【新型コロナ】腸内環境が新型コロナの重症化や合併症の個人差に関与 ヒト腸内細菌などを介した免疫応答が影響

2022.10.12
 東京医科大学、国立国際医療研究センター、理化学研究所、江崎グリコは、新型コロナや新型コロナにともなう臓器合併症に特徴的な腸内細菌、腸内代謝物質、サイトカインの変化を同定したと発表した。

 横断研究で同定した腸内細菌や腸内代謝物質を高い割合で有する患者は、新型コロナの肺合併症リスクが有意に高いことを、コホート研究で証明した。

 同じ日本人でも、新型コロナウイルスの感受性や新型コロナにともなう合併症リスクの違いがあるのは、この腸内環境の個人差が寄与しているからで、腸内環境がワクチンの効果や副反応の個人差にまで影響している可能性も考えられるとしている。

腸内細菌を制御・増強する治療は新型コロナ治療に補助的な役割を果たす可能性

 東京医科大学、国立国際医療研究センター、理化学研究所、江崎グリコは、新型コロナや新型コロナにともなう臓器合併症に特徴的な腸内細菌、腸内代謝物質、サイトカインの変化を同定したと発表した。

 新型コロナには、「腸内の口腔由来細菌やアミノ酸と過剰な免疫応答との正の関係」や「腸内の短鎖脂肪酸産生菌、糖代謝物質、神経伝達物質と免疫応答との負の関係」があるなど、特定の細菌種や代謝物質を介した、ユニークな免疫応答があるとしている。

 新型コロナの肺合併症・重症者で、細菌や代謝物質を介した免疫応答はもっとも顕著で、次いで凝固障害、腎障害、肝障害が多く、下痢では極端に少ないことも分かった。

 新型コロナで変動する菌種は、糖尿病、炎症性腸疾患、PPIとは異なり、関節リウマチとは類似することも判明。

 また、新型コロナや重症者での膨大かつ特異的な腸内細菌種の変動を、腸内細菌種をバイオマーカーとして利用し、ハイリスク患者の層別化ができる可能性も示した。

 「プロバイオティクス、プレバイオティクス、バクテリオファージなど、特定の細菌を制御または増強する治療法は、免疫応答を通じて新型コロナ治療に補助的な役割を果たす可能性があります」と、研究者は述べている。

 研究は、東京医科大学消化器内視鏡学分野の永田尚義准教授、河合隆主任教授、国立国際医療研究センター国際感染症センターの石金正裕氏、木下典子氏、大曲貴夫センター長、産学連携推進部の木村基部長、感染病態研究部の杉山真也テニュアトラック部長、杉山温人センター病院長、ゲノム医化学プロジェクトの溝上雅史プロジェクト長、国府台病院の上村直実名誉院長、江崎グリコ基礎研究室の青木亮氏、西嶋智彦チーフ、井ノ岡博室長、理化学研究所生命医科学研究センターの増岡弘晃特別研究員、竹内直志特別研究員(研究当時)、須田亙副チームリーダー、大野博司チームリーダーらの研究グループによるもの。研究成果は「Gastroenterology」にオンライン掲載された。

出典:東京医科大学、2022年

新型コロナの重症化・合併症の個人差の根底に腸内環境を介した免疫応答の違いが

 新型コロナの8割は軽症のまま治癒するが、2割は重症肺炎となる。重症化は、宿主の過剰な免疫応答「サイトカインストーム」により生じると考えられている。

 一方、ヒトの腸内には千種類以上にも及ぶ腸内細菌があり、菌が作り出す、あるいは分解する代謝物質とともに腸内環境が構築されている。この腸内環境は、免疫系を適切にコントロールし、健康を維持する役割を担っている。

 新型コロナウイルスの感受性や新型コロナにともなう重症化・合併症の個人差の根底に、腸内環境を介した免疫応答の違いがある可能性がある。

 そこで、東京医科大学、国立国際医療研究センター、理化学研究所、江崎グリコの研究グループは、腸内細菌、その代謝機能、代謝物質などの腸内環境と、サイトカイン変動との密接な関係を解明する研究に着手した。

 新型コロナ感染症患者と非感染者の糞便中のマイクロバイオームとメタボローム、血液中のサイトカインを網羅的に解析した結果、新型コロナウイルス感染症の重症化や合併症の個人差に、腸内細菌が関わっていることを明らかにした。

 新型コロナ患者やその合併症を有する患者では、ユニークな腸内環境の変化がみられ、過剰な免疫応答と関わっているという。同じ日本人でも新型コロナウイルスの感受性や、新型コロナにともなう合併症リスクの違いがあるのは、腸内環境の個人差が寄与している可能性がある。

 新型コロナで変動する菌種は、日本と香港で類似しているが、米国とは異質であることも判明した。腸内環境の個人差は、ワクチンの効果や副反応の個人差にも影響する可能性があり、今後の研究が期待されるとしている。

新型コロナと腸内細菌の関連を探る研究の課題に挑む

 新型コロナでのヒト腸内細菌研究には、いくつかの課題があった。第1に、新型コロナの病態と腸内細菌叢と関係を調べるために、感染直後または感染にともなう病態がおきる前に、糞便や血液を調べることが重要となるが、新型コロナで入院した直後の便や血液を100例以上の対象者で調べた研究はなかった。腸内細菌叢の変動は、個人間の多様性が高いため、症例数の担保が必要となる。

 第2に、新型コロナでは肺外合併症が報告されているが、腸内細菌や免疫応答との関係は調べられていなかった。

 第3に、新型コロナ群と対照群を比較する際に、患者背景のバランスがとられていない。臨床研究では患者に多様な背景があり、新型コロナと腸内細菌叢・代謝物との真の関連を同定するには、病気(ケース)-非病気(コントロール)間で背景因子を同率にすることが重要となる。

 第4に、新型コロナ患者でみられた腸内細菌変動は、新型コロナに特異的であるかについては不明だった。さまざまな病気で変動する細菌と新型コロナで変動する細菌を比較検証することが重要となる。

 第5に、新型コロナで同定された細菌変動が、日本以外の国で異なるのかは不明だった。もし、新型コロナで特徴的な腸内細菌種が他の病気と判別でき、他国との一致が確認できれば、細菌種を世界的なバイオマーカーとしてウイルス感受性や重症化の予測に利用できる可能性がある。

 そこで、研究グループは今回の研究で、新型コロナで入院した日本人患者と、年齢、性別、患者背景因子を1:1でマッチした非新型コロナコントロール症例、計224例で、新型コロナ入院直後の特徴的な腸内環境と、それにともなう免疫応答を調べた。

 次に、肺炎を主体とする重症や肺外合併症に特徴的な腸内環境と免疫応答を調べた。さらに、新型コロナで変動する腸内細菌と他の疾患で変動する腸内細菌との一致、日本と香港やアメリカの新型コロナ関連菌種との一致を検証した。

個人が有している腸内細菌の割合や代謝物質の濃度が新型コロナ合併症の発症に寄与
腸内細菌種はハイリスク患者を層別化するためのバイオマーカーとして利用できる可能性

 その結果、主に次の結果・知見が得られた――。

1. 新型コロナ患者に特徴的な腸内細菌、腸内代謝物質、血液サイトカインを複数発見

 研究グループは、糞便のショットガンメタゲノムシークエンス解析、メタボローム解析、血液のサイトカイン・ケモカイン解析から、それぞれ腸内細菌2,186種、微生物の有する機能代謝遺伝子(KEGG orthology)7,664個、腸内代謝物質169種、サイトカイン・ケモカイン70種を同定し、これらと新型コロナや合併症との関係性を詳細に調べた。

 まず、新型コロナ患者で顕著(FDR<0.05)に変化する55種の腸内細菌種を同定。その菌種の特徴として、口腔由来細菌(Streptococcus spp、Actinomyces spp、Rothia sppなど)の増加、Ruminococcus sppの増加、短鎖脂肪酸を産生する菌(Butyricicoccus spp、Dorea spp、Eubacterium spp、Roseburia spp、Bifidobacterium sppなど)の低下が認められた。

 これら菌種が患者背景によって影響を受けるのかを検証したところ、喫煙者、抗生物質使用者、脂質異常症を有する患者は、それらを有さない患者に比べ、新型コロナに関連する菌種の一部の存在量を有意に増加させることが分かった。

 次に、新型コロナで顕著(FDR<0.05)に変動する腸内代謝物質87種類(増加30、減少57)を同定した。新型コロナで増加した腸内代謝物質のうち、半数以上(53%)がアミノ酸だった。

 一方、減少した腸内代謝物質は、AcetateやButyrateなどの短鎖脂肪酸や、Maltose、Sucroseといった糖代謝物質だった。また、γ-アミノ酪酸(GABA)、Dopamine、Serotoninなどの神経伝達物質、および神経伝達物質合成に必要なPyridoxineやVitamin B6も新型コロナで減少することを発見した。

 次に、菌が有する代謝機能遺伝子に注目したところ、新型コロナ患者で有意に(P<0.05)変動する2,248個の遺伝子を同定した。うちValine、Leucineなどの分岐鎖アミノ酸分解経路や、Spermidine、Putrescine、Ornithine、Glycineなどのグルタチオン代謝経路、ビタミンB6代謝経路にかかわる菌の機能遺伝子が変化しており、代謝物質の変化と一致していた。

 この結果は、新型コロナで検出された腸内代謝物の変化は、細菌代謝の変化に起因することを示唆している。

 最後に、新型コロナで顕著(FDR<0.05)に変動するサイトカイン・ケモカイン56個を同定した。うちIL-6、IL-18、CXCL9、CXCL10、CXCL-13、CCL3、GM-CSFなどが新型コロナ患者で増加していた。この結果は、新型コロナとサイトカイン変動との関係をまとめた研究報告とほぼ一致していた。

 一方、IL-12、IL-13、CCL21、CCL22、CXCL12などのサイトカインが新型コロナで減少することも判明した。

出典:東京医科大学、2022年

2. 「腸内細菌-代謝物質-サイトカイン」の特徴的な相互関係が新型コロナに存在することを明らかに

 研究グループは、新型コロナで特徴的だった腸内細菌変化と代謝物質変化の関係に着目。興味深いことに、新型コロナ患者で増加した口腔由来細菌種を含むほとんどの菌種が、新型コロナ患者で増加したさまざまなアミノ酸と正の相関を示すことが示されたという。

 一方、新型コロナで減少した短鎖脂肪酸産生菌やBifidobacteriumは、新型コロナで減少した短鎖脂肪酸や糖代謝物質と正の相関を示すことも判明しまた。

 さらに、短鎖脂肪酸産生菌やBifidobacteriumは神経伝達物質、PyridoxineやビタミンB6とも正の相関が示された。

 以上から、新型コロナと対照群の間で明瞭な腸内細菌の変動パターンがみられ、それらの変動はまた、アミノ酸、糖質、神経伝達物質などの特定の代謝産物変動とも密接に関与していることが見出された。

 研究グループは次に、新型コロナで特徴的だった腸内細菌・代謝物質変化がサイトカイン動態にも関係しているかを調べた。すると、驚くべきことに、新型コロナで増加した口腔由来細菌とアミノ酸は、いずれも新型コロナで上昇した炎症性サイトカイン(IFN-γ、IL-6、CXCL9、CXCL10など)と有意な正の相関を示し、新型コロナで減少したサイトカインとは負の相関を示した。

 さらに興味深いことに、分岐鎖アミノ酸(Valine、Leucine)やGlutamine、Threonine、Prolineなどのアミノ酸は、共有の腸内細菌変動パターンを示し(一致率>72.7%)、また同じサイトカイン変動パターン(一致率>80%)を示した。

 この結果は、新型コロナでは、腸内の口腔由来細菌やアミノ酸が過剰な免疫応答を惹起する可能性を示唆している。

 一方、新型コロナで減少した短鎖脂肪酸産生菌と腸内の糖代謝物質、神経伝達物質のいずれも、新型コロナで上昇した炎症性サイトカインと負の相関を示し、新型コロナで減少したサイトカインと正の相関を示した。

 この結果は、腸内にある短鎖脂肪酸産生菌、糖代謝物質、神経伝達物質が、新型コロナでの過剰な免疫応答の潜在的な制御因子として機能していることを示唆している。

 研究グループは今回の研究で、新型コロナに特徴的な腸内細菌の変化、それに対応する代謝物質変化、さらにその両者の変化に対応するサイトカイン変動パターンを複数発見。つまり、菌種―代謝物質―サイトカインの相互関係が新型コロナの病態に密接に関係していることを見出した。

3. 「腸内細菌-代謝物質-サイトカイン」が新型コロナ肺合併症と肺外合併症と関連

 新型コロナでは、さまざまな臓器合併症が起きることが分かっているが、肺合併症以外の臓器合併症と腸内環境との関係や、その変化にともなう免疫応答との関係は不明だった。

 そこで研究グループは、肺合併症を主体とする重症患者や肺外の合併症を有した患者で、これらの関係性を調べた。新型コロナの合併症で有意(P<0.05)に変動した腸内細菌種、代謝物質、サイトカインの個数は、合併症によりさまざまだった。

 しかし、それぞれの合併症に有意に変動した腸内細菌とサイトカインの相関数、または有意に変動した腸内代謝物質とサイトカインの相関数に注目すると、合併症により特徴的なパターンがみられた。

 すなわち、両者の間で有意(P<0.05)な相関を示した数は、肺合併症・重症で最も顕著であり、次いで凝固障害、腎障害、肝障害で、下痢では極端に乏しいことを発見した。

 これは、腸内細菌や代謝物質を介した免疫応答が、臓器障害の部位間で異なることを示している。また、腸内環境変化を介した免疫応答が、肺合併症のみならず凝固障害、腎障害、肝障害の発症や病態進行にも関係していることを示唆している。

 さらに、新型コロナで顕著に減少した短鎖脂肪酸産生菌は、重症、凝固障害、腎障害、肝障害でも同様に有意に減少することが判明した。また、実際に腸内の短鎖脂肪酸(AcetateやButyrate)は重症や凝固障害で有意に減少していていることを確認した。

 このように、短鎖脂肪酸は新型コロナやその合併症の病態に深く関わっていることが分かり、この物質を増やすことで新型コロナの合併症の治療または予防になる可能性が示唆された。

 次に、菌種-代謝物質-サイトカインの相互関係に注目したところ、腸内細菌-糖代謝物質-サイトカインの相互関係が、重症、凝固障害、腎障害、肝障害で共通してあることを発見した。

 たとえば、重症例で増加したEnterococcus faecalisは、Glucose、Galactose、Acetate、Butyrate、Propionateと負の相関があり、これらの代謝物質はCCL22と正の相関があった。さらに、この菌種はCCL22と負の相関を示した。

 実際、これら菌種と糖代謝物質の負の関係、菌種とケモカインの負の関係の結果を裏付けるように、重症者ではこれらの糖質やCCL22の減少が確認された。

 同様に、肝障害例で減少したFaecalibacterium prausnitziiは、Citric acidと負の相関があり、これは肝細胞増殖因子(HGF)とも正の相関があった。また、本菌種はHGFと負の相関を示した。実際、肝障害例ではCitric acidとHGFの増加が確認された。

 このような1:1の関係は他の新型コロナ合併症でも確認することができ、特定の腸内細菌に対応する代謝物変化やサイトカイン変化は、新型コロナ合併症の病態に寄与していることが示唆された。

出典:東京医科大学、2022年

4. 個人が有する腸内細菌や代謝物の割合が新型コロナ合併症のリスク:コホート研究

 入院直後に採取した糞便中の腸内細菌と代謝物質を同定し、その後新型コロナ患者を追跡しその後の合併症発症や病態悪化との関係をみる研究(コホート研究)は、横断研究で同定した「腸内細菌や代謝物質の変化」が合併症による二次的なものなのか、それとも合併症の発症に寄与しているのかを区別するのに役立つ。

 そこで研究グループは、入院直後の便採取(ベースライン)後の肺合併症、心血管・血栓イベント、D-dimer値の悪化の累積発生率を調べた。横断研究で同定したいくつかの菌種の割合の高さと肺合併症・重症との間に有意な関連が示されたが、コホート研究で、これら菌種を高い割合で有する患者はその後の肺合併症リスクが有意に高いことを証明した。

 このような結果は凝固障害でもあてはまり、たとえば、横断研究で同定したBilophila wadsworthiaの割合の低さと凝固障害(D-dimer高値)との間で有意な関連があり、コホート研究でこの菌種を低い割合で有する患者は、心血管・血栓イベントのリスクが高いこと証明した。

 同様のことは腸内代謝物質でもあてはまり、横断研究で同定したいくつかの糖代謝物質の濃度の低さは肺合併症・重症と有意な関連があり、コホート研究で、これら糖代謝物質の濃度が低い患者は肺合併症リスクが有意に高いことを証明した。

 たとえば、凝固障害で、横断研究で同定したAcetateの濃度の低さと、凝固障害(D-dimer)との間には有意な関連があり、Acetateの濃度の低い患者は心血管・血栓イベントのリスクが高いことを示した。

 今回世界ではじめて、コホート研究から「個人が有している腸内細菌の割合や代謝物質の濃度が新型コロナのさまざまな合併症の発症に寄与していること」を明らかにした。

出典:東京医科大学、2022年

5. 新型コロナで変動した腸内細菌種は疾患特異的

 腸内細菌種は、ウイルスの感受性や重症新型コロナのハイリスク患者を層別化するためのバイオマーカーとして利用できる可能性がある。

 そこで研究グループは、約5,000例の膨大な生活習慣・臨床情報とマイクロバイオーム情報がデータ化された「Japanese 4D (Disease Drug Diet Daily life) マイクロバイオームコホートデータ」を用いて、さまざまな疾患で変動する菌種を調べた。新型コロナで変動した菌種が、他疾患による変動と明瞭に区別でき、新型コロナ特異的であるかを検証した。

 その結果、新型コロナおよび他疾患による変動する菌種の相関の強さは、多くが中程度以下の低い相関だった[膠原病(rho, 0.36)、炎症性腸疾患(0.19)、糖尿病(0.22)、慢性閉塞性肺疾患(0.39)、PPIs(0.40)]が、関節リウマチで変動する菌種と新型コロナで変動する菌種は高い相関を示した(0.65)。

 疫学研究で関節リウマチは新型コロナの発症・重症化のリスクが高いことが示されており、両疾患が特定の腸内細菌叢を介した病態を一部共有する可能性が示唆された。一方、関節リウマチ以外では、新型コロナで変動する菌種は特異的であることが示唆された。

 次に、腸内細菌種をマーカーとして疾患判別ができることを立証するため、腸内細菌を用いた機械学習法による新型コロナ判別モデルを構築した。その結果、新型コロナとそれ以外を分ける判別の精度は、高い値を示すことが示された。

 新型コロナ判別の精度は他の疾患と比較して高い値を示したが、関節リウマチとはあまり差がなく、新型コロナとして誤分類される可能性が判明した。また、重症と軽症とを判別するモデルも精度が比較的高い結果になったが、既知の臨床的リスク因子を加えると有意にその精度は増加した。

 以上から、腸内細菌種は、ウイルスの感受性や重症新型コロナのハイリスク患者を層別化するためのバイオマーカーとして利用できる可能性が示唆された。

6. 日本人の新型コロナで変動する菌種は香港と類似し米国とは異質

 研究グループは次ぎに、日本人の新型コロナに特徴的な腸内細菌変動が日本人に特異的かを検証するため、香港のコホート(n=88)と米国のコホート(n=28)のメタゲノムデータセットを用いて、日本と同様に解析を行った。

 その結果、新型コロナで変動する腸内細菌は、日本と香港との間で中程度の一致度を示した。これは、この判別モデルがアジアでも利用できる可能性を示唆している。

 一方、日米間での重症新型コロナで変動した腸内細菌の一致度は極めて低い結果になった。疫学データでは、新型コロナ関連の死亡者数は、日米間で顕著に異なっており、細菌を介した免疫応答の違いがその理由のひとつである可能性が示唆された。

「腸内細菌-腸内代謝物質-サイトカイン」の関係は、他の免疫疾患や感染性疾患の病因を解明するのにも役立つ可能性

 「新型コロナや重症者での膨大かつ特異的な腸内細菌種の変動は、腸内細菌種をバイオマーカーとして利用し、ハイリスク患者の層別化ができる可能性があります。また、プロバイオティクス、プレバイオティクス、バクテリオファージなど、特定の細菌を制御または増強する治療法は、免疫応答を通じて新型コロナ治療に補助的な役割を果たす可能性があります」と、研究グループでは述べている。

 「今回、新型コロナ患者やその合併症を有する患者ではユニークな腸内環境の変化がみられ、過剰な免疫応答と関わっていることが分かりました。同じ日本人でも、新型コロナウイルスの感受性や新型コロナにともなう合併症リスクの違いがあるのは、この腸内環境の個人差が寄与しているかもしれません」。

 「腸内環境の個人差は、ワクチンの効果や副反応の個人差にも影響する可能性があり、今後の研究が期待されます。今回我々が明らかにした腸内細菌-腸内代謝物質-サイトカインの広範な関係は、新型コロナだけでなく、他の免疫疾患や感染性疾患の病因を理解するための重要なカタログとなりえます」している。

東京医科大学 消化器内視鏡学分野
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター (NCGM)
国立研究開発法人 理化学研究所
江崎グリコ
Human gut microbiota and its metabolites impact immune responses in COVID-19 and its complications (Gastroenterology 2022年9月22日)

Japanese 4D (Disease Drug Diet Daily life) マイクロバイオームコホートデータ

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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