プロポリスがサルコペニア肥満を予防するメカニズムを解明 腸内細菌叢の乱れを改善 京都府立医科大学など

2022.10.04
 京都府立医科大学などは、「プロポリス」の抗サルコペニア肥満効果を解明したと発表した。サルコペニア肥満のモデルマウスにプロポリスを投与すると、腸内細菌叢の乱れが改善され、サルコペニア肥満の発症を予防できることを明らかにした。

 プロポリスの構成成分による、筋管細胞のミトコンドリア機能の改善に加え、腸内細菌叢の乱れを改善することで、腸内環境が変容することが関与していると考えられるという。

 近年、筋萎縮(サルコペニア)やサルコペニア肥満は、糖尿病合併症のひとつと考えられており、サルコペニア肥満が要介護のリスクや死亡率を上昇させることが報告されているが、有効な治療法がないことが課題になっている。

プロポリスが短鎖脂肪酸の産生細菌を増加 筋肉の萎縮や炎症が改善

 京都府立医科大学などは、「プロポリス」が腸内環境を改善し、過食と不活動により惹起された「サルコペニア肥満」を予防することを明らかにしたと発表した。

 プロポリスは、「蜂の糊」とも呼ばれ、ミツバチがさまざまな種類の植物から蓄積した樹脂状の物質をさす。プロポリスとその抽出物は、防腐・抗炎症・抗酸化・抗菌・抗真菌・抗潰瘍・抗がん・免疫調節などの作用があると考えられており、さまざまに応用されている。

 腸内細菌がつくる有機酸である「短鎖脂肪酸」は、腸内で悪玉菌の増殖を抑え、腸内環境を整える作用があると考えられている。悪玉菌が増加したサルコペニア肥満のモデルマウスに、プロポリスを投与すると、短鎖脂肪酸を産生する細菌が増加し、腸内の炎症を改善した。

 さらに、プロポリスに含まれるアルテピリンC、およびケンフェライドを、筋肉の細胞に投与したところ、筋肉の萎縮や炎症が有意に改善した。

 筋肉が減少するサルコペニアに肥満が合わさった病態であるサルコペニア肥満は、糖尿病をはじめとする代謝性疾患の原因として注目されている。

 超高齢化社会でサルコペニアの発症予防は重要課題となっているが、有効な薬剤はない。プロポリスが新たなサルコペニア肥満の治療法となる可能性が示唆されたことは、健康増進に大きく寄与しうるとしている。今後は、ヒトを対象とした研究で、有効性と安全性を確認していく考えだ。

 研究は、京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学の岡村拓郎病院助教、濱口真英氏、福井道明教授、山田養蜂場、メタジェンらの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」に掲載された。

プロポリスがサルコペニア肥満を予防するメカニズムを解明

出典:京都府立医科大学、2022年

耐糖能障害を改善 骨格筋量の増加 炎症関連遺伝子の発現を低下

 研究グループはまず、過食と不活動によりサルコペニア肥満をきたしたdb/dbマウスにプロポリスを投与し、種々の代謝障害の項目を評価した。

 その結果、プロポリスを投与したマウスではプロポリスを投与していないマウスと比較して、有意な耐糖能障害の改善と、握力および骨格筋量の増加が認められたほか、精巣上体周囲脂肪(内臓脂肪)重量も減少した。また、プロポリスを投与することで脂肪肝が有意に改善された。

 これらから、プロポリスはサルコペニア肥満のモデルマウスのサルコペニアと肥満を有意に改善することが示唆された。

 さらに、Real-time PCRで解析した遺伝子発現で、骨格筋中の筋萎縮関連遺伝子および炎症関連遺伝子の発現は、プロポリスの投与により有意に低下したほか、肝臓でも炎症関連遺伝子の発現は低下した。

 次ぎに、プロポリスの投与により臓器中のメタボライトが変化していることが予想されたため、血清、肝臓、直腸便および骨格筋中の飽和脂肪酸の一種であるパルミチン酸濃度を測定した。研究グループはこれまで、骨格筋中のパルミチン酸濃度の上昇が筋萎縮と関連することを明らかにしている。

 その結果、血清、肝臓および骨格筋中のパルミチン酸濃度は、プロポリスの投与により有意に減少したのに対し、直腸便中のパルミチン酸濃度は、プロポリス投与により有意に増加していたことから、プロポリスが体内への飽和脂肪酸の吸収を阻害していることが明らかになった。

 また、プロポリス投与により便中の短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)濃度が有意に上昇したほか、筋肉の合成に関わる骨格筋中のアミノ酸濃度も有意に上昇した。

プロポリス成分がミトコンドリア機能を改善、筋萎縮を予防 腸内細菌叢も改変

 プロポリスの骨格筋への作用を明らかにするために、マウス筋芽細胞C2C12を分化させたのち、パルミチン酸を投与して筋萎縮を促した筋管細胞にプロポリスおよびプロポリスに多く含まれるアルテピリンCおよびケンフェライドを投与すると、筋萎縮関連遺伝子が有意に減少するだけでなく、ミトコンドリア機能を改善させることで、筋萎縮を予防していることが明らかになった。

 最後に、腸内細菌叢の解析を行い、プロポリスを投与したマウスではButyricicoccus属とAcetivibrio属の比率が増加していることを確かめた。さらに、プロポリスを投与したサルコペニア肥満モデルマウスの糞便を移植したサルコペニア肥満モデルマウスでも、プロポリスを投与したときと同様のサルコペニア肥満の改善効果が認められたことから、プロポリスのサルコペニア肥満の改善作用のひとつとして、腸内細菌叢の改変が関与している可能性が示唆された。

 これらから、プロポリスによるサルコペニア肥満改善作用が明らかとなり、そのメカニズムとして、プロポリスの構成成分による筋管細胞のミトコンドリア機能の改善に加えて、腸内細菌叢の乱れを改善することによる腸内環境の変容が関与していることが考えられるとしている。

 「超高齢化社会で、サルコペニアの発症予防は最重要課題です。さらにサルコペニアに肥満を合併するサルコペニア肥満は、糖尿病をはじめとした種々のメタボリックシンドロームの主因と考えられていることから、本研究結果は本邦における健康増進に大きく寄与するものと考えられます」と、研究グループでは述べている。

京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学
メタジェン
Brazilian green propolis improves gut microbiota dysbiosis and protects against sarcopenic obesity (Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle 2022年9月26日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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