【新型コロナ】漢方薬が重症化を抑制 発熱が緩和され呼吸不全への悪化も抑制 漢方薬は安全
漢方薬が新型コロナの重症化を抑制 中等症の治療に有用である可能性
新型コロナの急性期治療に新規薬剤が開発され使用されているが、いまだに大多数の軽症から中等症Ⅰの患者を対象とした汎用性のある薬剤はない。
そこで東北大学の研究グループは、新型コロナの急性期症状に対して、漢方薬が発熱緩和や重症化抑制の効果がある可能性について、2つの研究で検討した。
1つめの観察研究では、患者の状態に合わせた漢方薬の使用による重症化抑制効果を、2つめのランダム化比較試験では、体力のない人からある人まで幅広く用いることができる漢方薬の組み合わせによる症状緩和、重症化抑制について検討した。
1つめは全国23施設共同の観察研究で、患者の状態に合わせた漢方薬による重症化抑制の効果を検討した。その結果、漢方薬投与群では、漢方薬非投与群と比較し、呼吸不全への増悪リスクは有意に低いことが示された。
2つめは全国7施設共同ランダム化比較試験で、体力のない人からある人まで幅広く用いることができる漢方薬の組み合わせによる症状緩和、重症化抑制について検討した。
漢方薬「葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏」の投与により、発熱症状が早期に緩和され、とくに中等症Ⅰ患者では呼吸不全への悪化が抑制傾向にあったことが示された。
このうち「葛根湯」は、かぜの初期などの頭痛、発熱、首の後ろのこわばりなどに使用する漢方薬で、「小柴胡湯加桔梗石膏」は、扁桃炎、扁桃周囲炎などによるのどの腫れや痛みに対して使用する漢方薬。
「研究により、漢方薬は軽症から中等症Ⅰの大多数の新型コロナ患者の症状緩和、重症化抑制に貢献する可能性が示されました。漢方薬は安価であり、経済的・医療的なメリットも期待されます」と、研究グループでは述べている。
研究は、東北大学病院総合地域医療教育支援部および東北大学大学院医学系研究科漢方・統合医療学共同研究講座の石井正教授、高山真特命教授らの研究グループによるもの。研究成果は、ひとつは「Internal Medicine」に、もうひとつは「Frontiers in Pharmacology」に掲載された。
早期の漢方薬治療により新型コロナの病状悪化リスクが抑制
1つめの研究では、新型コロナ急性期症状に対する一般的対症療法薬や医療用漢方薬の使用が、感冒症状と重症化にどのように影響を与えるかを検討した。
2020年1月1日~2021年10月31日に、日本国内の病院、医療機関から新型コロナまたはその疑いのある患者のデータを登録し、多施設共同、後ろ向き観察研究として実施した。
全国23の医療機関より、実施された治療に関するデータ(従来の薬剤や漢方薬など)、および一般的な感冒様症状(発熱、咳、痰、呼吸困難、疲労、下痢など)の変化に関するデータをカルテから収集・登録。
主要評価項目は、発熱改善までの日数(体温37℃未満)、副次的評価項目は症状緩和と酸素投与が必要となる呼吸不全への悪化とした。転帰として、漢方薬投与の有無で治療成績を比較した。
計1,314例が登録され、そのうち962人の患者データを解析。解析対象者では、528人が漢方薬を含んだ対症療法(漢方群)、434人が漢方薬を含まない対症療法(非漢方群)を受けた。
新型コロナの病期分類と重症化リスク因子で調整した結果、全体として発熱およびその他の症状改善までの日数に群間差は認められなかったが、対象を新型コロナ確定症例に限定し、ステロイド投与を受けず、発症から4日以内に治療を開始した症例で統計解析を行ったところ、呼吸不全への悪化のリスクは、非漢方群に比べ漢方群で有意に低い結果となった(オッズ比 0.113、95%信頼区間 0.014~0.928、p=0.0424)。
使用頻度が多かった漢方薬は、葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の併用だった。薬物投与に関連する重大な有害事象に有意な群間差はなかった。
「この研究から、早期の漢方薬治療により、新型コロナの病状悪化リスクが抑制される可能性が示されました。しかしながら、ランダム化の比較試験を行わないと実際の効果は明らかとならないことから、さらなる研究を展開しました」と、研究グループでは述べている。
漢方薬投与の有無で群間に有意差はなかった
葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の併用が効果
2つめの研究は、軽症・中等症の新型コロナ患者の感冒様症状に対する西洋薬、漢方薬治療による症状緩和、重症化抑制に関する多施設共同、後ろ向き観察研究。
多施設共同ランダム化比較試験により、新型コロナ急性期症状に対する漢方薬「葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏」の追加投与の効果と安全性を検証した。
軽度および中等度の新型コロナ患者を、通常治療(解熱剤や鎮咳剤投与)を行う対照群と、漢方薬の葛根湯エキス顆粒(2.5g)と小柴胡湯加桔梗石膏エキス顆粒(2.5g)を1日3回、14日間投与するグループにランダムに割り付け、その効果を比較した。
計161人の患者(漢方薬群 n=81、対照群 n=80)が登録された。主要評価項目は、症状緩和までの日数、副次的評価項目は各症状が軽快するまでの日数および呼吸不全への増悪とした。
その結果、症状緩和については両群間に有意差はなかったが、競合リスクを考慮した共変量調整後累積発熱率では、漢方薬群の方が対照群より有意に回復が早く(ハザード比 1.76、95%信頼区間 1.03~3.01、p=0.0385)、さらに新型コロナ中等度1患者での呼吸不全への増悪リスクは、対照群に比べ漢方薬群で低かった(リスク差 −0.13 95%信頼区間 −0.27–0.01、p=0.0752)。薬物投与に関連する有害事象に有意な群間差はなかった。
「葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の併用は、解熱効果があり、新型コロナ中等症Ⅰ患者での呼吸不全への増悪抑制に貢献できる可能性が示されました」と、研究グループでは結論している。
なお、両研究とも、東北大学大学院医学系研究科漢方・統合医療学共同研究講座が研究事務局を務め、東北大学病院総合地域医療教育支援部が行った宮城県軽症者等宿泊療養施設での往診のデータを登録の一部として使用しており、日本東洋医学会学会主導研究として行われた。また、ツムラとの共同研究契約を締結し、その支援を受けて行われた。
軽症・中等症新型コロナ患者の感冒様症状に対する漢方薬追加投与に関する多施設共同ランダム化比較試験、発熱症状緩和までの日数
背景因子を調整
漢方薬群では中等症1でワクチン未接種症例の重症化を抑制する傾向がみられた
東北大学大学院医学系研究科漢方・統合医療学共同研究講座
東北大学病院 漢方内科
Conventional and Kampo Medicine Treatment for Mild-to-moderate COVID-19: A Multicenter, Retrospective, Observational Study by the Integrative Management in Japan for Epidemic Disease (IMJEDI study-Observation) (Internal Medicine 2022年11月2日)