新型コロナの重症化メカニズムを解明 新たな重症化予測マーカー「Myl9」を同定 千葉大学など
Myl9が新型コロナの重症度と入院日数と相関
研究は、千葉大学病院(病院長:横手幸太郎)が、千葉大学大学院医学研究院免疫発生学の研究グループ(中山俊憲前教授、平原潔教授、岩村千秋特任講師ら)と共同で行ったもの。研究成果は、国際医学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences」にオンライン掲載された。
千葉大学病院が2020年7月から取り組んでいる、新型コロナの重症化メカニズムを解明する臨床研究の成果だ。
研究には、千葉県内の7つの病院(国保旭中央病院、船橋中央病院、成田赤十字病院、東千葉メディカルセンター、船橋市立医療センター、君津中央病院、千葉医療センター)が協力。
まず、新型コロナで死亡した患者(8例)の肺の血管の周りに浮腫をともなった滲出性血管炎が起きているのを確認した。この血管炎では、炎症などにより血液の液性または細胞成分が血管外へ漏出してしまい、血管周囲で浮腫が引き起こされる。
滲出性血管炎を起こした血管には、感染した新型コロナウイルスが多数観察された。肺血管は傷つき、その内腔には血栓が形成され、血栓には血小板成分のひとつであるMyl9(ミルナイン)というタンパク質が多量に沈着していた。
Myl9は炎症にともない、血小板から放出され血管の内側に付着して「ネット様構造(Myl9 nets)」を構築する。
次に、新型コロナの入院患者(123例)の血液を解析したところ、血中のMyl9濃度が上昇しており、新型コロナ患者の重症度とその後の入院日数と相関していることが判明。
このように、血中のMyl9濃度が新型コロナの重症化判定および予測マーカーとなることが分かった。血中のMyl9濃度の測定が重症度判定およびその後の病勢の予測に有用であることが示唆された。
Myl9測定がロングCOVID患者の病態評価に応用できる可能性
今回の臨床研究では、新型コロナウイルスが肺の血管へ直接感染することで引き起こされる血管傷害が、血栓形成の原因となり、それにともない放出されるMyl9が、新型コロナの重症化判定および予測マーカーとなることを明らかになった。
「新型コロナからの回復期には心血管疾患の発症リスクが増加することから、現在社会で大きな問題となっているロングCOVID患者の病態評価に研究成果が応用できる可能性があります」と、研究グループでは述べている。
「今後、血中Myl9濃度の簡易測定キットの開発や、Myl9を標的とした新規治療法の開発を、企業と連携し行うことで、社会に貢献できると考えています。さらに、本研究チームはヒトへの投与が可能なMyl9に対するヒト型抗体の作成に成功しており、実用化に向け、開発研究を着実に進めています」としている。
この研究は、以下の支援を得て行われた。
- 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)のウイルス等感染症対策技術開発事業における研究課題「新型コロナウイルス感染症における重症化の早期予測判定システムの開発」(研究開発代表者:中山俊憲)
- 免疫アレルギー疾患実用化研究事業における研究課題「新型コロナウイルス感染症で血管炎を誘導する新たな病的免疫細胞集団の同定と病態形成機構の解明」(研究開発代表者:平原潔)
- 革新的先端研究開発支援事業ユニットタイプ(AMED-CREST)「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」における研究課題「気道組織における病的リモデリング(線維化)機構の解明と病態制御治療戦略の基盤構築」(研究開発代表者:中山俊憲)
- 公益財団法人武田科学振興財団ハイリスク新興感染症研究助成における研究課題「新型コロナウイルス感染症における血管病変を中心とした重症化メカニズムの解明と新規バイオマーカーによる治療戦略の樹立」(研究代表者:岩村千秋)
- JSTムーンショット型研究開発事業「ウイルス-人体相互作用ネットワークの理解と制御」(課題推進者:池原譲)
- 千葉大みらい医療基金 他
千葉大学医学部附属病院
千葉大学大学院医学研究院免疫発生学
Elevated Myl9 reflects the Myl9-containing microthrombi in SARS-CoV-2–induced lung exudative vasculitis and predicts COVID-19 severity (Proceedings of the National Academy of Sciences 2022年7月27日)