動脈硬化学会が「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」を発表 リスクの高い糖尿病ではLDL-Cの管理目標値は100mg/dL未満

2022.07.12
 日本動脈硬化学会が「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」を発表した。

 同ガイドライン2007年版で「診療」から「予防」に名称変更されたことに示されている通り、「動脈硬化性疾患の予防」を目指した内容で、動脈硬化性疾患の診療している臨床医やメディカルスタッフへの影響が大きい。

 急性心筋梗塞、狭心症などの冠動脈疾患や脳卒中などの動脈硬化性疾患は、日本での主要な死亡原因であると同時に、平均寿命と健康寿命の乖離の大きな原因となっている。

 同学会では、「近年増加している動脈硬化性疾患が予防され、健康寿命の延伸が達成されることを期待しています」としている。

動脈硬化性疾患の予防を目指したガイドライン

 日本動脈硬化学会は、1997年に高脂血症診療ガイドラインを発表して以来、最新のエビデンスを取り入れ、5年ごとに改定を重ねてきた。同学会のガイドラインは、動脈硬化のリスクを包括的に管理することで、動脈硬化性疾患の予防を目指している。

「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」の主な改訂点

(1) 随時(非空腹時)のトリグリセライド(TG)の基準値を設定した。

(2) 脂質管理目標値設定のための動脈硬化性疾患の絶対リスク評価手法として、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を合わせた動脈硬化性疾患をエンドポイントとした久山町研究のスコアを採用した。

(3) 糖尿病がある場合のLDLコレステロール(LDL-C)の管理目標値について、末梢動脈疾患(PAD)、細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)合併時、または喫煙ありの場合は100mg/dL未満とし、これらをともなわない場合は従前どおり120mg/dL未満とした。

(4) 二次予防の対象として冠動脈疾患に加えてアテローム血栓性脳梗塞も追加し、LDLコレステロールの管理目標値は100mg/dL未満とした。さらに二次予防の中で、「急性冠症候群」、「家族性高コレステロール血症」、「糖尿病」、「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の合併」の場合は、LDLコレステロールの管理目標値は70mg/dL未満とした。

(5) 近年の研究成果や臨床現場からの要望を踏まえて、新たに下記の項目を掲載した。
① 脂質異常症の検査
② 潜在性動脈硬化(頸動脈超音波検査の内膜中膜複合体や脈波伝播速度、CAVI: Cardio Ankle Vascular Index、などの現状での意義付)
③ 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
④ 生活習慣の改善、に飲酒の項を追加
⑤ 健康行動理論に基づく保健指導
⑥ 慢性腎臓病(CKD)のリスク管理
⑦ 続発性脂質異常症
出典:日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」

糖尿病は動脈硬化性疾患の高リスク管理区分
リスクの高い糖尿病ではLDL-Cの管理目標値は100mg/dL未満

 同ガイドラインでは、糖尿病を動脈硬化性疾患の重要な危険因子としている。NIPPON DATA80では、糖尿病患者の冠動脈疾患死亡リスクは2.8と有意に高く、久山町研究では性、年齢など多因子調整後の冠動脈疾患発症率は健常者1.6/1,000人年に対して5.0/1,000人年、脳梗塞発症率は健常者1.9/1,000人年に対して6.5/1,000人年といずれも高率であることを示している。

 糖尿病治療と関連のある主な改訂点としては、糖尿病は高リスク管理区分であり、細小血管症をともなうなどとくにリスクの高い糖尿病の場合は、一次予防でもLDL-Cの管理目標値は100mg/dL未満とした。

 二次予防でより厳格な管理が必要な患者病態として、急性冠症候群、家族性高コレステロール血症、糖尿病、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞(あきらかなアテロームをともなうその他の脳梗塞を含む)の合併を挙げている。

 糖尿病患者の冠動脈病変の特徴として、多枝病変、病変が高度でびまん性、石灰化病変が多いことなどを挙げている。

 なお、LDL-Cの管理目標値は、高リスク管理区分では120mg/dL未満とし、低リスク・中リスク管理区分では2017年版ガイドラインの管理目標値を引き継ぎそれぞれ160mg/dL未満、140mg/dL未満とした。いずれも管理目標値を到達努力目標としている。

LDLコレステロール・総コレステロール・HDLコレステロール・中性脂肪を管理

 同ガイドラインでは、LDLコレステロールの上昇は、将来の冠動脈疾患の発症や死亡を予測するとした。また、脳卒中のうち、脳梗塞に対しては正の、出血性脳卒中に対しては負の関係が示されているが、日本人では総コレステロールに比べ十分なエビデンスがあるとはいえないとした(エビデンスレベル:E-1b)。

 総コレステロールの上昇については、将来の冠動脈疾患の発症や死亡を予測するとした。脳卒中に関しては、多くの研究に共通して、脳梗塞に対しては正の、出血性脳卒中に対しては負の関係が示されており、脳卒中の発症や死亡を予測するとした(エビデンスレベル:E-1a)。

 さらに、HDLコレステロールの低値は、将来の冠動脈疾患や脳梗塞の発症や死亡を予測するという。一方、HDLコレステロールが極端に高い場合は、冠動脈疾患や脳梗塞の死亡が高いという報告があるとしている(エビデンスレベル:E-1b)。

 空腹時、随時にかかわらずトリグリセライド(中性脂肪)は、将来の冠動脈疾患や脳梗塞の発症や死亡を予測するとした(エビデンスレベル:E-1b)。中性脂肪は食事の摂取後は値が上昇するなど変動が大きい。また空腹時でも非空腹時でも値が高いと、将来の冠動脈疾患や脳梗塞の発症や死亡のリスクを高めることが国内の疫学調査でも示されている。

脂質異常症診断基準
随時(非空腹時)のトリグリセライド(中性脂肪)の基準値がはじめて設定された。

LDLコレステロール 140mg/dL以上 高LDLコレステロール血症
120~139mg/dL 境界域高LDLコレステロール血症
HDLコレステロール 40mg/dL未満 低HDLコレステロール血症
トリグリセライド 150mg/dL以上(空腹時採血) 高トリグリセライド血症
175mg/dL以上(随時採血)
Non-HDLコレステロール 170mg/dL以上 高non-HDLコレステロール血症
150~169mg/dL 境界域高non-HDLコレステロール血症
出典:日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」

 同ガイドラインでは、LDL-Cの管理目標値は、高リスク管理区分では120mg/dL未満とし、低リスク・中リスク管理区分では2017年版ガイドラインの管理目標値を引き継ぎ、それぞれ160mg/dL未満、140mg/dL未満とされた。

久山町研究のスコアにもとづく絶対リスクを用いたフローチャート

 動脈硬化性疾患リスクに応じたカテゴリー分類として、久山町研究のスコアにもとづく絶対リスクを用いたフローチャートが示された。

 久山町研究では、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を合わせた動脈硬化性疾患がエンドポイントとされている。

脈硬化性疾患予防から見た脂質管理目標値設定のためのフローチャート

久山町スコアによる動脈硬化性疾患発症予測モデル

出典:日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」

食事療法と運動療法の具体的なやり方を示す

 同学会は、同ガイドラインで「肥満症やメタボリックシンドロームの治療の基本は、生活習慣の改善により、過剰な体重および内臓脂肪を減少させることである」として、食事療法と運動療法の具体的なやり方を示している。

 「トリグリセライドの低下を目的に、n-3系多価不飽和脂肪酸のうち魚油摂取量を増やすことを推奨する(エビデンスレベル:1+、推奨レベル:A)」、「食事による魚油の摂取を増やすことは、冠動脈疾患発症の抑制が期待できるために提案する」(エビデンスレベル:2、推奨レベル:B)といった内容が含まれている。

 さらに、LDLコレステロールが生まれつき高い「家族性高コレステロール血症(FH)」についても、詳細に解説している(第4章)。一般人口の300人に1人程度、冠動脈疾患の30人に1人程度、早発性冠動脈疾患や重症高LDLコレステロール血症の15人に1人程度がFHとみられている。

一般社団法人 日本動脈硬化学会

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