ヒトiPS細胞由来の膵β細胞を用い糖尿病の再生医療を開発 CiRAなどが共同研究を開始
糖尿病の再生医療を開発 免疫抑制剤が不要の膵β細胞の作製などを目指す
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)、京都大学発スタートアップのリジェネフロ、アラブ首長国連邦のAbu Dhabi Stem Cell Center(ADSCC)は、ヒト人工多能性幹細胞(ヒトiPS細胞)由来の膵β細胞を用い、糖尿病の新規の治療法を開発するため、共同研究の契約を締結したと発表した。
CiRAとリジェネフロは共同研究で、(1) iPS細胞由来の遺伝子改変により治療効果に関わる機能を強化し、免疫抑制剤を不要にした膵β細胞を作製し、1型糖尿病患者に対する質の高い細胞療法を開発し、(2) iPS細胞由来の膵β細胞を用いた2型糖尿病に対する創薬スクリーニングに取り組むとしている。
ADSCCは研究で開発された基盤技術を、中東や北アフリカで展開するほか、同地域でiPS細胞技術を用いた再生医療研究の拠点をつくる役割を担っている。
膵β細胞の機能が廃絶しインスリン治療が必須となる1型糖尿病患者で19歳以下の罹患者数は世界中で120万人とされている。糖尿病の根治療法は膵β細胞の補充療法だが、移植に必要な膵臓・膵島の不足が問題となっており、iPS細胞由来膵β細胞の移植療法に期待が寄せられている。
リジェネフロは、取締役を兼務するCiRA増殖分化機構研究部門の長船健二教授の研究成果をもとに、2019年9月に設立されたスタートアップ。
長船教授は、腎前駆細胞の存在を世界ではじめて発見し、慢性腎臓病に対する細胞療法の開発をでかけるほか、膵臓領域で1型糖尿病に対する細胞療法の開発と、2型糖尿病に対する創薬研究を行ってきた。これまでヒトiPS細胞から膵β細胞の作製や、ヒトiPS細胞由来の膵前駆細胞を特異的に増殖促進する低分子化合物を同定することなどに成功している。
「共同研究開始により、糖尿病に対する再生医療の実現に向け強力な国際チームが結成された。チーム力を発揮し、臨床応用に向けて基盤技術の開発が加速されることのみならず、日本発のiPS細胞技術が中東でも展開され、再生医療研究が幅広い分野で発展するための重要な橋渡しとなることが期待される」と、研究者は述べている。