デジタル療法は糖尿病治療の選択肢の1つに スマホアプリの使用により血糖値は大幅低下 うつ病やQOLも改善

2023.03.16
 2型糖尿病患者に、個別化された認知行動療法(CBT)を提供するスマートフォンアプリを6ヵ月利用させたところ、標準的な糖尿病治療のみを受けた患者に比べ、血糖値が大幅に低下し、糖尿病薬の高用量投与の必要性が減少したという米コロラド大学医学部による研究が、3月に開催された第72回米国心臓病学会(ACC)年次学術集会で発表された。

 「食事や運動などの生活改善を支援するためのデジタル療法は効果があり、患者がより多くのオンラインのレッスンを受けるほど、HbA1c改善の達成も大きくなった。さらに、75歳以上の高齢患者でも、若い患者と同じように成果を得られた」と、研究者は述べている。

スマホアプリを使用したデジタル療法に薬物療法と同様の効果が

 2型糖尿病患者に、個別化された認知行動療法(CBT)を提供するスマートフォンアプリを6ヵ月利用してもらったところ、標準的な糖尿病治療のみを受けた患者に比べ、血糖値が大幅に低下し、糖尿病薬の高用量投与の必要性が減少したという米コロラド大学医学部による研究が、3月に開催された第72回米国心臓病学会(ACC)年次学術集会で発表された。

 「個々の患者に合わせて調整したデジタル認知行動療法は、血糖値を低下させると同時に、薬物使用の強化の必要性を減らし、血圧と体重も改善することが、大規模なランダム化比較試験で示された」と、同大学血管リサーチのディレクターで研究の主任研究者であるMarc P. Bonaca氏は言う。

 「6ヵ月のデジタル療法により、うつ病やQOLスコアなど、2型糖尿病患者の転帰にもプラスの効果があった」としている。

 今回の研究は、デジタル療法による血糖降下の有効性を実証した厳密なランダム化比較試験で、デジタル療法が糖尿病治療の選択肢のひとつになりうることを示した最初の例としている。

認知行動療法アプリによりHbA1cは0.4%より減少 患者のQOLも向上

 試験には、平均年齢が58歳で、平均BMIが35の2型糖尿病患者668人(女性56%、アフリカ系30%、ラテン系15%)が登録された。参加者のHbA1cの中央値は8.1%で、研究登録時に血糖コントロールのために平均2種類の血糖降下薬を使用していた。

 研究グループは参加者を無作為に、半数を認知行動療法アプリ「BT-001」を使用する群に割り当て、半数は対照アプリを使用する群に割り当てた。

 認知行動療法アプリに割り当てた患者には、スキル開発と行動変容を目的とした週に1回の糖尿病教育を受けることを求め、必要に応じてさらに多くの支援を受けることができるようにした。それに対し、対照アプリはいくつかの質問をする以外は、個別化された支援やスキルの提供はしなかった。

 3ヵ月後のHbA1cは、認知行動療法アプリを使用した群では0.28%低下し(95%CI -0.41~-0.15)、対照群では0.11%上昇し(95% CI -0.02~0.23)、0.39%の差が出た(P<0.0001)。

 さらに6ヵ月後、アプリ群はHbA1cの減少を維持し、対照群より統計的に有意に低いままだった。試験終了時には、対照群の24%で薬物の使用を増やしたのに対し、アプリ群では14.4%の増加にとどまった。また、対照群ではより多くの患者がインスリン療法を開始、あるいは用量を増やしたのに対し、アプリ群ではより多くの患者がインスリンを中止、あるいは用量を減らすことができた。

 なお、試験の主要評価項目は、3ヵ月後および6ヵ月後のHbA1c値の変化で、2次エンドポイントには、うつ病やQOLなど、患者による報告にもとづくアウトカムの測定と、標準化された尺度の変化が含まれていた。血糖コントロールのための薬物療法の変化も、探索的エンドポイントとして設定された。

デジタル療法により糖尿病患者の行動変容を引き出せる?

 「デジタル療法には、明らかな線量的な効果がみられた。血糖コントロールの改善効果は、患者が終了したオンライン・レッスンの数に比例して上昇した。患者がより多くのレッスンを受けるほど、HbA1c改善の達成も大きくなった。さらに、75歳以上の高齢患者でも、同じ数のレッスンを終了した場合、若い患者と同じように成果を得られた」と、Bonaca氏は言う。

 アプリによる認知行動療法プログラムは、多くの時間を要するものではなく、患者は平均してアプリ1日6分未満使用していたという。

 「血糖値を下げる糖尿病治療では、食事や運動などの生活改善は基本となり、高血圧、心臓病、脳卒中などに対する高血糖の長期的な影響を軽減するのにも必要だ。しかし、ヘルスケア専門家の多くは、糖尿病患者の行動変容を引き出すのに苦心している」と、Bonaca氏は指摘する。

 医療機関で提供される従来のマンツーマンの認知行動療法は、効果的であることが示されているものの、費用がかかり、保険診療の健康保険の対象外となる場合もある。患者にとっては、認知行動療法にアクセスするために通院が必要になり、治療者の空き状況に合わせる必要もある。

 「2型糖尿病の多くに、不健康な食事、過食、ストレス、運動不足などの個々の生活スタイルが影響している。これらを改善するために、環境ストレスへの対処だけでは不十分で、患者の不健康な行動やその引き金となる考え方や信念を検証し、より健康的な思考や行動パターンに誘導する認知行動療法が効果的であることが多い」としている。

 「今回の研究で、自動化および個別化された、スマートフォンでアクセスできる認知行動療法プログラムに効果があることが示すことができたのは画期的だ。今後は追跡調査を実施して、さまざまな配信モデルおよび長時間の使用によるデジタル療法の影響について検証したい」としている。

Cognitive behavioral therapy delivered via smartphone app lowers blood sugar, improves health behaviors in patients with diabetes (米国心臓病学会 2023年2月24日)
Randomized, Controlled Trial of a Digital Behavioral Therapeutic Application to Improve Glycemic Control in Adults With Type 2 Diabetes (Diabetes Care 2022年10月1日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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