【新型コロナ】新しい迅速診断パッチを開発 皮膚に貼るだけで無痛 皮下の間質液の抗体を検出
専門家不要・低侵襲・迅速なスクリーニング法が求められている
東京大学は、従来の注射針を用いた採血に代えて、皮膚に貼るだけで抗体検出ができる、多孔質マイクロニードルとイムノクロマトアッセイを組み合わせた新しいパッチ型抗体検出デバイス(PMNIA)を開発した。
多孔質マイクロニードルは、微小サイズの針にスポンジのように多数の穴が開いたもので、微量の細胞間質液を、毛細管現象により皮下から無痛で採取できる。また、イムノクロマトアッセイは、抗原抗体反応により、目的とする抗体だけを検出できる簡便かつ迅速な手法。短時間で目視での判定が行えることから、簡易的な感染症スクリーニングに適している。
新型コロナの感染経過を調べるために、PCR検査などの補完として、イムノクロマトアッセイによる新型コロナウイルスに対する抗体(抗SARS-CoV-2免疫グロブリンM(IgM)および免疫グロブリンG(IgG)抗体)検査が用いられている。しかし、検査のための採血には痛みをともなうほか、針による感染の危険性があるといった問題がある。
研究グループは、抗体などのタンパク質バイオマーカーが豊富に含まれる皮下の細胞間質液中の抗SARS-CoV-2 IgM抗体とIgG抗体を検出対象とし、新しい手法で作製した生分解性多孔質マイクロニードルを用いて、細胞間質液を無痛で採取し、その後、金ナノ粒子を用いたイムノクロマトアッセイに導入することで、無痛でIgM抗体とIgG抗体を同時に検出できるパッチ型抗体検出デバイス(PMNIA)をはじめて開発した。
開発した新規パッチ型抗体検出デバイスは市販の検査キットと同等以上の感度を実現しており、ヒトへの臨床応用を今後検証し、実用化を進めるとしている。また、研究で開発したデバイスは、小型、低侵襲(無痛)で簡単に使用できるため、さまざまな感染症の迅速なスクリーニングへの応用が期待される。
(b) デバイスの拡大図
低侵襲でシンプルなデバイス 皮下の間質液からウイルスに対する抗体を検出
新型コロナ診断方法として、リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)が現在主に用いられる検出方法だが、設備の整った実験室や検体採取の十分な訓練を受けた医療従事者が必要であるうえ、検出に時間がかかるという欠点がある。
そこで、イムノクロマトアッセイによる抗SARS-CoV-2免疫グロブリンM(IgM)および免疫グロブリンG(IgG)抗体迅速診断法が、検出時間短縮方法として開発された。
研究グループは今回の研究で、血液の代わりに、皮下の細胞間質液に着目し、細胞間質液に存在する抗SARS-CoV-2 IgMおよびIgG抗体により抗体検出が行えることをはじめて示した。
また、生分解性ポリマー製多孔質マイクロニードルの新たな作製方法を提案し、センサーと組み合わせることで、パッチ型抗体検出デバイスをはじめて実現した。提案されたデバイスは、生分解性多孔質マイクロニードルと、金コロイドナノ粒子を用いたイムノクロマトバイオセンサーで構成されている。
開発したデバイスPMNIAの原理は以下の通り――。
(1) 多孔質マイクロニードルが皮膚に刺さると、毛細管現象により、連続した微細孔を通して細胞間質液が採取されセンサーに運ばれる。その後、採取された細胞間質液はサンプルパッドに吸収され、サンプルパッドの上部に位置するコンジュゲートパッドに垂直方向に移動する。
(2) 細胞間質液中に抗SARS-CoV-2 IgMおよびIgG抗体が存在する場合、コンジュゲートパッド上のSARS-CoV-2スパイクタンパク質受容体結合ドメイン標識金コロイドナノ粒子に結合し、抗原-抗体結合体となる。
(3) ニトロセルロースメンブレンを通過する間に、IgM結合体はIgMラインに配置された抗ヒトIgM抗体によって捕捉され、IgG結合体はIgGラインに配置された抗ヒトIgG抗体によって捕捉される。抗体が捕捉されると色のついた線で表示されるため目視で読み取ることが可能となる。
(4) 採取した細胞間質液にSARS-CoV-2に対する特異的抗体が含まれていない場合、結合体は形成されないため、色は変化しない。デバイスの動作保証のために、ウサギIgG抗体によるコントロールラインを同様にして設ける。コントロールラインが着色することで正常動作を確認できる。結果として、目視で明確に検出結果を判定することができる。
このデバイスの製作方法としては、まず生体分解性のポリ乳酸(PLA)を使用しマイクロニードルを製作した。PLAの微小球状粒子をエマルジョン中に分散させた溶液を用いて、球と球の隙間を使い連続した微細空孔を形成することで多孔質構造を形成し、熱処理により微小球状粒子同士を結合させ、多孔質マイクロニードルとして成形した。
その後の動物実験により、ラットの皮膚から細胞間質液を迅速に抽出できることと、マイクロニードルを除去した後で速やかに皮膚が元の状態に回復したことを確認した。
また、マイクロニードルとイムノクロマトアッセイを組み合わせた実験により、採取した細胞間質液がセンサーに導入され、特異抗体を目視判定できることが確認された。
実験では、抗SARS-CoV-2 IgMおよびIgG抗体が試験管内で3分以内に同時に検出されたことに加え、IgMおよびIgGの検出限界はそれぞれ3および7ng/mLであることが確認された。
今後さまざまな感染症の応用にも期待
研究は、東京大学生産技術研究所の金範埈教授、同大学大学院工学系研究科精密工学専攻の鮑蕾蕾氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」誌に、オンライン掲載された。
「本研究で提案したパッチ型抗体検出デバイスは、既存のキットに比べ小型であり、大量に使用する際に有利です。提案デバイスは低侵襲かつシンプルです」と、研究グループでは述べている。
「SARS-CoV-2以外にもさまざまな感染症の迅速なスクリーニングへの応用に大きな可能性をもつことから、今後も医療資源の乏しい国や地域で、他の診断検査の有効な補完手段として広く利用されることが期待できます。さらに、本研究で提案した多孔質マイクロニードルの作製方法は、将来的に、さまざまな感染症の生体モニタリングを可能にするセンサパッチを開発するにあたり、非常に有効な要素技術となることが期待されます」としている。
東京大学生産技術研究所 Anti-SARS-CoV-2 IgM/IgG antibodies detection using a patch sensor containing porous microneedles and a paper-based immunoassay (Scientific Reports (2022年7月1日))