低所得の糖尿病患者に対する野菜などの無料配布でHbA1cが有意に改善――AHA
Nau氏はこの研究の背景を、「食習慣が治療状態に影響を及ぼす疾患を有する人にとって、生鮮食品や野菜を手軽に入手できるか否かという状況の違いは、疾患管理の社会的決定要因の一つと言える。また健康的な食品と食事に関するカウンセリングの提供は、医療を補完する重要な手段となり得、そのような手法によりこの問題に対処することは、社会経済状況による健康格差の改善につながると考えられる」と語っている。なお、無料の農産物引換券や新鮮な果物・野菜の割引配送の有用性は、過去の研究からも示唆されている。Nau氏らはこの点について、無作為化比較試験を行いエビデンスの強化を試みた。
この研究は、成人2型糖尿病患者を対象に行われた。研究参加者は、米国の低所得者対象公的医療保険であるメディケイド加入者、またはカイザーパーマネンテ加入者から募集された450人で、58.3%が米国農務省の食糧不安の定義(活動的で健康的な生活を送るのに十分な食糧を継続的に入手できない状態)に該当した。平均年齢は59歳であり、女性が65%、ヒスパニック系が85%を占め、BMIは平均34.1、HbA1cは9.4%だった。また、約4分の3は血圧が高く、AHAの定義に基づく血圧上昇(収縮期血圧120~129/拡張期血圧80mmHg未満)以上の血圧カテゴリーに該当した。
全体を各群150人ずつの3群に分け、1群は世帯人員に合わせて週に90~270ドル相当の農産物を配送する高介入群、別の1群は配送する農産物の量を90~180ドル相当とする低介入群、残りの1群は非介入の対照群とした。介入を行う2群に対しては、管理栄養士または栄養士による遠隔カウンセリングを無料で提供し、22%の患者がこれを利用した。
HbA1cはベースライン(介入開始前4週間以内)と、6カ月間の介入終了時、および介入終了から60~90日後という3時点で測定された。その結果、介入を行った2群の参加者は、介入後のHbA1cが平均0.32ポイント有意に低値となっていた。高介入群と低介入群とで、HbA1c改善幅に有意差はなかった。二次解析から、対象者が農産物の無料配布を受け取っている期間はHbA1cの改善幅が大きく、介入終了後に改善幅が縮小したことが示された。また対照群との比較において、介入を行った2群は食糧を確保できている割合が約230%、栄養を確保できている割合が約370%高値であったことも分かった。
報告されたこの結果について、コロンビア大学の終身在職教授でAHAのフェローであり最高臨床科学責任者のMitchell S. V. Elkind氏は、AHA発のリリースの中で、「この研究は、人々が健康的な食品を定期的に摂取できれば、健康状態が改善されるという考え方を裏付けるものだ」との論評を述べている。同氏によると米国では現在、1300万人の子どもを含む4400万人以上が食糧不安に直面しているという。
なお、一部の発表者が、生鮮食品関連企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。また、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。
[HealthDay News 2023年11月13日]
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