functioning in Adults with Overweight or Obesity in the STEP 1 Trial(Presented at ECO 2021 5月10~13日)
Beneficial Effect of Semaglutide 2.4mg Once Weekly on Patient-Reported Outcome Measures of Weight-Related and Health-Related Quality of Life in Adults With Overweight or Obesity in the STEP 1 Trial(Presented at ECO 2021 5月10~13日)
Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity(New England Journal of Medicine 2021年3月18日)
Semaglutide 2.4mg for the Treatment of Obesity: Key Elements of the STEP Trials 1 to 5(Obesity 2020年5月22日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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