高齢者の2型糖尿病の新たな指標 インスリン抵抗性と握力低下によるサルコペニア疑いが併存 順天堂大学

2024.04.03
 順天堂大学は、インスリン抵抗性が高く、握力が低い高齢者は、2型糖尿病のリスクが高いことを、文京区在住の高齢者1,629人を対象とした横断研究により明らかにした。

 インスリン抵抗性を空腹時の中性脂肪値と血糖値から評価するTyG indexと、握力の測定によるサルコペニア疑いは、日常臨床で簡便に評価が可能であり、高齢2型糖尿病患者の多い日本で、早期スクリーニングや健康寿命の延伸に有用としている。

高齢者のインスリン抵抗性と握力低下の併存は2型糖尿病リスクを著しく高める

 順天堂大学は、インスリン抵抗性が高く(TyG indexが男性8.79以上、女性8.62以上)、握力が低い(男性28kg、女性18kg未満:サルコペニア疑いに該当)高齢者は、2型糖尿病のリスクが高いことを、文京区在住の高齢者1,629人を対象とした横断研究により明らかにした。

 研究グループは今回、東アジアの高齢者にも有用かつ簡便な新たな臨床指標の一案として、サルコペニア指標として握力、インスリン抵抗性指標としてTyG indexを用いて、高齢者の2型糖尿病のリスクを検討した。

 TyG (Triglyceride Glucose) indexは、インスリン抵抗性を評価するための指標で、空腹の状態で採血を行い、血糖値と中性脂肪の値より算出する。血中のインスリン値が計算に不要であり、他のインスリン抵抗性の指標よりも簡便に多くの医療機関で評価できると期待されている。

 研究は、順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の田島翼氏、加賀英義准教授、田村好史先任准教授、河盛隆造特任教授、綿田裕孝主任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国内分泌学会の学術誌である「Journal of the Endocrine Society」にオンライン掲載された。

 「研究成果は、高齢2型糖尿病患者の多い日本で、その早期スクリーニングや健康寿命の延伸の観点から、極めて有益な情報と考えられます」と、研究者は述べている。

インスリン抵抗性と握力低下の状態と糖尿病の有病率との関係
日本人高齢者で、インスリン抵抗性(空腹時の中性脂肪値と血糖値から算出)と握力低下がそれぞれ単独でも2型糖尿病のリスクとなり、またその併存はさらにリスクを高める可能性が示唆された

出典:順天堂大学、2024年

日常臨床で簡便に測定できる握力とTyG indexは大規模なスクリーニングにも利用できる指標に

 高齢者での糖尿病の増加は、加齢にともなう体脂肪量の増加や筋肉量の減少などの体組成の変化によるインスリン抵抗性と深く関連している。サルコペニアと肥満を合併した「サルコペニア肥満」は、糖尿病・高血圧症・心血管疾患などのリスクがさらに上昇することから、近年とくに問題視されている。

 日本人を含む東アジア人は、肥満者が欧米より少ないため、サルコペニア肥満に該当する高齢者は比較的少ないと考えられている一方で、東アジア人には肥満をともなわないがインスリン抵抗性を有する集団が多く存在しており、高齢化により該当者が増えてゆくと推察される、サルコペニアかつインスリン抵抗性を有する人は、糖尿病のリスクがより高まる可能性がある。

 糖尿病の早期介入を目指した大規模なスクリーニングを可能にするために、測定方法が利用しやすくかつ効果的であることが重要となる。そこで研究グループは今回、都市部在住の日本人高齢者を対象に、インスリン抵抗性の指標としてTyG indexを、サルコペニア疑いの指標として握力を用い、これらの併存が糖尿病の有病率と関連するか検討した。

 研究グループは、65歳~84歳の文京区在住の高齢者を対象に同大学スポートロジーセンターで実施している「文京ヘルススタディー」に参加した1,629人(男性687人、女性942人)を対象に、TyG indexを用いて、全体の4分の1の値以上(男性8.79以上、女性8.62以上)をインスリン抵抗性とし、また握力が男性で28kg、女性で18kg未満をサルコペニア疑いとして、インスリン抵抗性、サルコペニア疑いにも該当しない「正常群」、インスリン抵抗性のみ該当する「インスリン抵抗性群」、サルコペニア疑いのみ該当する「サルコペニア疑い群」、両方とも該当する「併存群」の4群に分類し、2型糖尿病の有病率を比較した。

 その結果、正常、サルコペニア疑い、インスリン抵抗性、併存群の順で、糖尿病有病率が増加していることが明らかになった。また年齢、性別、BMI、脂質降下薬の使用、高血圧・心血管疾患といった基礎疾患を調整した結果、併存群では、正常群と比べて、糖尿病のリスク(相対危険度)が約5倍に上昇することが示された。

群別でみた糖尿病の割合(有病率)
正常群と比較してサルコペニア疑い・インスリン抵抗性群・併存群の順で2型糖尿病の有病率が高い

出典:順天堂大学、2024年

 さらに、インスリン抵抗性の定義を、体脂肪率やBMIで定義した肥満、HOMA-IRやMatsuda index(どちらもインスリン値を用いたインスリン抵抗性指標)に変更しても、もっとも糖尿病のリスク比が高く示されたのはTyG indexを用いたインスリン抵抗性指標であることが示された。

 インスリン抵抗性(TyG index:男性8.79以上、女性8.62以上)とサルコペニア疑い(握力低下)を有している併存群は、両方とも該当しない正常群と比べて、糖尿病有病率のリスク(相対危険度)が約5倍高く。またインスリン抵抗性・サルコペニア疑い単独でもリスクが約2倍前後高いことが分かった。

インスリン抵抗性(TyG index:男性8.79以上、女性8.62以上)とサルコペニア疑い(握力低下)
もしくは肥満の状態と糖尿病の有病率との相関
サルコペニア疑いとTyG indexを用いたインスリン抵抗性指標の組み合せが糖尿病の有病率と相関が高いことが示された
年齢、性別、BMI、脂質降下薬の使用・高血圧症・心血管疾患の有無で調整
出典:順天堂大学、2024年

 また握力低下に加え、さまざまな指標によるインスリン抵抗性・肥満の併存と糖尿病相対危険度の相関を比較したところ、今回の研究で用いたTyG indexによるインスリン抵抗性と握力によるサルコペニア疑いの併存が、糖尿病有病率のリスク(相対危険度)との相関が他の指標と比較しても強いことが示された。

 「日本では高齢化にともない、糖尿病の該当者はさらに増加してゆくと考えられ、日常臨床でも簡便に測定できる握力とTyG indexはより大規模なスクリーニングにも利用できうる指標となる。これら2つの指標により示された握力低下とインスリン抵抗性の併存は、日本人での、サルコペニア肥満に代わる重要な病態をあらわしている可能性がある」と、研究者は述べている。

 「今後は、糖尿病だけでなく、その他の老年疾患である、認知症や骨粗鬆症、心血管疾患との関連を調査していく。また今回の解析対象集団を追跡している文京ヘルススタディーは、今後10年間の観察研究を続け、老年疾患の予防プログラムを提供することを目指していく」としている。

順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学
文京ヘルススタディー (Bunkyo Health Study)
Low Handgrip Strength (Possible Sarcopenia) With Insulin Resistance Is Associated With Type 2 Diabetes Mellitus (Journal of the Endocrine Society 2024年2月2日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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