【新型コロナ】回復者は他の変異型への再感染や重症化のリスクが低い可能性 変異ウイルスに対する中和抗体を解析

2021.07.20
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の従来型あるいは英国型(アルファ株)のウイルスに感染した患者は、ほとんどが英国型(アルファ株)、ブラジル型(ガンマ株)、南アフリカ型(ベータ株)といった変異型に対しても中和抗体をもっており、COVID-19回復者は他の変異型への再感染あるいは重症化リスクも低い可能性があることが、神戸大学などの調査で明らかになった。

新型コロナから回復した人は他の変異型に対しても中和抗体を獲得

 神戸大学は、兵庫県立加古川医療センターとの共同研究により、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の第1波から第4波で、さまざまな重症度の患者の血清中での中和抗体を定量的に調べている。

 対象ウイルスは、現在国内で広がっている変異型(英国型・アルファ株;B.1.1.7)、および懸念される変異型(ブラジル型・ガンマ株;P.1、南アフリカ型・ベータ株;B.1.351)を用いた。

 その結果、すべての感染者で英国型(アルファ株)に対する中和抗体が産生されており、他の変異型に対してもほとんどの感染者で中和抗体を産生していることが明らかになった。

 さらに、第4波では、英国型(アルファ株)に対する中和抗体が従来型や他の変異型よりも高いことが分かった。これは第4波では、英国型(アルファ株)が優位になっていたことを示唆している。

 研究は、神戸大学大学院医学研究科附属感染症センター臨床ウイルス学分野の森康子教授らの研究グループによるもの。査読前の研究であり、プレプリントとして「medRxiv」で公開された。

感染性の高い変異型が流行 さらなる感染拡大のおそれが

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は現在、英国型(アルファ株)、南アフリカ型(ベータ株)、ブラジル型(ガンマ株)をはじめとした複数の変異型が流行しており、国内でも報告されている。

 英国型変異ウイルス(アルファ株・B.1.1.7)は従来型の新型コロナウイルスと比較して感染性が高いとされ、特に関西や第4波では、英国型(アルファ株)に置き換わっていることが報じられている。

 他にもブラジル型(ガンマ株・B.1.351)も日本で同定されており、今後のさらなる感染拡大につながるおそれがある。

 SARS-CoV-2は重症度の高い患者ほど中和抗体価も高いことが報告されているが、新たに出現した変異型に対する具体的な中和抗体価については詳細は分かっていない。

 そこで研究グループは、日本の第1波から第4波でのさまざまな重症度のCOVID-19患者の血清を用いて変異型(生ウイルス)に対する中和抗体価を詳細に解析した。

 その結果では、全ての患者血清で、英国型(アルファ株)に対して従来型と同等の中和抗体価を認め、ブラジル型(ガンマ株)および南アフリカ型(ベータ株)に対しても抗体価は低いもののほとんどの患者が中和抗体をもっていることが明らかになった。

ほとんどすべての患者がすべての変異型に対して中和抗体を獲得

 具体的には、兵庫県立加古川医療センターを受診したCOVID-19患者の検体を用いて、下記の研究を実施した。

 第1波(2020年3月~6月)より18人、第2波(2020年7月~10月)より20人、第3波(2020年10月~2021年2月)より23人、第4波(2021年3月~)より20人の新型コロナウイルス患者を選択し、計81人の患者血清を解析した。

 また患者の重症度によって無症状~軽症(26人)、中等症~重症(19人)、超重症(37人)のグループに分類して解析した。

 その結果、解析した患者すべてで、従来型と英国型(アルファ株)で同程度の中和抗体価を認めた。また、ブラジル型(ガンマ株)は99%(81人中80人)、南アフリカ型(ベータ株)は96%(81人中78人)とほぼ全ての患者が中和抗体をもっていた。

 一方で、この2つの変異型(特に南アフリカ型・ベータ株)は英国型(アルファ株)に比べて中和活性が低い(中和しにくい)ことも示された。

 第1波から第3波にかけては上記と同様の傾向が示されたが、第4波では英国型に対する中和抗体価が従来型を含めた他のどの変異型よりも高い結果になった。

 このことは、第4波が英国型(アルファ株)を中心に発生していること、またその感染者では英国型(アルファ株)に対してもっとも強い中和抗体が産生され、他の変異型に対してもやはり同様に有効であることを示唆している。

 また、重症度別ではこれまでの報告と同じく無症状者・軽症のグループでは、どの変異型に対しても抗体価は低い傾向であったものの、ほとんどすべての患者がすべての変異型に対して中和抗体をもっていた。また、重症度が高いほど抗体価が高い傾向は変異型に対しても同様にみられた。

第1波~第4波それぞれの時期ごとにみた中和抗体価の推移

感染者を重症度別に分けた際のそれぞれの変異型に対する中和抗体価の推移
重症度が高いほど抗体価が高い傾向は変異型に対しても同様にみられた。
出典:神戸大学大学院医学研究科附属感染症センター、2021年

新型コロナ回復者は他の変異型への再感染リスクが低い可能性

 「従来型あるいは英国型(アルファ株)に感染した患者は、ほとんどが英国型(アルファ株)、ブラジル型(ガンマ株)、南アフリカ型(ベータ株)に対しても中和抗体をもっていたことから、COVID-19回復者は他の変異型への再感染あるいは重症化リスクも低い可能性が示唆されます」と、研究グループでは述べている。

 一方で、第4波の英国型に感染したと思われる患者グループでは、英国型(アルファ株)以外、特に南アフリカ型(ベータ株)には抗体価が低い(中和されにくい)ことも明らかになった。

 「変異型への再感染のリスクをさらに正確に評価するために、今後はCOVID-19に対する中和抗体以外の免疫応答、例えば免疫記憶(再感染した際に即座に抗体を産生するよう働きかけることのできるリンパ球)の持続や細胞性免疫などに関しても詳細に解析することが必要と考えられます」としている。

神戸大学大学院医学研究科附属感染症センター臨床ウイルス学分野
Cross-neutralizing activity against SARS-CoV-2 variants in COVID-19 patients: Comparison of four waves of the pandemic in Japan(medRxiv 2021年6月13日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

糖尿病関連デジタルデバイスのエビデンスと使い方 糖尿病の各薬剤を処方する時に最低限注意するポイント(経口薬) 血糖推移をみる際のポイント!~薬剤選択にどう生かすか~
妊婦の糖代謝異常(妊娠糖尿病を含む)の診断と治療 糖尿病を有する女性の計画妊娠と妊娠・分娩・授乳期の注意点 下垂体機能低下症、橋本病、バセドウ病を有する女性の妊娠・不妊治療
インスリン・GLP-1受容体作動薬配合注 GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド) CGMデータを活用したインスリン治療の最適化 1型糖尿病のインスリン治療 2型糖尿病のインスリン治療 最新インスリン注入デバイス(インスリンポンプなど)
肥満症治療薬としてのGLP-1受容体作動薬 肥満症患者の心理とスティグマ 肥満2型糖尿病を含めた代謝性疾患 肥満症治療の今後の展開
2型糖尿病の第1選択薬 肥満のある2型糖尿病の経口薬 高齢2型糖尿病の経口薬 心血管疾患のある2型糖尿病の経口薬

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料