心電図検査で心血管疾患リスクを評価 健診で発見された心電図異常は将来にCVDリスクの上昇につながる 京都大学
健診で発見された心電図異常は将来にCVDリスクの上昇につながる
京都大学などは、健康診断で心電図異常が指摘されると、将来に心血管疾患(CVD)の発症リスクが上昇することを明らかにした。全国健康保険協会(協会けんぽ)の生活習慣病予防健診、および300万人超の医療レセプトのデータを用いて解析した。
狭心症や心筋梗塞などの心血管疾患(CVD)は、日本を含む世界で死因の上位を占め、30~70歳の就業人口でも年間600万人が死亡している。
一方、薬物治療の進歩などで重症化予防が可能になり、効果的な早期発見・スクリーニング方法を確立することは喫緊の課題になっている。
これまでの研究でも、心電図所見と心血管疾患の発症には関連があることは指摘されていたが、一般集団(症状のない健康な人がほとんどの集団)での心電図スクリーニングの役割に関して、包括的な評価はされていなかった。
そこで、研究グループは、健診受診者での心電図所見と将来の心血管疾患発症の関連性を明らかにすることを目的に、協会けんぽの加入者を対象に、心電図所見と将来のCVD発症の発症リスクの関連を評価した。
その結果、軽度心電図異常や重度心電図異常が指摘された加入者は、正常所見だった加入者に比べて、将来にCVDの発症リスクが上昇することが示された。さらに、軽度心電図異常の種類だけではなく数が多い場合に、CVD発症リスクや重度心電図異常発症リスクがより高くなることも分かった。
協会けんぽ加入者369万8,429人のデータを解析
研究グループは今回、日本で最大の保険者である協会けんぽのデータを用いて、2016年に心電図検査を受検した35~65歳の心血管疾患の既往のない加入者(被保険者)369万8,429人のデータを解析した。
2016~2021年に最大5年間追跡した結果、心房期外収縮などの軽度異常や、心房細動などの重度異常がみられた加入者は、正常心電図であった加入者に比べて、CVDが発症するリスクが高いことが明らかになった。
また、軽度心電図異常やその数は、将来の重度心電図異常発症のリスクと関連があることも分かった。これらの関連には、性別や年齢、生活習慣病などの属性による違いはみられなかった。
健診で一般的に行われている心電図検査がCVDのリスク評価に有用である可能性
研究は、京都大学大学院医学系研究科の井上浩輔准教授(白眉センター・社会疫学)、石見拓教授(予防医療学)、森雄一郎氏、ハーバード大学医学部リサーチフェローの八木隆一郎氏、後藤信一氏の研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Internal Medicine」に掲載された。
「研究結果は、日本の健康診断で一般的に行われている心電図検査が、心血管疾患のリスク評価に有用である可能性を示しています。心血管疾患の負担が世界的に増大しているなか、簡易で安価な心電図を用いた集団的なアプローチが再評価される可能性があります」と、研究者は述べている。
「CVDの効果的なスクリーニングは、早期治療開始につながり、将来の重症化予防、ひいては健康寿命の延伸・医療費につながるため、非常に重要な視点です」。
「こうした一般集団での大規模な心血管スクリーニングに着目した研究は、世界的にみても限られているため、今後のより詳細な評価が望まれます。さらに、CVDスクリーニングのさらなる精度向上のためには、人工知能(AI)の活用が期待されています」としている。
なお研究は、全国健康保険協会の「外部有識者を活用した委託研究事業」、科学技術振興機構(JST)による戦略的想像研究推進事業「さきがけ」の協力を得て行われた。
京都大学大学院医学系研究科
Routine Electrocardiogram Screening and Cardiovascular Disease Events in Adults (JAMA Internal Medicine 2024年7月1日)