JAK阻害薬「バリシチニブ」が1型糖尿病の発症早期患者の膵β細胞機能を保護
バリシチニブは本邦においては、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2による肺炎、円形脱毛症の適応を持つJAK阻害薬。
バリシチニブを含むJAK阻害薬は、サイトカインシグナル伝達をブロックする作用を持ち、自己免疫疾患に対する疾患修飾治療薬として使われる。そのため、自己免疫疾患である1型糖尿病の早期においても、膵β細胞の機能を保護するように働く可能性がある。Waibel氏らはこの点を、第2相多施設共同プラセボ対照二重盲検試験として検討した。
研究参加者は、診断後100日以内の1型糖尿病患者91人。無作為に2対1に二分し、バリシチニブ群(60人)、プラセボ群(31人)のいずれかに割付けた。バリシチニブまたはプラセボを1日1回4mg、48週間にわたり経口投与し、食事負荷試験を行い負荷後2時間のC-ペプチド上昇曲線下面積の1分当たり平均値を主要評価項目として比較した。
副次的評価項目は、インスリン投与量、HbA1c、および連続血糖測定(CGM)により把握される血糖管理指標とした。
ベースラインにおいて、年齢(バリシチニブ群18.5±5.7歳、プラセボ群18.7±5.9歳)やHbA1c(同順に6.98±1.28%、7.47±1.31%)、およびインスリン投与量、診断から無作為化割付けまでの日数などに有意差はなかった。
また、主要評価項目として設定した食事負荷後のC-ペプチドも、ベースライン時点では有意差がなかった〔中央値1.81ng/mL/分(四分位範囲1.33~2.48)、同2.02ng/mL/分(1.06~2.62)〕。
48週後の食事負荷試験でのC-ペプチドは、バリシチニブ群が中央値1.96ng/mL/分(四分範囲0.94~2.48)、プラセボ群は1.30ng/mL/分(同0.39~1.90)であり、バリシチニブ群の方が有意に高かった(P=0.001)。
インスリン投与量は、同順に0.41U/kg/日(95%信頼区間0.35~0.48)、0.52U/kg/日(同0.44~0.60)で、前者で少ない傾向にあった。HbA1cに有意差はなかったが、CGMで評価された血糖値の平均変動係数(%CV)は、29.6%(95%信頼区間27.8~31.3)、33.8%(同31.5~36.2)であり、前者は安定した血糖管理が得られていた。
有害事象の発生頻度(78%、84%)および重症度は同等であり、バリシチニブまたはプラセボに起因すると考えられる重篤な有害事象は観察されなかった。
著者らは本研究の限界点として、サンプルサイズが小さいこと、対象の大半(バリシチニブ群の87%、プラセボ群の90%)が白人であること、10歳未満が除外されていることを挙げている。
そのうえで、「1型糖尿病発症後早期にJAK阻害薬であるバリシチニブの投与が開始された患者は、プラセボが投与された患者よりも、48週間後の食事負荷試験によるC-ペプチドレベルが有意に高かった。これは、同薬によって膵β細胞機能が維持されたことを示唆している」と総括している。
なお、本研究においてバリシチニブとそのプラセボは、イーライリリー社が提供した。
[HealthDay News 2023年12月7日]
Copyright ©2023 HealthDay. All rights reserved.
Photo Credit: Adobe Stock