糖尿病治療薬「GLP-1受容体作動薬」の自由診療での不適切使用に対して懸念を表明 日医

2022.06.07
 糖尿病治療薬である「GLP-1受容体作動薬」が、一部で「GLP-1ダイエット」などと広告・宣伝され、"痩せ薬"として不適切使用されている実態について、日本医師会は強い懸念を表明した。

 保険外診療について、「がんや難病など、生命に関わる病のため、保険外診療を選択せざるをえない患者以外への、不適切な投薬を防ぐ制度が必要なのではないか」と主張。

 メディアに対しては、医薬品の適応外使用の実態と、それによって起こりうる健康被害を啓発するための周知への協力を要請している。

「糖尿病治療薬が"痩せ薬"として不適切使用されている」と懸念

 日本医師会の今村聡副会長は、6月の定例会見で、糖尿病治療薬である「GLP-1受容体作動薬」が、一部で"痩せ薬"として不適切使用されている実態について報告した。

 今村副会長はまず、これまでの糖尿病治療について、日医が日本糖尿病学会、日本糖尿病協会、日本歯科医師会と協力し、「日本糖尿病対策推進会議」を設立するとともに、『糖尿病治療のエッセンス』の作成などにより、啓発を進めてきたことを紹介。

 そのうえで、「糖尿病治療薬の一部が、個人輸入や美容クリニックで、"痩せ薬"として不適切に使用されている実態がある」と述べ、強い懸念を表明した。

 具体的な事例としては、「GLP-1受容体作動薬」を用いて、インターネット上で「GLP-1ダイエット」と広告し、自由診療として行っていることを例に挙げ、「健康な方が医薬品を使用することのリスクおよび医薬品適正使用の観点からも、このような行為を禁止すべきである」と強調。

 同薬には重大な副作用のリスクや禁忌があることについても説明し、医薬品を投与する前提として、「リスクがあるとしてもなお、治療が必要で効果が期待される方に対して投与されるべきであり、国民の健康を守るべき医師が、治療の目的を外れた使い方をすることは"医の倫理"にも反する」と指摘した。

 今村副会長はさらに、医薬品を医療機関に納入している卸売業者や製薬企業など、流通業界における対応にも課題があるとの見方を示し、厚生労働省による医薬品の適正な流通確保を要望する姿勢を示したほか、医療広告のあり方に関しても、とくにインターネット上でガイドラインの規定を外れた表記が散見されることから、日医として取り締まりのさらなる強化を関係部局へ申し入れていく方針を示した。

自由診療におけるオンライン診療の不適切事例について (医薬品の適応外使用)
日本医師会が公開しているビデオ (3月に開催された定例記者会見より今村聡副会長のコメント)

保険外診療の実態把握が必要

 今村副会長は3月の会見でも、自由診療としてオンライン診療による「糖尿病治療薬の適応外使用」(「GLP-1ダイエット」と広告・宣伝し、GLP-1受容体作動薬を処方)を実施する医療機関が増加していることを問題視し、厚生労働省に対して適切な対応を改めて求めていた。

 今村副会長は、現在、インターネット上で横行している不適切な医療・医薬品広告を取り締まるネットパトロールついて、「限界がある」とした上で、「国が認めている保険診療さえ安全に行われれば、国民の健康が守られたと言えるのか。不適切な医学的行為が横行している状況は、真に国民の安全が守られているとは言えない」との認識を示すとともに、このような行為を行う医師がいることについても、「遺憾に思う」と述べていた。

 現在、医薬品の安定確保が課題となっていることにも言及し、本来、治療に用いるべき医薬品が不適切に流通し、健康な人が使用するような状況は日本医師会として看過できないとして、国に対し、保険外診療の実態把握、とくに医薬品の流通ならびに適応外使用による健康被害に関する早急な調査と実態把握を行うよう要望している。

 また、オンライン診療に関しては、「治療が必要でありながら、医療にアクセスできない患者に対し、必要な医療を提供する手段として有効活用されるべきオンライン診療が、エビデンス不十分な医学的処置の横行に拍車をかけている」と強調。厚労省をはじめ関係機関に対し、この問題を真摯に受け止めることを求めた。

公益社団法人 日本医師会
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[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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