「腸内細菌叢」が脂肪性肝炎の発症や線維化に影響 肝硬変の悪化や血清アルブミンの低下にも

2023.03.10
 腸内細菌叢の変化が、メタボリックシンドロームの肝病変である脂肪性肝炎の発症や線維化の進行に関わることを、富山県立大学が明らかにした。

 肥満やメタボの発症に、腸に常在する腸内細菌の多様性の減少が関係しているとしている。さらに、メタボに対して良い作用または悪い作用をする腸内細菌の存在も報告している。

 新潟大学による別の研究では、肝硬変の悪化の新たな機序として、腸内細菌が放出する細胞外小胞(一部はエクソソームとしても知られている)が、肝臓に新たな炎症を起こして線維化を悪化させることなどがはじめて明らかになった。

腸内細菌叢の変化は脂肪性肝炎の発症や線維化の進行にも関わる

 腸内細菌叢の変化が、メタボリックシンドロームの肝病変である脂肪性肝炎の発症や線維化の進行に関わることを、富山県立大学が明らかにした。  日本でも肥満を中心とするメタボや2型糖尿病の増加は社会問題となっており、また、メタボでは、飲酒量が少ないにも関わらず肝臓に脂肪が過剰に蓄積する「非アルコール性脂肪性肝疾患」の合併も増えている。日本には同疾患の患者は、1,000万人以上と推定されている。

 さらに、脂肪蓄積から脂肪性肝炎、肝硬変、肝がんへと移行することも明らかになっており、脂肪性肝炎はウイルス性肝炎に代わり、肝硬変および肝がんの主要な原因となるとみられている。

 一方、メタボの発症に、腸に常在する腸内細菌叢の多様性の減少が関係していることが分かってきた。さらに、メタボに対して良い作用または悪い作用をする善玉または悪玉の腸内細菌の存在が報告されている。

 こうした背景から、腸内細菌を調整することで、脂肪性肝炎を予防・治療する方法の開発について、関心が集まっている。

脂肪性肝炎の発症や悪化に関わる腸内細菌 抑制する菌も

 そこで富山県立大学などの研究グループは、徳島大学が開発したヒトの脂肪性肝炎に類似した肝臓病変を呈するマウスを用いて、脂肪性肝炎の発症や肝臓の線維化進行に関与する腸内細菌叢の役割を解析した。

 研究では、マウスに脂肪性肝炎を誘導する餌を4週間または8週間摂取させ、糞便から腸内細菌のDNAを抽出し、その種類や変化を検討した。

 その結果、誘導食を食べたマウスでは、正常マウスと比べて、腸内細菌の種類が変化することが判明。変化した細菌のなかには、免疫の維持に関わる細菌や肝臓の線維化により減少する細菌が含まれていたという。

 また、抗生剤バンコマイシンを誘導食摂食マウスに投与し、人為的に腸内細菌を減少させたところ、肝臓の炎症や線維化が悪化した。肝臓を詳しく調べた結果、死んだ肝細胞を処理するマクロファージが肝臓に多数集積していることが判明した。

 このことから、抗生剤投与による腸内細菌叢の変化が、マクロファージを介して、脂肪性肝炎の炎症や線維化の悪化に関わることが示唆された。

 一方、嫌気性菌を減少させる抗生剤メトロニダゾールの投与により、脂肪性肝炎マウスの炎症や線維化が改善する傾向も示された。

 この結果から、メトロニダゾール投与によって減少した細菌のなかに脂肪性肝炎の発症や悪化に関わる菌があり、反対にバンコマイシン投与で減少した菌のなかに脂肪性肝炎を抑制する菌があることが示唆された。

 研究は、富山県立大学工学部医薬品工学科の長井良憲教授、葛西海智氏(大学院博士前期課程)、古澤之裕准教授、河西文武講師、徳島大学大学院医歯薬学研究部の常山幸一教授、清水真祐子講師、富山県薬事総合研究開発センターの柳橋努主任研究員、髙津聖志所長らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Molecular Sciences」にオンライン掲載された。

肝硬変の悪化に「腸内細菌由来の小胞」が深く関与

肝硬変の病状の進行に、腸内細菌が関わっており、進行した肝硬変ではとくに、100nmと非常に小さい腸内細菌の放出する小胞が、悪化の原因のひとつになることを解明
細菌の小胞は、マクロファージや好中球などの免疫細胞に炎症を惹起し、肝臓の線維化の誘導・悪化に関わりる。

出典:新潟大学、2023年

 新潟大学による別の研究では、肝硬変の悪化の新たな機序として、腸内細菌が放出する100nm前後(ウイルスと同じくらいの大きさ)のきわめて小さい細胞外小胞(一部はエクソソームとしても知られている)が、肝臓に新たな炎症を起こして線維化を悪化させ、さらには、肝臓が産生しむくみや腹水などの原因にもなる血清アルブミンも低下させることをはじめて明らかになった。

 腸内細菌が放出するこの小胞は、マクロファージや好中球などの免疫細胞に炎症を惹起し、肝臓の線維化の誘導・悪化に関わっていると考えられる。

 小胞は、肝硬変モデルマウスに投与すると線維化の悪化、アルブミン低下など、ヒトの進行した肝硬変患者と同じような病態を呈する。この病態で、アルブミンを投与すると、軽減される効果も示唆された。

 肝硬変が進行してくると黄疸、腹水、静脈瘤破裂、肝細胞癌の発症などさまざまな症状や病態を呈し、ウイルス、アルコール、生活習慣など肝障害の原因を解決したとしても、再生能力は乏しく線維化も改善せず進行してしまうことが多くみられる。

 肝硬変が改善しなくなる状態にいたる原因は複数あるが、腸のなかに無数にある腸内細菌もその重要な原因のひとつと考えられている。

 これまでの報告や臨床上の観察から、肝硬変では、「腸では腸内細菌の多様性の低下」「腸運動能の低下」「粘膜のむくみ」「粘液産生の低下」「上皮接着バリア機能の低下」「免疫能の低下」などのさまざまな要因により、腸内細菌の影響を受けやすくなることが観察されていた。

 「今回の研究成果により、新たに進行した肝硬変患者が慢性的に細菌の小胞などによって炎症に暴露され、肝臓および全身に障害を及ぼす機構が示された。この現象は、肝硬変患者に日常的にみられる軽度の炎症・発熱と関連している可能性がある」と、研究グループでは述べている。

 研究は、新潟大学大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野の土屋淳紀准教授、夏井一輝大学院生、寺井崇二教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Liver International」にオンライン掲載された。

富山県立大学工学部医薬品工学科 バイオ医薬品工学講座
Impact of Vancomycin Treatment and Gut Microbiota on Bile Acid Metabolism and the Development of Non-Alcoholic Steatohepatitis in Mice (International Journal of Molecular Sciences 2023年2月17日)
新潟大学大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野
Escherichia coli-derived outer-membrane vesicles induce immune activation and progression of cirrhosis in mice and humans (Liver International 2023年2月8日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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