ビタミンB2がミトコンドリアのエネルギー産生機能を活性化 糖尿病などの加齢性疾患を改善・予防

2021.11.05
 神戸大学は、老化ストレスを受けた細胞にビタミンB2を添加すると、ミトコンドリアのエネルギー産生機能が増強され、老化状態にいたるのを防止する効果があることを明らかにした。

 老化した細胞が体内に蓄積すると加齢性疾患や全身の老化の原因となることが示されている。ビタミンB2は健康維持に必須な栄養素でありながら、老化との関連は研究されていなかった。日常的に摂取している栄養素で細胞老化を制御できれば低コストで安全な抗加齢薬の実現を期待できる。

ビタミンB2が老化の原因となるミトコンドリア機能低下を改善

老化した細胞の蓄積は体の老化の原因となり、これを抑えることで加齢性疾患の予防や治療ができることがマウスの実験で証明されている。神戸大学の研究グループは、細胞が老化ストレスに反応してビタミンB2を取り込む能力を高めることで、老化状態におちいるのを防ぐ現象を発見した。ビタミンB2はエネルギー産生に働くミトコンドリアを活性化することで細胞老化を抑制していた。

出典:神戸大学、2021年

 細胞は分裂を繰り返すたびに、染色体の末端部にあるテロメアが短くなっていき、ある一定を超えると「細胞老化」という分裂不能な状態におちいる。さらに、テロメアが短くなる以外にも、DNAの損傷や活性酸素の発生といったさまざまなストレスが原因で、細胞が老化状態になることが分かっている。ストレスにより発生した老化細胞は加齢にともない体内に蓄積していくと考えられている。

 ここ10年ほどの老化研究から、老化細胞は全身の臓器の機能低下を引き起こす有害な作用を持ち、その蓄積を防ぐことで、がんや心血管疾患、アルツハイマー病、2型糖尿病などの加齢により発症しやすくなる加齢性疾患の改善や予防ができることが分かってきた。老化細胞の蓄積を抑えて健康寿命を伸ばす医薬品の開発は世界中で活発に行われているが、副作用などの問題からまだ実用化された薬はない。

 一方、ビタミンは人体の機能を正常に保つために必要な微量栄養素であり、体内で合成できないため食物などから摂取する必要がある。うちビタミンB2(リボフラビン)は肉類や卵、乳製品に多く含まれ、体内でのエネルギー産生や代謝に重要なビタミンだ。欠乏すると口内炎や貧血などの症状が出るが、過剰摂取してもすぐに排出されるため悪影響はない。

 そこで研究グループは、ヒト細胞にDNAを傷つける薬剤で老化状態を誘導するストレスを与えてもすぐには老化せず、SLC52A1というビタミンB2を細胞内に取り込むタンパク質(ビタミンB2トランスポーター)の産生量を増やすことで細胞老化に抵抗性を示すという現象を解明した。

 さらに、細胞に老化ストレスを与えた後に培養液のビタミンB2含有量を増やす実験を行ったところ、培養液中のビタミンB2の量に応じて老化への抵抗性が強くなった。

 ビタミンB2は細胞内でフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)という物質に変換され、エネルギー産生など生命活動に必要な化学反応を促進する補酵素として働く。実際に、老化ストレスを受けた細胞ではFADの存在量が増えたことから、細胞内に取り込まれたビタミンB2はFADに変換されて老化抑制に働いていることが分かった。

 次に研究グループは、FADが細胞老化を抑制する仕組みを調べるためにミトコンドリアに着目した。ミトコンドリアは、生命活動の主要なエネルギー源であるATPという物質を産生する発電所のような役割をもち、そのエネルギー産生は細胞の正常な機能を維持するために重要だ。さらに、酸素を用いて高効率でATPを産生する経路である呼吸鎖(電子伝達系)に異常をきたすと活性酸素が発生することから、細胞老化との関連も注目されている。

 ミトコンドリアは、その機能低下により細胞を老化させ、FADがミトコンドリアでのエネルギー産生に重要なタンパク質である呼吸鎖複合体IIの補酵素として働くことが知られている。

 老化ストレスを与えた際のミトコンドリアの働きを調べた結果、驚いたことに老化ストレスを受けた細胞は一時的にミトコンドリアの活性を高め、その後活性が低下すると老化状態におちいることを見出した。さらに、培養液中のビタミンB2含有量を増やすと老化ストレスを受けてから時間が経ってもミトコンドリア活性が高い状態が維持され、老化抵抗性も高い状態が持続することが明らになった。

 最後に、ミトコンドリアの活性化がどのような仕組みで老化抵抗性につながるのかを明らかにするため、細胞内のエネルギー不足を検知して働くAMPKという酵素の活性を調べた。AMPKは細胞内のエネルギーが低下すると標的となるタンパク質を活性化させることで、低エネルギー状態であるという情報を発信し、エネルギー産生の増加や細胞分裂の停止といった指令を細胞内に伝達する。

 その結果、ミトコンドリアの活性化によりAMPK活性が抑えられることが分かった。逆にミトコンドリアの働きを薬剤で抑えるとエネルギー不足を検知したAMPKが活性化し、細胞老化を誘導するp53というタンパク質に細胞分裂を止めるように指令を出すことで老化状態にいたることが示された。

 以上から、ビタミンB2は老化ストレスを受けた細胞のミトコンドリア活性を高め、AMPKやp53の働きを抑えることで老化状態におちいるのを防いでいることが明らかになった。

 研究は、神戸大学バイオシグナル総合研究センターの長野太輝助手、鎌田真司教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国細胞生物学会が発刊する国際学術誌「Molecular Biology of the Cell」に掲載された。

 「今回の研究で明らかになったビタミンB2による細胞の老化抑制効果を応用すれば、簡便かつ安全な加齢性疾患の治療薬として発展させられることが期待されます。今後は治療薬の実用化に向け、動物実験でビタミンB2の抗老化効果を検証する研究を進めていきます」と、研究者は述べている。

神戸大学バイオシグナル総合研究センター
Riboflavin transporter SLC52A1, a target of p53, suppresses cellular senescence by activating mitochondrial complex II(Molecular Biology of the Cell 2021年11月1日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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