心不全などを早期検出する新たなAIモデルを開発 心電図検査データだけで個人ごとに精密診断
心電図検査データだけで心不全を早期検出できるAIを開発
スパコン「富岳」のパワーを活⽤
心電図検査データだけから、⼼臓シミュレーション技術とAIを組み合わせて、心不全の原因因子の異常を早期にキャッチする新たなAIモデルを開発する研究が開始される。心不全早期発見のプレシジョンメディシンの実現を目指す。
心臓シミュレーション技術にもとづき、スーパーコンピュータ「富岳」を用いて構築された膨大な「仮想の」心疾患データベースのなかから、検査を受けた各人の心電図にもっとも近い心電図を描く仮想心臓を抽出するAI技術を開発。
ジャパンメディカルデバイス(JMD)は、東京⼤学が20年以上の年数をかけて、理化学研究所のスーパーコンピュータ上で作り上げた⼼臓シミュレータ(UT-Heart)を活⽤し、新たな医療機器の研究開発に取り組んでいる。
この⼼臓シミュレータは、CTや超⾳波画像を含む臨床データをインプットデータとし、スーパーコンピュータの演算能⼒を活⽤して、分⼦レベルの電気的・⼒学的挙動にもとづき、個⼈の⼼臓の動きを忠実に細部まで再現するもの。
また、UT-Heart研究所(UTH研)は、東京大学新領域創成科学研究科で2002年から集中的に開発されてきた、心臓シミュレータUT-Heartの研究成果を深化・活用するために設立された東京大学発ベンチャー。
このほどJMDは、UTH研との共同研究契約を締結。試験運用開始は2024年4月を予定しており、その後1年間の検証を経て、2025年4⽉にサービスの本格展開を計画している。
すでに約3万パターンの心疾患データベースを構築 今後も倍増する予定
一般に、心電図波形にみられる特徴的な変化は、心臓のミクロ(分子)からマクロ(臓器・人体)までの各レベルに含まれる多数の生理学的パラメータの組み合わせにより形成される。
これらのパラメータは「仮想の」心疾患データべースの各心臓ごとに既知であることから、心電図の特徴が一致する仮想心臓を抽出することで、従来の検査では分からない各人についてのパラメータの状態が推定できるようになると考えられる。
どのようなパラメータの状態が心不全の初期に出現するかは、東京大学医学部附属病院とUTH研の共同研究で特定されつつある。両パラメータの状態を比較することで、個人の心不全リスクの精密診断、早期発見が可能になる。
なお、心疾患データベースにはすでに約3万パターンの仮想心臓が蓄積されているが、今後より広範なバリエーションをカバーできるよう倍増する予定としている。
⼼臓病リスクについて詳細な情報を提供 高い受診率を期待
現在、実臨床データの学習によるAIの研究が盛んに行われているが、よく知られるように、AIではなぜそのような結論がえられたかを説明することは難しく、できたとしても扱われたデータ上での表面的、統計的な説明にとどまる。
研究グループはこれに対し、簡便な心電図検査データのみを用いるにもかかわらず、その背後にある各種パラメータ分布を個人ごとに推定し精密診断を行うことで、心不全の原因因子の異常を早期にキャッチする世界初の健診サービスを目指している。
現在の日本国内で、健診・人間ドックを受診している人は60%に上り、その市場規模は9,000億円と試算されている。健診・人間ドックには、オプション検査が多数あり、たとえばCEA(腫瘍マーカー)は、40%の方が受診しており、その費用は1回数千円~1万円程度。
心臓病は三大成人病のひとつで幅広い人が関心をもっていること、また同サービスは通常の健診・人間ドックの検査データのみで診断可能であり、受診者に負担をかけることもなく、侵襲性もないなど、敷居は低いものの、⼼臓病リスクについて詳細な情報を提供できるので、より高い受診率を期待できるとしている。
⼼不全の罹患者数は全国で約120万⼈、2030年には130万⼈に達すると推計されている。一方、20歳以上の国民で健康診断や⼈間ドックを受診している⼈の割合は64.3%程度と低迷しており、健康診断で幅広く網をかけることが罹患者数を減らす有力な方法になるとみられる。
ジャパンメディカルデバイス
UT-Heart研究所
Database labeled with subcellular pathologies developed by multi-scale heart simulator, UT-Heart (UT-Heart研究所)