ヒトiPS細胞由来膵島細胞を1型糖尿病患者に移植 医師主導治験の第1症例目を実施 京都大学病院
京都大学医学部附属病院は、1型糖尿病患者を対象とした「iPS細胞由来膵島細胞シート移植に関する医師主導の第1/1b相試験」で、第1症例目の患者に、同種iPS細胞由来膵島細胞シート(OZTx-410)の移植を行ったと発表した。手術は無事に終了し、術後の経過も良好であり、患者はすでに退院している。今後は定期的に外来で経過観察を行い、移植後1年間、最大5年間の安全性を評価する。
移植したiPS細胞由来膵島細胞(iPIC)の皮下での長期的生着と膵島構造の再現に成功すれば、グルコース負荷や低血糖に応答した生理的なインスリン分泌能が戻り、重症低血糖を繰り返す1型糖尿病患者の血糖値の正常化やQOLの向上が期待できる。

ヒトiPS細胞由来膵島細胞を1型糖尿病患者に移植 医師主導治験
iPS細胞由来膵島細胞(iPICs:iPS cell-derived pancreatic islet cells)は、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)と武田薬品工業の共同プログラムである「T-CiRA」での研究を経て見出された膵内分泌前駆細胞集団。
治験で使用した「OZTx-410」は、オリヅルセラピューティクスで開発したiPICsを均等に分散した薄層のシート状製品で、京都大学iPS細胞研究財団(CiRAF)で作製された「再生医療用iPS細胞ストック」を膵島細胞に分化させたもの。
iPS細胞ストックは、健康なドナーから提供された血液などの体細胞をもとにiPS細胞を製造し、各種試験を済ませた後、臨床用として使うことができるiPS細胞のみを冷凍保存したもので、多くの人で免疫拒絶を起こしにくい。
iPS細胞ストックは大量保存が可能で、患者1人ずつの血液からオーダーメイドでiPS細胞を製造するのに比べ、時間や費用を大幅に削減でき、迅速に提供できるメリットがあるとしている。
今回の症例は、OZTx-410を臨床に応用したはじめてのケースになる。OZTx-410は、低分子化合物を用いた独自の精製方法を組み込んで製造された安全で、均一かつ高純度な膵内分泌細胞凝集塊としている。
iPICの皮下での長期的生着と膵島構造の再現に成功すれば、グルコース負荷や低血糖に応答した生理的なインスリン分泌能が戻り、重症低血糖を繰り返す1型糖尿病患者の血糖値の正常化やQOLの向上が期待できる。
研究グループは今回の移植で、手術当日に全身麻酔を施し、腹部正中切開で腹壁深部にアプローチし、左右それぞれにシート挿入が可能なスペースを作った。シート端を合成吸収性縫合糸を使用して固定し、複数枚のシートを移植した。すべてのシートの移植が終了した後に、止血を確認し閉創した。
手術後は一定期間入院下で経過を観察した。これまでOZTx-410による安全性の問題は認められておらず、術後1ヵ月までの経過についても、安全性の観点から大きな問題はないことを試験とは独立した第三者委員会で判断してもらった。
なお研究グループは、手術予定日が決まった後に、治験製品提供者であるオリヅルセラピューティクスにOZTx-410の納入を依頼。手術前日に治験製品提供者から京都大学医学部附属病院分子細胞治療センター(CCMT)に、温度を一定に保つことができる輸送装置に入れてOZTx-410を搬送し、手術当日にCCMTから京都大学医学部附属病院手術室まで運んだ。
今回の治験では、移植後の経過観察を最大5年間継続し、第1症例目の術後1ヵ月までの安全性に大きな問題はないことを確認したため、今後は第2症例目の移植実施に向けた準備を進めるとしている。
なお治験は、日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受け実施されている(橋渡し研究プログラム シーズF「iPS細胞由来膵島細胞を用いた1型糖尿病に対する細胞治療開発」、橋渡し研究支援機関:京都大学)。
膵島移植が適応となる1型糖尿病患者を対象にOZTx-410 (同種iPS細胞由来膵島細胞シート)の安全性を評価する第1/1b相試験 | |
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1型糖尿病患者を対象にOZTx-410の安全性を評価する第1/1b相試験 | |
治験責任医師 | 糖尿病・内分泌・栄養内科 教授 矢部大介 |
実施診療科 | 糖尿病・内分泌・栄養内科、肝胆膵・移植外科(移植手術) |
iPS細胞の提供 | 京都大学iPS細胞研究財団 |
オリヅルセラピューティクス株式会社 |
京都大学医学部附属病院
公益財団法人 京都大学iPS細胞研究財団
オリヅルセラピューティクス株式会社
「iPS細胞由来膵島細胞シート移植に関する医師主導治験」における第一症例目の移植実施について