糖尿病性神経障害の発症機序を解明 末梢神経でのインスリン抵抗性が関与 終末糖化産物の受容体を阻害する治療法の開発へ

2022.12.16
 弘前大学は、糖尿病性神経障害での新規発症・進展機序を解明したと発表した。神経細胞からの物質輸送を経時的に観察できるライブイメージング技術を用いた。

 糖尿病性神経障害では、終末糖化産物(AGEs)の受容体であるRAGEの活性化により、炎症細胞であるマクロファージが分化し、末梢神経でインスリン抵抗性が引き起こされ、その結果、神経細胞の神経突起から細胞体への物質輸送が抑制され、糖尿病性神経障害を発症・進展するという

 「今後、マクロファージのRAGEを阻害することをもとにした、糖尿病性神経障害に対する新規治療法を確立し、糖尿病患者のQOLや予後の改善、医療経済負担の削減につなげることを期待しています」と、研究グループでは述べている。

終末糖化産物(AGEs)の受容体RAGEにより、マクロファージが神経でインスリン抵抗性を引き起こす

 糖尿病性神経障害は、糖尿病合併症のなかでももっとも頻度が高く、早期に発症し、最悪の場合、足の切断が必要になる。多くの患者がいるにもかかわらず、いまだ根治的治療法がなく、治療標的となる新規病態の解明が求められている。

 そこで弘前大学は、モデルマウスとライブイメージング技術を用いて、糖尿病性神経障害での新規発症・進展機序を解明した。脂肪組織でのインスリン抵抗性は糖尿病の原因のひとつだか、糖尿病性神経障害での末梢神経のインスリン抵抗性の影響についてはよく分かっていなかった。

 研究グループは今回、糖尿病性神経障害では、終末糖化産物(AGEs)の受容体であるRAGEの活性化により、炎症細胞であるマクロファージが催炎症性性質(M1)に分化し、末梢神経でインスリン抵抗性が引き起こされ、その結果、神経細胞の神経突起での末梢から細胞体への物質輸送が抑制され、糖尿病性神経障害を発症・進展することを解明した。

 AGEsは、ブドウ糖などがタンパク質と酵素の介在なしに結合してできる物質で、高血糖になると体内でAGEsができやすく、AGEsはさまざまな組織に沈着し傷害する。また、炎症にかかわる細胞であるマクロファージが活性化すると、催炎症性形質(M1)、もしくは抗炎症性形質(M2)になることが知られている。

 糖尿病性神経障害に対して、マクロファージのRAGEを抑制することで、新規治療法の確立につながることが期待されるとしている。

 研究は、弘前大学大学院医学研究科分子病態病理学講座の遲野井祥助教、水上浩哉教授を中心とする国内多機関共同研究グループによるもの。研究成果は、米科学誌「JCI insight」に掲載された。

マクロファージのRAGEを欠損させシグナルを阻害すると、インスリン抵抗性を抑制でき神経輸送能力も維持、神経障害の発症を抑制

 インスリン抵抗性は、2型糖尿病の脂肪組織などでインスリンの効果が減少し、血糖が上昇する状態。糖尿病性神経障害でも末梢神経で起こることが知られていたが、その意義は不明だった。

 研究グループは今回、早期の糖尿病性神経障害マウスモデルで、次のことを明らかにした。

(1) 炎症性細胞の一種であるマクロファージが、催炎症性性質(M1)を獲得して、サイトカインなどを神経に放出し、神経のインスリン抵抗性を引き起こす。
(2) マクロファージの催炎症性性質への分化は、RAGEという細胞表面の受容体が活性化する。
(3) その結果、末梢神経での末梢側から中枢側への栄養因子などの物質輸送機能が低下し、神経機能が低下する。
(4) RAGE遺伝子欠損マウスでは、糖尿病にしても神経周囲のマクロファージは抗炎症性マクロファージ(M2)になり、神経の物質輸送機能が低下せず、神経障害を発症しないことを見出した。

 糖尿病性神経障害では、催炎症性のM1マクロファージが神経周囲に集まり、インスリン抵抗性を引き起こす。その結果、神経輸送能力の低下、神経細胞機能の減弱、神経障害が発症する。
 マクロファージのRAGEを欠損させ、そのシグナルを阻害すると、神経に抗炎症性のM2マクロファージが集まり、インスリン抵抗性は起こらず、神経輸送能力も維持され、糖尿病性神経障害の発症は抑制される。
出典:弘前大学、2022年

ライブイメージングにより神経細胞突起での細胞体への物質輸送の低下を確認

 さらに、この末梢神経での物質輸送機能の低下の発見にあたり、生きたままの培養感覚神経細胞を動画で観察するライブイメージングという新しい技術を用いた。ライブイメージングでは、物質輸送を経時的に動画で見ることができる。

 これにより、催炎症性M1マクロファージと神経細胞を一緒に培養することにより、神経細胞突起での末梢から細胞体への物質輸送機能の低下を確認した。

 ライブイメージング技術では、マクロファージのみならず、他の細胞種との共培養が可能なため、さまざまな疾患の病態解明も可能としている。さらに、糖尿病治療薬など、さまざまな薬物の神経細胞での輸送能力に対する効果を評価することなどにも応用できる。

 「本研究成果は、神経組織ではなく、マクロファージのRAGEを制御することにより、糖尿病性神経障害での神経組織インスリン抵抗性の解除、その発症、進展を阻止できることが見出されたことに大きな意義があります」と、研究グループでは述べている。

 「今後、マクロファージのRAGEを阻害することをもとにした、糖尿病性神経障害に対する新規治療法を確立し、糖尿病患者のQOLや予後の改善、医療経済負担の削減につなげることを期待しています」としている。

 神経細胞体からのびる神経突起内にドット状にみえるピンク色の輸送物質が認められる。論文内の動画では催炎症性マクロファージの存在下では、これらピンク色ドットとして観察される輸送物質の神経細胞体への輸送がうまく行われていないことが確認できた。
出典:弘前大学、2022年

弘前大学大学院医学研究科分子病態病理学講座
RAGE activation in macrophages and development of experimental diabetic polyneuropathy (JCI insight 2022年12月8日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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