新型コロナのパンデミック期に糖尿病高齢者のうつ病リスクが上昇 うつ病の発症・再発リスクは3倍に
コロナ禍に糖尿病高齢者のうつ病リスクは3倍に上昇
糖尿病のある高齢者は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック期に、うつ病の既往歴のない患者であっても、うつ病のリスクが高まったという調査結果を、カナダのトロント大学が発表した。研究成果は、「Archives of Gerontology and Geriatrics Plus」にオンライン掲載された。
「新型コロナのパンデミックのあいだに、糖尿病のある高齢者の多くが孤立し、うつ病リスクはほぼ3倍に上昇した。コロナ禍には、多くの国で隔離とロックダウンが対策として行われ、行動が制限された人が多い。このことは、個人のメンタルヘルスにも大きな影響を与えた」と、カナダのトロント大学ライフコース エイジング研究所(ILCA)のGrace Li氏は言う。
研究グループは今回、カナダの大規模な全国調査であるカナダ エイジング縦断研究(CLSA)に参加した、カナダ在住の45~85歳の糖尿病高齢者2,730人を対象に、4回の調査の二次分析を行った。対象者は2012~2015年に登録され、うち1,757人はコロナ禍以前にはうつ病の病歴がなく、973人はうつ病の病歴があった。
その結果、コロナ禍以前にはうつ病の病歴がなかった糖尿病高齢者では、8人に1人にあたる12.9%が、パンデミック期に新規にうつ病を発症した[95%CI 11.3~14.4%]。
さらに、うつ病の既往歴のある糖尿病高齢者のうち、パンデミック期にうつ病が確認されたのは、半数にあたる48.5%だった[95%CI 45.4~51.7%]。
医療アクセスの中断を経験した患者はうつ病リスクが50%上昇
糖尿病高齢者のパンデミック期のうつ病の発症および再発リスクの増加に関連する要因として、▼女性である、▼孤独・社会的孤立、▼収入・貯蓄が少ない、▼住宅ローンの返済中、▼機能的制限がある、▼慢性的な痛みや併存疾患がある、▼家族間の対立、▼医療へのアクセスの困難などが示された。パンデミック前にうつ病の病歴のある人は、肥満、慢性疼痛、併存疾患、孤独の有病率が高かった。
また、パンデミック期に医療アクセスの中断を経験した患者では、うつ病の発症と再発のリスクが約50%高くなった。
さらに、期間中に別居・離婚・死別を経験した患者は、結婚・事実婚を経験している患者に比べて、パンデミック期にうつ病を再発するリスクは低いことが示された[OR 0.42、95%CI 0.26~0.68、p<0.01]。コロナ禍中に結婚していた参加者は、長期間にわたる隔離やロックダウンにより、家族などと近い距離で生活する必要があり、人間関係が悪化していた可能性も考えられるという。
「パンデミック期に孤独感や孤立感があることを報告した患者は、うつ病の発症と再発のリスクが約3倍に上昇した。医療へのアクセス中断を経験した患者でも、うつ病の発症と再発の両方のリスクが上昇した」と、研究者は述べている。
オンライン診療への移行は患者のストレス増加に影響?
糖尿病患者にとって、糖尿病とともに生活することは多くストレスがともなう。糖尿病を治療しなかったり、適切に管理できないでいると、個人の健康に悪影響を及ぼし、失明、腎臓病、足潰瘍、冠動脈疾患、脳卒中などの合併症のリスクが高まる。また、食事や運動などの糖尿病の管理には、実行が難しく、遵守が難しい変更がともなうことも多い。
「新型コロナのパンデミック期に、糖尿病患者はソーシャルディスタンスを保つ対策と、ロックダウン政策に従うことが強く推奨され、多くの患者は孤独・社会的孤立・憂鬱感を高めた可能性がある。さらに、パンデミック期に、診療行為は対面からオンライン診療に移行したことも、糖尿病患者が感じるサポートの低下や、ストレス増加に影響した可能性もある。遠隔の医療サービスは、アクセスを高めるのに役立つものの、完璧な解決策ではない」。
「プライマリヘルスケアの提供者は、糖尿病高齢者に対して、たとえ過去にはメンタルヘルスが良好にみえたであっても、うつ病の兆候がないかを注意深く見守ることが必要だ」としている。
Pandemic exacerbated depression in older adults with diabetes (トロント大学 2024年7月31日)
Exploring the Impact of the COVID-19 Pandemic on Depression in middle-aged and older Canadians with Diabetes: Insights on Incidence, Recurrence, and Risk Factors from the Canadian Longitudinal Study on Aging (Archives of Gerontology and Geriatrics Plus 2024年7月23日)