【新型コロナ】ワクチン接種後の抗体産生量の個人差と時間変化を調査 医療従事者など2,202人を調査 順天堂大

2022.05.31
 順天堂大学が、医療従事者など2,202人を対象に実施した調査で、新型コロナウイルスに対する中和抗体が産生された指標となるS抗体について、ほぼ全例で認められたものの、その産生量や減少の程度に年齢や性別で差があることが明らかになった。

 さらに、新型コロナ感染既往の指標となる抗体(N抗体)の陽性率は、医療従事者とその他の職員のあいだで、差は認められなかった。

 「適切なシステムのもとで十分な感染防御対策を行っていれば、新型コロナウイルス診療の最前線で活動している医療従事者の感染リスクは、一般人と同等であることが示されました」としている。

十分な感染対策をしていれば、新型コロナ対策の最前線で活動する専門職の感染リスクは上昇しない

 順天堂大学の研究グループは、医療従事者を含む同大学本郷・お茶の水キャンパスのワクチン2回接種を完了した職員2,202人を対象に、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体検査を実施した。

 その結果、新型コロナウイルスに対する中和抗体が産生された指標となるS抗体がほぼ全例で認められたものの、その産生量や減少の程度に年齢や性別で差があることが明らかになった。

 一方、新型コロナ感染既往の指標となる抗体(N抗体)の陽性率は2020年より上昇(0.34%→1.59%)していたが、神戸大学などが実施した神戸市の一般住民対象の抗体陽性率の調査結果とほぼ同じレベルだった。

 また、昨年の報告結果と同様に、感染リスクが高い医療従事者とその他の職員のあいだで、N抗体の陽性率に差は認められなかった。

 この結果は、適切なシステムのもとで十分な感染防御対策を行っていれば、新型コロナウイルス診療の最前線で活動している医療従事者の感染リスクは、一般人と同等であることを示している。

 研究は、順天堂大学医学部附属順天堂医院臨床検査部の井川ジーン技師、田部陽子教授、順天堂大学安全衛生管理室の内藤俊夫教授らによるもの。研究結果は、英科学誌「Scientific Reports」にオンライン公開された。

年齢別のS抗体の経過日数ごとの推移
高齢者でS抗体の産生量が低く、低下傾向が大きい

出典:順天堂大学、2022年

感染の既往を示す抗体の陽性率を調査 N抗体とS抗体の2種類

 新型コロナに対するワクチン接種が進み、ワクチン接種後にウイルスに対する中和抗体がどの程度産生されるかを知ることは感染予防に重要だ。年齢や性別が抗体の産生に与える影響や副反応の程度などがすでに報告されているが、いまだ十分な情報は得られていない。

 加えて、症状をともなう感染だけでなく、無症状の感染も拡大していると考えられ、感染の既往を示す抗体の陽性率を知ることも大切となる。

 そこで研究グループは、ワクチン2回接種で抗体がどの程度産生されるか、前年と比較してどの程度の感染の既往者が増加するかを調べることを目的に、順天堂大学本郷・お茶の水キャンパス職員健診受診者を対象に、SARS-CoV-2抗体検査を行った。

 新型コロナウイルスの抗体検査の対象となったのは、職員健診(2021年6月)を受診した、mRNAワクチン(ファイザー社)2回接種済の2,202人(医師671人、看護師878人、検査技師179人、その他の医療従事者198人、事務職員244人、研究者23人、その他9人)。

 測定した抗体は、新型コロナウイルス感染既往の指標となるヌクレオカプシドタンパク質に対する抗体(N抗体)と中和抗体の産生指標となるスパイクタンパク質に対する抗体(S抗体)の2種類で、それぞれElecsys Anti-SARS-CoV-2(N抗体、ロシュ社)およびElecsys Anti-SARS-CoV-2 S(S抗体、ロシュ社)を用いて陽性率を調べた。

 Nタンパク質は、コロナウイルスを構成するタンパク質のひとつ。Nタンパク質に対する抗体(N抗体)は、新型コロナウイルス感染後に産生されるが、ワクチン接種をしてもN抗体は産生されない。また、Sタンパク質は、コロナウイルスを構成するタンパク質のひとつ。Sタンパク質に対する抗体(S抗体)は、新型コロナウイルス感染後に産生されるのに加え、ワクチン接種後にも産生される。

 なお、研究の実施に際しては、同大学医学部研究等倫理委員会の承認を得て、抗体検査研究に関する情報を公開し研究参加を拒否できる機会を保障した。

副反応が強い人はワクチン接種などで産生されるS抗体が多い結果に

 抗体検査対象者の男女比は男性33.7%、女性66.3%だった。抗体検査を行った2,202人のうち、感染の既往を示すN抗体の陽性率は1.59%(35人)で、2020年の0.34%より上昇していたが、新型コロナウイルスへの曝露リスクが高い医療従事者と曝露リスクが低い環境で勤務している職員とのあいだでは、N抗体陽性率に有意差はみられなかった。

 このN抗体陽性率は、同時期に神戸市で実施された一般住民を対象とした調査結果(2.1%)や、アジアの国々の医療従事者の陽性率(0~3.8%)と同等だった。

 一方で、新型コロナウイルスに対する中和抗体の産生を示唆するS抗体は、ワクチン2回接種者ほぼ全例で陽性となった。S抗体の産生量は、女性が男性よりも多く、高齢者で経時的な低下傾向が大きい結果となった。

 また、新型コロナの無症状既往者(新型コロナと診断されたことがないN抗体陽性)のS抗体産生量は、有症状既往者(過去に新型コロナと診断された)とほぼ同等で、感染既往のない人(N抗体陰性)と比べて、有意に多い結果となった。

 さらに、ワクチン接種後のアンケート結果より、ワクチンの副反応が生じる頻度は女性の方が男性よりも高く、副反応が強い人はS抗体産生量が多い結果となった。

 ただし、副反応の程度は主観的なものであり、それがS抗体の産生量に影響を与えるかどうかは、さらなる調査研究が必要と考えられるとしている。

男女別のS抗体産生量
男性よりも女性の方がS抗体産生量が有意に多い(** p<0.001)

出典:順天堂大学、2022年

順天堂大学医学部附属順天堂医院
Antibody response and seroprevalence in healthcare workers after the BNT162b2 vaccination in a University Hospital at Tokyo (Scientific Reports 2022年5月24日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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