【新型コロナ】感染症対策がテーマの「医療教育VR」を制作 医学・看護・歯学・薬学・リハビリの5部門横断型
CGでウイルス・細菌の飛沫や付着を表現
この医療教育VRは、360度カメラにより撮影された現場の映像をもとに、CGによりウイルス・細菌の飛沫や付着を表現したもの。撮影と編集はジョリーグッドに委託した。
広島大学で、医学生を対象に今回開発した医療教育VRを用いた実証授業と、医学部共用試験OSCE(オスキー)形式の実技試験を組み合わせた実証実験を行ない、VRによる学習を行った学生は、従来の講義形式の学習を行った学生に比べ、より正しく感染対策を実践できていることを検証した。研究成果は、「American Journal of Infection Control」にオンライン掲載された。
今後、同大学では、疑似体験により高い教育効果が得られるVR教材を積極的に活用し、医学生の実技レベルを飛躍的に向上させ、臨床実習で自信をもって患者診療が行える学生医「スチューデント・ドクター」を輩出するなど、感染症に強い人材を早期段階から育成するとしている。
この取り組みは、文部科学省の2020年度第3次補正予算事業「感染症医療人材養成事業」で、同大学が採択された事業の一環として、感染症診療の教育水準の底上げにつなげていく教育プロジェクトとして実施した。
医学・看護・歯学・薬学・リハビリの5部門横断型の医療教育VR
「感染症対策」をテーマに5本のコンテンツを制作
2013年以前の臨床実習は、外来での見学や入院患者を対象とした診療の見学など、「見学型」の臨床実習になっていたため、医師としての技能、態度を自らの体験として学ぶことが十分にできていなかった。
そのため2014年より、4年次に実施される共用試験(CBT、OSCE)に合格した医学生を「スチューデント・ドクター」に認定し、患者処置が行える参加型の臨床実習が行えるようになった。
しかし、実態としては、医学生の診療参加について、指導医の約9割が「十分とは言えない」「かなり不十分」と回答しており、その理由として、指導医の約6割が「学生の準備不足(事前教育が受けられていない)」と回答するなど、実技レベルの向上が大きな課題となっている。
制作した医療教育VRは、「感染症対策」を共通テーマとして、各部門の臨床現場での基本行動やトラブルシューティングを学ぶコンテンツが合計5本おさめられている。
同大学は今後、あらゆる職種の医療従事者に、さまざまな視点で感染対策の実例を学んでもらえるよう展開するとしている。
コンテンツ(1)[医学] | MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)感染対策 |
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コンテンツ(2)[看護] | 新型コロナウイルス感染症患者の看護における感染対策 |
コンテンツ(3)[歯学] | 歯科診療における感染対策 |
コンテンツ(4)[薬学] | 抗がん剤調製における感染対策及び抗がん剤曝露対策 |
コンテンツ(5)[リハビリ] | 新型コロナウイルス感染症患者のリハビリにおける感染対策 |
VRで学習効果を高める 楽しむことができる教材
実証実験では、同大学の医学科4年生を、VR群(21人)と講義群(21人)に分け、それぞれVRによる学習と、パワーポイント動画による講義形式の学習を受けてもらった。
学習効果を検証するため、学習前と学習後にOSCE形式で身体診察を行ってもらい、感染対策の実施状況を評価した。
課題は、2人の患者を腹部診察する設定で、患者1は腹部術後にMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による創部感染を起こした患者、患者2は虫垂炎に対し保存的加療を行っている患者とした。
標準予防策として診察前後の手指衛生ができているかに加え、MRSA患者の診察では接触感染予防策として手袋やエプロンを正しく着脱できているかを採点した。
その結果、学習前と学習後の点数を比較したところ、VR群、講義群のいずれでも、学習後に、手指衛生、エプロン装着、手袋装着、合計点の点数が高くなっており、学習効果が認められた。
VR群と講義群の学習後の点数を比較したところ、VR群の方が、講義群より、合計点が高く、より学習効果が高い可能性が示唆された。
アンケート調査では、VR群の方が、「楽しむことができた」「教材として有用だった」「次回も同じ学習形式で授業を受けたい」という意見が多かった。
広島大学病院感染症科
Virtual reality as a Learning Tool for Improving Infection Control Procedures (American Journal of Infection Control June 2022年6月1日)