健診で脂質異常を指摘されても医療機関を受診しない人の特徴が判明 医療機関と接点がない人が未受診の可能性 筑波大学
健診で異常を指摘されても医療機関を受診する人は15〜20%
脂質異常症(とくに悪玉のLDLコレステロールの高値)を放置していると、心筋梗塞、脳梗塞、認知症などのリスクが高まる。そのため、健診で異常を指摘された場合は、医療機関を受診し対処し、必要な治療を受けることが重要になるが、日本の企業の健康保険加入者を対象とした報告では、健診で脂質異常を指摘された人のうち、半年以内に医療機関を受診した人は15〜20%程度にとどまる。
健診で異常を指摘された後の受診率の向上は課題となっているが、どのような人が、健診で指摘されても受診せずに放置しやすいのか、その特徴は明らかになっていない。
そこで研究グループは、茨城県の国民健康保険加入者のうち、特定健診と医療保険レセプトのデータから、特定健診で脂質異常を指摘された人の追跡データを解析し、健診後半年以内に脂質異常症に関して医療機関を受診した人の割合を算出し、医療機関を受診しない集団の特徴を明らかにした。
研究グループは今回、茨城県の国民健康保険の加入者の特定健診・医療保険レセプトデータを使用。2018年度に特定健診を受けた40〜74歳の20万2,369人のうち、脂質異常の受診勧奨基準である[LDLコレステロール≧140mg/dL、中性脂肪≧300mg/dL、HDLコレステロール≦34mg/dLのいずれか]を満たした3万3,503人を解析の対象にした。健診前からすでに脂質異常症の治療や検査を受けていた人を除いた。
このうち、180日以内に脂質異常症について医療機関を受診した人の割合は18.1%(6,052人)だった、
また、高LDLコレステロール血症を指摘された3万1,084人について、異常値の程度別に医療機関を受診した割合をみたところ、LDLコレステロール値が140~160mg/dLの群で15.7%、160~180mg/dLの群で18.6%、180mg/dL以上の群で23.6%であり、異常の程度が大きいほど受診しておらず、もっとも異常の程度が大きい180md/dL以上の群でも約8割は受診していないことが明らかになった。
医療機関を受診していない人の特徴として、▼若年、▼男性、▼飲酒習慣がときどきある、▼公共施設で健診を受けた、▼自覚症状がなかった、▼健診で他の異常を指摘されなかった、▼健診前に医療機関の受診や薬の処方がなかった――などを挙げている。
また、LDLコレステロールの異常値の程度別にみると、異常が比較的軽度だった人(LDLコレステロール値が140〜160mg/dL)は、受診率が15.7%とさらに低かった。さらに、異常値の度合いが大きかった人(180mg/dL以上)は、受診率が23.6%とやや向上したものの、やはり8割近くの人は受診していないことも分かった。
どのような受診勧奨を行うと医療機関の未受診を減らせるか
研究は、筑波大学医学医療系/ヘルスサービス開発研究センターの田宮菜奈子教授らによるもの。研究成果は、「JMA Journal」に掲載された。
医療機関未受診者について、これまで糖尿病や高血圧を対象とした研究はあったが、脂質異常については検討されていなかった。
「受診率向上に向けた取り組みでは、どのような人々が医療機関を受診しにくいのか、その特徴を明らかにすることが重要になる。本研究で明らかになった未受診の可能性が高い人の特徴は、健診を担う市町村などの現場で受診勧奨方法を検討する際の参考となることが期待される」と、研究者は述べている。
「たとえば、本研究で未受診の可能性が高いと明らかになった"健診前に医療機関を受診していなかった人"や、"健診を(医療機関ではなく)公共施設で受けた人"は、ふだん医療機関と接点があまりない可能性がある。そのため、健診結果を送る際に、居住地の近隣で受診できる医療機関のリストも案内するなどの工夫が考えられる」。
「今後は、実際にどのように受診勧奨の方法を工夫すれば医療機関の未受診を減らすことができ、さらには心筋梗塞、脳梗塞、認知症などを発症する人を減らせるかという点について、研究を進めていく必要がある」としている。
筑波大学 医学医療系 ヘルスサービス開発研究センター
Factors associated with non-attendance at a follow-up visit for dyslipidemia identified at health checkups: a retrospective cohort study in a Japanese prefecture (JMA Journal 2024年10月15日)