高齢者は「よく食べ・よく動く」と死亡リスクが最低に 高齢者は歩数に見合ったエネルギー摂取が必要 亀岡スタディ
健康長寿に必要な歩数とエネルギー摂取量のバランスを解明
研究グループは今回、2011年から京都府亀岡市で行われている介護予防の推進と検証を目的とした前向きコホート研究である「京都亀岡スタディ」に参加した、4,159人のデータを解析した。
対象者に、活動量計を持ち歩いてもらい歩数を記録し、エネルギー摂取量についても食物摂取頻度調査法を用いて評価した。自己申告による食事調査は、エネルギー摂取量を過小評価することが多いので、研究グループが開発した二重標識水法から測定したエネルギー摂取量を補正する式を用いて、補正エネルギー摂取量を算出した。
対象となった高齢者4,159人の平均年齢は72.3歳、1日の補正エネルギー摂取量の平均は2,172kcal、1日の歩数の平均は4,194歩だった。
エネルギー摂取量は、食品に含まれるタンパク質・脂質・炭水化物、アルコールが、体中で代謝されることで得られる利用可能なエネルギー量の合計値を示している。
エネルギー摂取量と消費量のバランスを維持することは、体重管理で重要だ。エネルギー摂取は、単に体格を維持するために必要であるだけではなく、たとえばタンパク質をとることで筋量を増やした場合、エネルギー消費量よりも多くのエネルギーを摂取していることになる。
また、運動不足が健康に悪影響をもたらすことは広く知られている。1日の歩数は、誰でも簡単に理解できる身体活動量の客観的な尺度であり、目標設定になっている。自分の1日の歩数を知ることは、身体活動量を増やす動機付けを高めるために有用だ。
エネルギー摂取量が多い/歩数が多い高齢者は生存率が大幅に高い
研究グループはこれまで、高齢者の死亡リスクがもっとも低くなる1日のエネルギー摂取量は、男性で2,400~2,600kcal、女性で1,900~2,000kcalで、1日の歩数は5,000~7,000歩であることを明らかにしている。
これらの研究成果をもとに、参加者を以下の4つの群に分け、3.38年間(中央値)の追跡調査を行い、死亡の発生状況を確認した。
(1) 低エネルギー摂取量/歩数が少ない人 (n=1,352) 1日のエネルギー摂取量:男性 2,400 kcal未満、女性 1,900 kcal未満 1日の歩数:5,000歩未満 |
(2) 高エネルギー摂取量/歩数が少ない人 (n=1,586) 1日のエネルギー摂取量:男性 2,400 kcal以上、女性 1,900 kcal以上 1日の歩数:5,000歩未満 |
(3) 低エネルギー摂取量/歩数が多い人 (n=471) 1日のエネルギー摂取量:男性 2,400 kcal未満、女性 1,900 kcal未満 1日の歩数:5,000歩以上 |
(4) 高エネルギー摂取量/歩数が多い人 (n=750) 1日のエネルギー摂取量:男性 2,400 kcal以上、女性 1,900 kcal以上 1日の歩数:5,000歩以上 |
その結果、エネルギー摂取量が少ない/歩数が少ない人に比べて、エネルギー摂取量が多い/歩数が多い人は、生存率が大幅に高い(死亡率が低い)ことが明らかになった。
追跡期間3.38年(中央値)に111人の死亡が記録された。交絡因子の調整後の低エネルギー/低歩数群と比較した全死因死亡のハザード比(HR)は、高エネルギー/低歩数群で0.71[95%信頼区間 0.41~1.23]、低エネルギー/高歩数群で0.59[95%信頼区間 0.29~1.19]高エネルギー/高歩数群で0.10[95%信頼区間 0.01~0.76]となった。
これにより、高エネルギー摂取量/歩数が多い人で死亡リスクはもっとも低いことが明らかになった。高齢者には「十分に食べて・身体をたくさん動かす」ことを勧めることが重要であることが示唆されるとしている。
死亡リスクに対する補正エネルギー摂取量と歩数の関係
死亡リスクがもっとも低くなるエネルギー摂取量は歩数100歩あたり35~42kcal
死亡リスクに対するエネルギー摂取量と歩数の相互作用の関係はみられなかった。男女ともに、1日の歩数が約4,000歩まで増えると、それにともないエネルギー摂取量も増加するが、歩数が4,000歩を超えると、歩数を増やしてもエネルギー摂取量は増加しなかった。
「歩数が4,000歩未満の高齢者では、食欲不振により必要なエネルギーをとれていなかったり、栄養素が不足するのを回避するために、歩数を含む身体活動量の改善が有効である可能性があります」としている。
研究群はさらに、歩数に応じた補正エネルギー摂取量と死亡イベントの関連についても評価した。その結果、死亡リスクがもっとも低くなる、歩数100歩あたりの1日の補正エネルギー摂取量は、35~42kcalであることが明らかになった。
たとえば、1日の歩数が6,000歩の人の場合、最適な補正エネルギー摂取量は2,100~2,520kcaになる。
一方で、歩数を100歩あたりの1日の補正エネルギー摂取量が、28kcal未満と56kca以上の人は、死亡リスクは変らなかった。
これらのことから、高齢者では「身体を動かしている・十分に食べている」ことが、寿命を延長させるために重要であることが示唆されるとしている。
歩数100歩当たりの補正エネルギー摂取量と死亡リスク間の制限付き3次スプライン回帰モデル
高齢者は歩数に見合った食事による適切なエネルギー摂取が必要
研究は、早稲田大学スポーツ科学学術院の渡邉大輝助教、宮地元彦教授、医薬基盤・健康・栄養研究所の吉田司研究員、山田陽介室長、びわこ成蹊スポーツ大学の渡邊裕也准教授、京都先端科学大学の木村みさか客員研究員によるもの。研究成果は、「International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity」に掲載された。
「身体活動と食事の両方が、健康づくりに良いと言われてきましたが、その相互作用は十分に理解されていません。本研究では、単に体を動かせば良いというだけでなく、歩数に見合った食事による適切なエネルギー摂取も必要であることが示されました」と、研究者は述べている。
「近年のスマートフォンやウェアラブルデバイスの普及により、多くの人が歩数を評価できるようになっています。今回の研究により、1人ひとりの歩数から、食事量の目安を計算できるようになった点に注目していただきたい」。
「高齢の方は、自身で測定した歩数から、最適なエネルギー摂取量を算出して、1日に食べる量の参考にして欲しい」としている。
早稲田大学スポーツ科学学術院
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
Association between doubly labelled water-calibrated energy intake and objectively measured physical activity with mortality risk in older adults (International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity 2023年12月25日)