糖尿病性潰瘍の新しいメカニズムを解明 皮下脂肪の有害な「細胞老化」が原因

2022.04.26
 北海道大学などは、糖尿病の皮下脂肪で起こる細胞老化が難治性の創傷を引き起こす可能性を見出したと発表した。

 糖尿病で創傷が生じると、皮下脂肪で有害な老化細胞が出現することを解明。この細胞老化が、糖尿病性潰瘍の原因となっている可能性がある。

 老化細胞を標的とした新しい糖尿病性潰瘍治療の発展につながることが期待される。

創部皮下脂肪の細胞老化が創傷治癒を制御している可能性

 糖尿病患者に創傷が生じると、治りにくい傷(難治性創傷)となって感染や壊死を生じ、最悪の場合は下肢の切断にいたることが知られている。しかし、なぜ糖尿病では傷が治りにくいのか、その病態メカニズムは十分に明らかにされていない。

 細胞老化は、細胞にダメージが加わったとき、異常な増殖を防ぐための生体防御システムのひとつで、自らの増殖を止めるとサイトカインやケモカインなどさまざまな因子の分泌現象(細胞老化関連分泌形質:SASP)を起こす。このSASPによって、老化細胞は免疫細胞を誘導し、また自らを貪食させることでクリアランスされて、組織の修復・再生を促す。

 一方、正常にクリアランスされない老化細胞の存在も知られ、それらは慢性炎症を引き起こす。近年、慢性炎症により有害化する細胞老化の解明は注目されている。

 研究グループは、糖尿病ではこの細胞老化の制御機構が異常となることで創傷治癒が遅延することが、糖尿病性潰瘍の原因ではないかと考えた。

 そこで、2型糖尿病モデルマウス(db/dbマウス)と正常マウスの背部に創傷を作成し、創傷が治るプロセスをそれぞれ解析した。治癒過程の皮膚および皮下脂肪組織を採取し、その組織で遺伝子発現解析および組織学的解析を中心に行い、細胞老化因子の発現レベル、老化細胞の局在や出現タイミングなどを解析した。

 すると、正常マウスの皮下脂肪では、傷ができると速やかに老化細胞が出現し、修復が進むにつれて老化細胞が消失したが、糖尿病モデルマウスでは、異なるタイプの老化細胞が出現し、老化細胞が消失せず存在し続けることが分かった。この細胞老化の現象は、糖尿病患者検体を解析した結果でも同様だった。

 研究グループは、糖尿病モデルマウスと正常マウスの細胞老化の違いを検討するため、SASPに着目して解析を行った。得られたSASP因子を含む培養液で正常な皮膚線維芽細胞を培養し、創傷治癒アッセイを実施し、創傷治癒過程で細胞老化を起こす脂肪組織の機能的解析を試験管内で検討した。

 その結果、皮下脂肪で起こる老化細胞は、正常マウスのSASPでは、傷の修復を促進する一方で、糖尿病モデルマウスのSASPでは、傷の修復を阻害することが明らかになった。

 研究は、糖尿病の皮下脂肪での有害な老化細胞が、傷の修復を阻害することを明らかにしたもの。今後、より詳細な老化細胞の特性の解析を続けることで、老化細胞を標的とした新しい糖尿病性潰瘍治療の発展につながることが期待されるとしている。

 研究は、北海道大学大学院保健科学研究院の千見寺貴子教授、札幌医科大学医学部解剖学第2講座の齋藤悠城講師、札幌医科大学大学院医学研究科博士課程の北愛里紗氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Biology」にオンライン掲載された。

糖尿病における創傷治癒治癒の遅延メカニズムを解明
創傷治癒過程の皮下脂肪組織には有益な老化細胞と有害な老化細胞がある

出典:北海道大学、2022年

難治性の糖尿病性潰瘍の病態解明と治療法の開発に期待

 研究グループははじめに、2型糖尿病モデルマウス(db/dbマウス)の背部に創傷を作成し、2日後、8日後の創部皮膚および創部皮下脂肪組織を採取し解析した。

 すると、糖尿病モデルマウスとコントロールマウスともに細胞老化因子およびSASP因子の発現亢進を認めた。検出した複数の因子にて詳細な分析を行ったところ、正常な創傷治癒と糖尿病モデルでの創傷治癒の間では、創部皮下脂肪組織で細胞老化因子やSASP因子の発現パターンが大きくことなることが明らかになった。この結果から、皮下脂肪での細胞老化のタイプの違いが創傷治癒に影響を与えているのではないかと考えた。

出典:北海道大学、2022年

 次に、糖尿病の皮下脂肪が創傷治癒を阻害しているのかを明らかにするために、糖尿病モデルマウスの皮下脂肪を正常なマウスの皮下に移植して、創傷治癒のプロセスを観察した。すると、糖尿病モデルマウスの皮下脂肪が移植されたマウスでは創傷治癒が遅延すると同時に、皮下脂肪の細胞は創傷部にはほとんど遊走しないことが分かった。

 この結果から、皮下脂肪の細胞は創部まで遊走して創傷治癒に影響するのではなく、SASPによる分泌因子によって創傷治癒を制御していると推察した。

出典:北海道大学、2022年

 そこで、創傷部の皮下脂肪をそれぞれ正常および糖尿病モデルマウスから採取して分泌する因子を解析したところ、創傷後2日の時点で正常の皮下脂肪からはで大量のサイトカインや成長因子を含むSASPを分泌する一方、糖尿病では分泌されるSASP因子の種類が少なく、さらに正常とは異なる種類のSASPを分泌することが分かった。

 最後に、これらのSASP因子を含む培養液で正常な皮膚線維芽細胞を培養し、培養器の中で人工的に創傷を作製したところ、正常のSASPは線維芽細胞の遊走を高めて傷の治りを促進する一方で、糖尿病のSASPは線維芽細胞の遊走を抑制して、傷の治りを制限することが分かった。

出典:北海道大学、2022年

 「創傷部の皮下脂肪で起こる老化細胞が、正常な皮膚の創傷治癒に促進的に機能することを明らかにすると同時に、糖尿病では有害な老化細胞が皮下脂肪に蓄積して、創傷治癒を阻害することを明らかにしました。今後、より詳細な老化細胞の特性の解析を続けることで、難治性の糖尿病性潰瘍のさらなる病態解明と新しい治療法の開発につながることが期待されます」と、研究グループでは述べている

北海道大学大学院保健科学研究院
札幌医科大学医学部解剖学第二講座
Altered regulation of mesenchymal cell senescence in adipose tissue promotes pathological changes associated with diabetic wound healing (Communications Biology 2022年4月5日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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